ロシアNIS調査月報
2008年9-10月号
特集◆ロシア貿易の
チャンスとリスク
特集◆ロシア貿易のチャンスとリスク
調査レポート
2007年のロシアの貿易統計
調査レポート
「レイデル」をめぐる諸問題
調査レポート
カリーニングラード経済特区の家電産業
講演録
ロシアのビジネスチャンスを探せ
データバンク
2007年のロシア極東の貿易

ビジネス最前線
水源から蛇口までロシアの水環境に貢献
所長日誌
G8サミットにデビューしたメドヴェージェフ大統領
クレムリン・ウォッチ
ロシア外交の優先課題
―大統領「外交コンセプト」発表
日本センター所長
リレーエッセイ
タシケント編
新しいキャラバンサライ
ドーム・クニーギ
田畑伸一郎編著『石油・ガスとロシア経済』
エネルギー産業の話題
ロシア石油化学分野の最新の動き(その2)
自動車産業時評
ロシアの小型商用車市場
ロシアビジネスQ&A
◎ロシアの雇用情勢・労働環境
◎日ロ合弁の配当への課税
業界トピックス
2008年6-4月の動き
◆サントリーがロシアでウイスキーセミナー
◆日本企業のニーズを見据え物流を構築
2008年1〜6月の通関統計


2007年のロシアの貿易統計

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
データ解説
表1 ロシアの貿易高の推移(国際収支ベース)
表2 ロシアの貿易高の推移(通関統計ベース)
表3 ロシアの輸出商品構成の推移
表4 ロシアの輸入商品構成の推移
表5 ロシアの品目別輸出額の推移
表6 ロシアの品目別輸入額の推移
表7 ロシアの主要経済圏との貿易高
表8 2007年のロシアの相手国別貿易高(上位40カ国)
表9 2007年のロシアの相手国別貿易高(大陸別、五十音順)
表10 2007年のロシアの連邦構成体別貿易高
表11 2007年の主要品目の相手国別輸出高
表12 2007年の主要品目の相手国別輸入高

はじめに
 ロシア連邦関税局が発行する『ロシア連邦外国貿易通関統計』の2007年年報が刊行され、2007年の同国の貿易動向に関する詳しいデータが明らかになった。そこで以下では、恒例により、2007年のロシアの貿易統計を詳細に紹介するとともに、データに関する解説をお届けすることにする。


「レイデル」をめぐる諸問題

高知大学大学院 准教授
塩原俊彦

はじめに
1.「レイデル」の概要
2.「レイデル」対策

はじめに
 ロシアの内実に肉迫するために、本稿では、「レイデル」を取り上げる。パーヴェル・アスタホフ著『レイデル』というフィクションがモスクワで話題になったのは2007年のことだ。英語でいえば、急襲者を意味するraiderを意味している。1981年の映画Raiders of the Lost Ark(レイダーズ失われた聖櫃)というインディ・ジョーンズの冒険映画を思い出してほしい。アスタホフの本によると、「レイデル」とはもともと、スペインの複数の艦船に一隻で攻撃した、英国の軍艦をさしていたという。ロシアでは、これが転じて、「企業や不動産などの不法な略奪者」、「非友好的な企業乗っ取り」を意味するようになった。「レイデル」には、背後に回って攻撃する者という意味があり、企業などをターゲットに搦め手で略奪する人物をさす。海外からロシアへの輸入品を差し押さえて、売却してしまう、商品を攻撃対象とした「レイデル」もいる。「レイデル」はロシアだけの現象ではないが、いわゆる企業統治、捜査・予審制度、裁判制度など、多くの法制度の不備などがロシアにおける「レイデル」の異常な増殖につながっている。本稿では、こうした「レイデル」をめぐる現状を分析し、その問題点を指摘したい。同時に、日本企業のロシア進出に伴うリスクとして、ロシアにおける企業経営の舵取りに役立ててほしい。


カリーニングラード経済特区の家電産業

ランド研究所 研究員
A.ウサノフ

はじめに
1.カリーニングラード州の経済特区法
2.カリーニングラード州における家電生産
3.その他のエレクトロニクス企業
結論
参考:カリーニングラードの主な家電メーカー

はじめに
 カリーニングラード州は、ここ数年のあいだに、ロシアにおける各種家電製品(白物家電・娯楽家電:テレビ、掃除機、洗濯機)の主要生産地になった。1990年代、カリーニングラード州では、こうした製品は、実際まだ生産されていなかった。だが数年後、この地域でテレビを生産していない大規模なテレビ・メーカーは一つもなくなった。この産業部門が生まれ、急成長したことは憶測を呼んでいる。カリーニングラード州でのテレビ生産は、2001年から2007年にかけて37倍になり、2007年には540万台に達した。この地域で機械製品のアセンブリー企業が生まれ、その後、急速に発展したことは、多分に同州に経済特区が存在したことによって説明できる。生産企業は関税その他の支払いを著しく節税できたからである。
 2006年の新しい経済特区法に定められた移行期間は2016年に終了するが、これはアセンブリー企業にとって主な関税特恵が廃止されることを意味している。これは、自ずと、同州のアセンブリー企業の将来という問題を引き起こす。その将来の発展にはどのような展望があるのだろうか。飛躍と同じぐらい(それ以上ではないにしても)急激に没落するのではないだろうか。
 本稿では、カリーニングラード州における機械工業生産(とくに家電産業)の発展の経緯を考察し、その発生と急成長を刺激した主要因を明らかにする。本稿は、現状を明らかにすることを中心とし、またこの部門における企業の発展の主たる問題を取り扱う。さらに、その発展の将来展望を試みる。(翻訳:立正大学経済学部 教授 蓮見雄)


講演録
ロシアのビジネスチャンスを探せ

1.日ロ間の新たなビジネスチャンスを模索する
(ロシアNIS経済研究所 所長 遠藤寿一)
2.ロシア極東開発の展望
(ロシアNIS経済研究所 副所長 高橋浩)
3.ロシアの産業政策の行方
(ロシアNIS経済研究所 次長 坂口泉)

はじめに
 (社)ロシアNIS貿易会・ロシアNIS経済研究所では6月24日、東京の如水会館において、「ROTOBO ロシアセミナー ―新時代のロシアと日ロ経済関係を占う―」を開催いたしました。ロシアで、メドヴェージェフ大統領とプーチン首相による新たな二頭体制が成立したことを受け、ロシア情勢と日ロ経済関係が今後どのように展開していくかを占うというのが、その趣旨でした。また、ロシアNIS経済研究所では、この6月1日に三菱商事葛ニ務部の遠藤寿一顧問が所長に就任いたしましたので、今回のセミナーは遠藤所長率いる研究所の新体制のお披露目の機会ともなりました。
 以下では、セミナーにおける4本の報告のうち、今号の特集「ロシア貿易のチャンスとリスク」にとくに関連した3本の報告要旨をご紹介いたします。ここで紹介を割愛する報告「プーチン内閣の分析 ―経済官庁・閣僚を中心に―」の内容については、『ロシアNIS経済速報』5月15日号および6月25日号をご参照ください。


データバンク
2007年のロシア極東の貿易

データ解説
1.ロシア極東連邦管区全体
2.サハ共和国
3.カムチャッカ地方
4.沿海地方
5.ハバロフスク地方
6.アムール州
7.マガダン州
8.サハリン州

  例年どおり、2007年のロシア極東連邦管区の貿易データを、ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所(P.ミナキル所長)よりご提供いただいたので、ここに紹介する。関連するレポートとして、極東の外国投資受入については本誌2008年8月号77〜85頁をご参照いただきたい。
 以下では、ロシア極東連邦管区全体と各州の最新の貿易動向について、(1)主要相手国との輸出入高、(2)輸出商品構成、(3)輸入商品構成をそれぞれ表にまとめてお届けする。なお、ユダヤ自治州、チュクチ自治管区、コリャーク自治管区は重要度が低いので割愛した。


ビジネス最前線
水源から蛇口までロシアの水環境に貢献

積水化学工業(株) 環境ライフラインカンパニー
常務執行役員 丸下芳和さん

はじめに
 2008年7月、積水化学工業(株)は住友商事、ロシアの上下水道工事会社VKS社とともに、サンクトペテルブルグ近郊において、強化プラスチック複合管の合弁事業を開始することを発表しました。水道管は普段の生活では目にしなくとも、国民生活の向上と産業の発展には欠かせません。積水化学工業が長年にわたって培ってきた技術と経験がロシアの水環境に果たす役割は大きく、日ロ経済関係のさらなる発展の原動力になる予感がします。そこで今回は、同社のロシア事業の責任者、丸下さんにロシア市場進出までの経緯を中心にお話を伺いました。


クレムリン・ウォッチ
ロシア外交の優先課題
―大統領「外交コンセプト」発表―

  7月初め(12日)にロシアの外交方針に関する戦略的な文書が発表されました。「ロシア連邦対外政策コンセプト」という表題です。2000年6月に発表された同種の文書の改訂版という位置づけです。大統領交替にあわせて発表されたものでしょう。もっとも、メドヴェージェフ大統領が就任以前から対外戦略を練っていたということでもないので、新大統領が満を持した戦略、というほど大げさなものでないことをお断りしておきます。(月出皎司)


エネルギー産業の話題
ロシア石油化学分野の最新の動き(その2)

  前回に引き続き、今回もロシアの石油化学分野における設備の増強や新規建設の動きに焦点を当てます。
 前回は、ポリプロピレン生産部門とメタノール生産部門を取り上げました。今回は、ペットボトルの原料として知られているポリエチレンテレフタラート(PET)と、断熱材や水道管等に利用されるポリ塩化ビニールを例として取り上げ、それらの部門における最新の動きについてご紹介いたします。


自動車産業時評
ロシアの小型商用車市場

  好景気に沸くロシアでは、乗用車市場のみならず、商用車市場も活況を呈し始めています。小型商用車(LCV)部門も例外ではなく、ここ数年、毎年10〜15%のテンポで市場規模が拡大しており、Avtostatというロシアの調査機関によれば、2007年時点の台数ベースでの市場規模は22万4,000万台に達したとされています(『コメルサント・ビジネスガイド』誌、2008. 5.21)
 LCVの市場では、ガゼリとソボリという人気モデルをかかえる国産メーカー「GAZ」(ゴーリキー自動車工場)のプレゼンスが圧倒的に強く、その台数ベースの市場シェアは70%を越えています。また、Sollers(旧セヴェリスターリ)、イジアフト、TagAZ(タガンログ自動車工場)等も健闘しており、国内生産車の市場シェアの合計は9割前後に達するといわれています(上掲『コメルサント・ビジネスガイド』誌)。
 本稿では、国産メーカーの動きを中心に、ロシアのLCV市場の現状をご紹介いたします。