ロシアNIS調査月報2009年5月号特集◆難局下で新境地を拓く日ロ経済関係 |
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特集◆難局下で新境地を拓く日ロ経済関係 |
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調査レポート
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岐路に立つロシア経済 ―マクロ経済と財政の視点から― |
調査レポート
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最近5年間の日ロ貿易の急拡大と今後の展望 |
調査レポート
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日露間のエネルギー協力はどこまで来ているか? |
調査レポート
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世界同時経済危機発生後のロシア労働市場 |
調査レポート
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ロシア大手資本が陥った苦境 ―金属部門を中心に― |
調査レポート
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極東発展プログラムの実施状況と展望 |
ビジネス最前線 |
大きな転機を迎えるロシア家電市場 |
クレムリン・ウォッチ |
プーチン首相のリベラル路線選択? |
データバンク
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2008年のロシア経済統計 |
データバンク
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ロシアの鉱工業・農林水産業の品目別生産高(1990〜2008年) |
データバンク
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2008年のロシアの石油産業 |
研究所長日誌
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日本キルギス・ビジネスフォーラムに寄せて |
ドーム・クニーギ
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蓮見雄編『拡大するEUとバルト経済圏の胎動』 |
エネルギー産業の話題
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ロシア石油化学分野の最新の動き(その5) |
自動車産業時評
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モスクワとペテルブルグの乗用車販売データ |
ロシアビジネスQ&A
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◎モスクワでの住まい探し |
業界トピックス
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2009年3月の動き ◆モスクワで日本産食品PRイベント ◆ロシア事業を強化するドイツ化学大手 2008年1〜12月の輸出入通関実績(確定値) 2009年1〜2月の輸出入通関実績 |
岐路に立つロシア経済
―マクロ経済と財政の視点から―
北海道大学スラブ研究センター 教授
田畑伸一郎
はじめに
1.2008年の経済概況
2.為替レートとマネーサプライをめぐる動向
3.財政をめぐる動向
4.2009年の展望
はじめに
ロシア経済にとっての2008年は、7月までは空前の原油価格高騰により、2007年までの高成長を維持したが、世界金融危機が表面化した9月以降、経済状況が急速に悪化するという浮き沈みの激しい1年となった。7月頃までの貯金が大きかったので、2008年全体としてのマクロ経済実績は、国家予算を含めて、それほど悪くない結果となっている。しかし、年末にかけて生産減少が顕著になり、とくに、ルーブルの下落と資本の流出という2つの点で、9〜10月時点で予測された以上の経済の混乱が生じた。明らかに、2000年以来8年にわたって高成長をもたらした油価高騰に基づく成長メカニズムは終焉し、ロシア経済は岐路に立っていると言える。2009年については、油価低迷のなかで、ロシアもマイナス成長に陥るという予測がある一方、ルーブルが安くなることで、輸入代替型の経済成長に移り、比較的短期間で経済が回復するという予測も出されている。
最近5年間の日ロ貿易の急拡大と今後の展望
ロシアNIS経済研究所 所長
遠藤寿一
はじめに
1.最近5年間の日ロ貿易
2.ロシア側の貿易統計からの分析
3.今後の展望
おわりに
はじめに
日ロ貿易は、2003年に前年比41.8%増の59.8億ドルとなって新記録を達成した後、毎年のようにハイペースで記録を更新してきた。2005年に100億ドルの大台にのると、翌々年の2007年には200億ドルを上回り、2008年には上半期の好調さから300億ドル台に乗ることがほぼ確実と思われていた。
しかし、米国を震源地とする国際金融危機は世界同時不況となって、世界中に広がり貿易取引にも伝播した結果、2008年の日ロ貿易はタッチの差で300億ドルに届くことはできなかったが、297億ドルになって6年連続の記録更新は実現した。
しかし、世界は今、同時不況という未知の世界に入り込んで、今後の展望は決して楽観できるものではない。
以下本稿では、日ロ貿易の軌跡、とりわけ最近5年間の動向を跡付けるとともに、昨今の経済危機が日ロ貿易に及ぼしている影響を分析し、今後の見通しについて論じることとする。
日露間のエネルギー協力はどこまで来ているか?
石油天然ガス・金属鉱物資源機構
本村真澄
1.日本にとっての極東ロシアの資源的意味合いは現実のものとなっている
2.サハリン石油開発はいよいよ開花期を迎えた
3.東シベリアにおけるJOGMECの事業展開
4.ロシアからのエネルギー供給の持つ意味合い
極東ロシア、特にサハリンと東シベリアは、日本に対するエネルギー資源の供給能力、距離的な近さ、輸送ルートの安定性から、原油、天然ガスともに新規ソースとして最も期待されてきた地域と言える。しかし、もはやそのような基本的な議論を繰り返すまでもなく、現実が動き始めている。
日本の原油輸入の中東依存度は、近年は90%という水準で、中東への高すぎる集中が憂慮されていたが、昨年はこれが85%まで低下した。ロシアからの原油輸入が4%へと急増したためだ。これはサハリンからの原油である。
ここ3年ほどの間に、極東では新たな石油ガス輸出ターミナルが次々と出現している。まず2006年10月からは、間宮(タタール)海峡を越えた対岸のハバロフスク地方にあるデカストリ港からサハリン1の原油が輸出され始めた。2008年の実績は、日量約19万バレルである。
サハリン2からは、2008年にサハリン南端のプリゴロドノエ・ターミナルまでの石油・天然ガスパイプラインの敷設が完了し、同年12月から日量10万バレルの石油の通年生産が開始された。
今年の暮れには、ナホトカのコズミノ・ターミナルから、東シベリア原油の輸出が開始される。タイシェットからスコボロディノまでのパイプラインの第1期工事が完了し、そこから先は鉄道でコズミノまで運ばれる。輸出能力は日量30万バレルである。
そして、3月からプリゴロドノエ・ターミナルから、サハリン2のLNGが出荷となった。現状は1トレーンからの生産であるが、来年には2トレーンの稼働となり、年産960万tとなる計画である。
2006年からわずか4年間で、極東に、更に言えば日本海の沿岸に3つの石油輸出ターミナル、1つのLNG輸出ターミナルが続々と出現する。図1にこの様子を示したが、まさに壮観と言ってよい。石油だけでも合計すれば日量約50万バレル、LNGもサハリン3が始動すれば、更に拡大される可能性は十分にある。そして、日本企業はこれらを盛大に買っている。近距離で高品質、安全で信頼できるソースだからである。この現実そのものが、極東ロシアの資源的価値を雄弁に語っていると言える。
世界同時経済危機発生後のロシア労働市場
モスクワ在住ビジネスコンサルタント
新井滋
はじめに
1.労働市場の現状
2.業種別の求人倍率と賃金の推移
3.直近の求人倍率の変化
4.労働者の対応
5.今後の見通しと日系企業の対応策
はじめに
ここ1年の間にロシアの労働市場は大きく様変わりした。1年前は、好景気を背景に有能な人材は引く手あまた。まさに売り手市場の様相を呈していた。賃金もうなぎのぼりで、人材を発掘するにしても、定着させるにしても、賃金の上昇圧力とどう折り合いをつけるかに雇用者は頭を悩ませていた。とはいえ景気の良いなかでの一つの悩みに過ぎなかった。しかし、アメリカのサブプライム問題に端を発した金融収縮の流れが、2008年9月中旬に起きた米・リーマンブラザース社(証券・投資)の破綻を契機に一気に世界的な金融危機という激流になり、川下の世界の実態経済に大きな被害を与えている。景気のバロメーターの1つは失業率などの労働市場の動向である。実態経済が突然大きくほころび、ロシアの労働市場も一気に冷えこんだ。
本稿では、現在の労働市場がどのような状況にあるのかを、昨年から今年にかけての直近の求人倍率と賃金動向のデータを使って確認する。また今後の見通しと、いま何ができるのかを考えてみた。
ロシア大手資本が陥った苦境
―金属部門を中心に―
ロシアNIS経済研究所 次長
坂口泉
はじめに
1.非鉄分野を拠点とする大手資本
2.鉄鋼分野を拠点とする大手資本
3.鉄・非鉄分野での業界再編の動き
おわりに
はじめに
2008年9月中旬のリーマン・ブラザースの破綻に端を発した世界的経済危機はロシア企業にも大きな影響を及ぼしている。とくに、外国の金融市場で株式などを担保に積極的に資金を調達し事業を急拡大していた大手資本が被ったダメージは甚大なものとなっている。中には、担保に供している株式の価値の減額分の補填を銀行側から要求されるなどして、一挙に窮地に追い込まれた大手資本も存在する。実際に、担保(株式)の減額分の補填をできず、当該の株式を外国の銀行に没収されてしまうという事例もすでに複数生じている。2008年秋にロシア政府は、対外経済銀行経由で、対外債務を抱える大手資本に緊急融資を行うという措置を打ち出したが、これは、事態を放置しておくと国家にとって戦略的に重要な企業の株式が外国に流出する可能性も排除できないという政府側の判断にもとづく措置であった。
筆者の認識する限り、戦略的に重要なロシア企業の株式が外国に流出するという最悪の事態は今のところ生じていないが、対外経済銀行をはじめとする政府系銀行の融資条件がかなりシビアなこともあって、いくつかの大手資本が、いまだに出口の見えない苦境に喘いでいる。本稿では、とくに状況が悪いといわれている鉄・非鉄分野を例に取り上げ、世界的経済危機が、同分野を拠点とするロシアの大手資本に及ぼした影響を検証してみたい。
極東発展プログラムの実施状況と展望
ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
O.プロカパロ
はじめに
1.2008年以降のプログラム実施体制
2.2008年の極東地域における実施状況
3.経済危機の影響
はじめに
ロシア極東地域では、長期にわたり、中央政府の管理の下に資源を集中させることを前提とした大規模な開発プログラムが実施されてきた。
2007年11月には、極東ザバイカル地域経済社会発展連邦課題プログラム(以下「極東ザバイカル発展プログラム」とする)の改正が承認されたが、これは新たな地政学的国家発展戦略の形成と関連するものであった。
以下では、2008年以降の極東ザバイカル発展プログラムの進捗状況と経済危機後の見通しについてまとめる。
ビジネス最前線
大きな転機を迎えるロシア家電市場
パナソニックCIS且ミ長
泣pナソニック・ロシア社長
松本朋三さん
はじめに
家電販売は、乗用車などと並び、日ロ経済関係の重要な柱のひとつです。なかでも、パナソニックは「高品質な日本製品」の代名詞的存在として、ロシアの消費者に広く親しまれています。そこで今号では、パナソニックCISおよびパナソニック・ロシアの松本社長のインタビューをお届けいたします。
家電分野も、当然のことながら、昨年秋以降の経済危機の影響を少なからず受けています。ただ、家電業界の場合には、その問題を抜きにしても、外国メーカーによる現地法人の設立と自社輸入・販売への転換という、一大変化が生じています。また、今回のインタビューによると、各外国メーカーはロシア・カリーニングラード州での委託生産に見切りをつけ、新たな形態を模索しつつあるとのことです。ロシアの家電販売市場は、全体として、大きな転機に差し掛かっていると言えそうです。
クレムリン・ウォッチ
プーチン首相のリベラル路線選択?
3月に、「揺れる大国・プーチンのロシア」と題して「NHKスペシャル」のロシア問題シリーズが4回にわけて放送されました。筆者はその中で、第1回目の「プーチンのリスト〜強まる国家資本主義〜」と4回目の「復活する“軍事大国”」に関心をもちました。経済に直接関係するテーマです。
前者の主張は、タイトルから分かるように、金融(経済)危機を奇禍としてプーチンが企業の大々的な国有化を目論んでおり、その具体的な手段が「プーチンのリスト」の作成だといいます。(これは普通、「シュヴァロフ・リスト」とも言われるもので、国益に直結する国防産業、エネルギー産業などの主要企業と、企業城下町のように地方社会の中核となっている大企業の一部を列挙したものです)。
4回目の主要テーマは、プーチンが国防産業の強化や愛国教育を通じて軍の近代化と強化を図り、軍事大国的な対外戦略を進めつつあるというものでした。
あえてテレビ番組に触れるのは、経済危機下のロシア政治の現実の動きが、番組の主張とはほとんど正反対だと思うからです。(月出皎司)
エネルギー産業の話題
ロシア石油化学分野の最新の動き(その5)
ロシアにおけるPETの需要および生産の状況については、2008年9-10月号の本コーナーで取り上げたことがありますが、今回より詳細な情報(『石油ガス垂直統合』誌、2009.No.3)を入手することができたので、その内容を抜粋してご紹介いたします。
自動車産業時評
モスクワとペテルブルグの乗用車販売データ
2008年のロシアの乗用車販売市場全般については、前号掲載のレポートで詳しく分析いたしましたが、今般モスクワ市、サンクトペテルブルグ市およびそれらの周辺地域の市場での乗用車の販売データ(地域別の新車の登録状況に関するデータ)を入手できたので、今回の本コーナーではそれらをご紹介いたします。データの出所はすべて、ロシアの自動車市場調査機関「アフトビジネス」です。
ロシアビジネスQ&A
モスクワでの住まい探し
つい最近まで、好景気に沸いたモスクワでは、消費ブームが起こり物価が世界一となったり、ロシア中や世界中からビジネスマンや労働者が集まり、不動産価格や家賃が年率で70〜100%も高騰したりと、過熱した経済はまさしくバブルの様相を呈していました。ところが、昨年9月のリーマンショックに始まる世界的な金融危機・経済危機のせいで、モスクワの不動産市場はバブルがはじけ、価格が急速に沈静化してきています。不動産業開発業者にとっては厳しい経営を強いられますが、需要側にとっては、賃貸でも購入でもコストの軽減が図られるというプラスの面があります。
今回はモスクワの住宅事情と賃貸契約する際の留意事項についての質問にお答えします。