ロシアNIS調査月報
2009年7月号
特集◆プーチン訪日で機運
高まるエネルギー協力
特集◆プーチン訪日で機運高まるエネルギー協力
研究所長日誌
ロシア連邦首相として初来日したプーチン
調査レポート
経済危機下のロシア石油ガス産業
―日ロ協力の可能性を探る―
調査レポート
ロシアの原子力産業と原発
調査レポート
中露の石油協力
―2009年4月の政府間協定による大きな前進―
ビジネス最前線
民間投資へつなげる東シベリア地質構造調査
ミニレポート
経済危機で縮小するロシアの電力投資
特報
日ロ原子力協定締結される
ドーム・クニーギ
日本エネルギー経済研究所編著『これが石油産業の全貌だ!』

調査レポート
2008年のロシアの外国投資統計
調査レポート
外資系タイヤメーカーのロシア現地生産
データバンク
2008年のロシア・NIS諸国の平均賃金
クレムリン・ウォッチ
新たな情況への対応を迫られるロシア外交
自動車産業時評
まだら模様のロシア乗用車市場
ロシアビジネスQ&A
◎ロシアへの農産物の輸出
業界トピックス
2009年5月の動き
◆マテハン機器キトーがモスクワ見本市出展
2009年1〜4月の通関統計


経済危機下のロシア石油ガス産業
―日ロ協力の可能性を探る―

ロシアNIS経済研究所 次長
坂口泉

はじめに
1.石油分野の現状
2.石油会社の現状
3.石油分野が抱える構造的問題
4.石油分野での日ロ間協力の可能性
5.ガス分野の現状
6.ガスプロムの経営問題
7.ガス分野が抱える構造的問題
8.ガス分野での日ロ間協力の可能性
おわりに

はじめに
 2008年秋のリーマンショック以降、ロシアの基幹産業である石油ガス分野でも、様々な軋みが観察され始めている。たとえば、石油分野では2008年秋から年末にかけ、石油価格の急落に伴い輸出関税の負担が増大し、石油輸出が採算割れになるという異常事態が生じた。その結果、多くの石油会社が2009年の設備投資額を縮小する意向を表明した。また、経済危機との直接的な関連性は希薄だが、2009年に入り石油の減産傾向がより鮮明なものになりつつある。ガス分野に目を転じれば、経済危機の直撃を受け、独占企業「ガスプロム」が2009年に大幅な減収減益に転じることは確実で、同社の様々な投資プロジェクトに否定的な影響が及ぶ可能性が高くなっている。経済危機の影響が長期化すれば、ロシアのガス分野の資源基盤が揺らぐことも考えられる。
 本稿では、経済危機のなかで揺らぐロシアの石油ガス分野の現状と、そのなかで浮き彫りとなりつつある同分野の構造的問題の分析を行う。同時に、そのなかで日本がどのようなビジネスチャンス(あるいは日ロエネルギー協力の可能性)を見出すことができるかという点についての考察も試みる。 


 ロシアの原子力産業と原発 

高知大学 人文学部
塩原俊彦

はじめに
1.原子力産業
2.ウランの採掘・濃縮
3.ロシアの原発の現状と今後

はじめに
 プーチン・ロシア首相の来日に合わせ、日ロ原子力協定が締結された(正式名は「原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とロシア連邦政府との間の協定」)。原子力分野が、日ロ経済関係の柱の一つとして浮上してきたことになる。今後、我が国の経済界でも、ロシアの原子力産業への関心が高まっていくことになろう。
 そこで、ロシアの原子力産業の全体像につき、塩原俊彦氏よりご寄稿いただいたレポートを、以下のとおり紹介する。(編集部) 


中露の石油協力
―2009年4月の政府間協定による大きな前進―

北海道大学スラブ研究センター
劉旭

はじめに
1.中露原油パイプラインの正式着工
2.パイプライン建設契約、長期原油貿易契約及び融資契約の調印
3.石油分野での中露協力の交渉過程
4.今回の一連の契約の問題点

はじめに 
 近年、中露間のエネルギー協力が注目を集めている。高い成長率の経済発展に伴い、エネルギー消費量が拡大しつつある中国は世界各地で資源の獲得行動に出ている。その目標の1つはロシアである。一方、極東地域のエネルギー資源の開発に着手し、国際エネルギー市場における影響力の拡大を狙うロシアにとって、中国は有望な輸出市場であり、ロシアのエネルギー資源の国際競争力を高めるための重要なパートナーである。両者のニーズをマッチさせるために、長年にわたって模索が続けられてきた。
 しかし、2008年7月まで続いたエネルギー価格の高騰、ロシア政府による資源管理の強化などを背景に、アジア太平洋地域における輸出先の多元化というロシアの戦略が具体化され、エネルギー価格をめぐる中露間の主張の食い違いが顕在化するなかで、両国間のエネルギー協力をめぐる交渉は実質的な進展を見せなかった。
 金融危機によって引き起こされた100年に一度といわれるグローバルな経済不況は、一転して、中露間のエネルギー協力に新たな契機を与えている。2009年4月21日、中露政府の代表は北京で石油分野での政府間協定に署名し、2月に調印されたパイプライン建設、長期原油貿易及び中国の銀行による対ロシア企業の融資を含む一連の商業契約が効力を持つようになった。
 本稿では、大きな注目を集めたこの政府間協定に焦点を合わせ、同協定に関連する中露企業、銀行間の一連の商業契約の内容、合意に至るまでのプロセスを分析し、同協定の調印による中露双方にとってのメリット及び問題点を明らかにする。


ビジネス最前線
民間投資へつなげる東シベリア地質構造調査

石油天然ガス・金属鉱物資源機構
石油開発支援本部 プロジェクト企画部 東シベリアチーム
チームリーダー 多田裕一さん

はじめに
 「新・国家エネルギー戦略」(経済産業省)が提唱する日本のエネルギー供給源の多様化、調達力の強化の鍵となる東シベリア〜太平洋パイプライン。この一大プロジェクトの具体化にむけ、日本企業による鉱区開発への投資機会をつくるべく、多田さんは何度もロシア側との交渉テーブルにつきました。プーチン首相来日を機に、イルクーツク州の鉱区におけるJOGMECの新たな地質構造調査が開始されるなか、日本が東シベリアの石油開発にどのように関与してきたかを振り返り、将来を展望するには、この方ということで、今回のインタビューに登場していただきました。 


 ミニレポート
経済危機で縮小するロシアの電力投資

はじめに
 本誌2009年3月号に、「綻びが見え始めたロシアの電力改革」と題するレポートを掲載した。同レポートで論じられているとおり、ロシアの電力分野では統一電力システム(UES)の分割民営化を軸とする大幅な構造改革が実施された。また、「マスタープラン」が策定され、電力分野の大掛かりな設備投資が推進されようとしている。
 しかし、2008年秋以降の世界的経済危機の影響は、当初の予想以上に大きかったようだ。電力需要が急激に落ち込んだことに加え、需要家が電力代金を滞納するケースも目立ち始め、設備投資プロジェクトの進捗に支障が生じる可能性が高くなっている。そこでこの小レポートでは、2008年秋以降のロシアの電力分野の全般的状況と、経済危機が主な設備投資プロジェクトに及ぼした影響を紹介する。 


特報
日ロ原子力協定締結される

 今般のプーチン首相の訪日の機会を捉え、5月12日に日ロ原子力協定が締結されました(正式名は「原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とロシア連邦政府との間の協定」)。両国議会による批准を経て発効する国際約束文書ということで、現在のところ協定そのものはまだ公表されておりません。そこで、ここでは、ロシア側の当事者である「ロスアトム」のウェブサイトに掲載されたプレスリリースを、抄訳して紹介することにいたします。 


 2008年のロシアの外国投資統計 

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
1.ロシアの外国投資受入状況
2.ロシアから外国への投資
3.外資参加企業の設立・活動状況
おわりに

はじめに
 例年どおり、ロシア連邦国家統計局の各種資料にもとづき、2008年のロシアの外国投資統計をとりまとめて掲載するとともに、データに関する解説をお届けする。
 以下ではまず、第1節において、ロシアの外国からの投資受入状況について、最新データをなるべく詳細に紹介する。第2節では、ロシアから外国への投資データを吟味する。第3節では、ロシアにおける外資参加企業(100%外資企業および合弁企業)の設立・活動状況を整理する(こちらは2007年の数字である)。
 2008年には、世界金融・経済危機の勃発という大きな環境変化が生じ、そうしたなかで、同年にロシアの外国投資受入額は9年振りに減少に転じた。本年は、この問題に可能な限り焦点を当てながら、データの解明を試みたい。 


 外資系タイヤメーカーのロシア現地生産

高崎経済大学経済学部 教授
今井雅和

1.はじめに
2.横浜ゴムの生産進出
3.タイヤ業界概要
4.各社動向
5.おわりに

はじめに
 横浜ゴムがロシアへの生産進出を決めた。日本勢としては同業界初の現地生産である。ロシア市場への外資参入は、1990年代の体制転換、市場経済への移行に伴う混乱の中、欧州企業、とりわけ食品や飲料、さらには流通など生活に密着する分野を中心に始まった。米国企業や韓国企業もそれぞれの得意分野でロシア市場への浸透を図った。日本企業のなかには、販売を中心にロシア市場で存在感を示す企業もあったが、総じてロシア市場への参入は遅れた。まさに、「距離はやはり障害(Distance still matters)」であり、その距離は物理的距離のみならず、心理的距離も大きく影響するのである。しかし、買収先企業がロシアに生産拠点を保有していたり(日本たばこ産業)、欧州子会社がロシアに生産拠点を確保したり(旭硝子)する事例も見られるようになった。そして、何といってもトヨタの生産進出が日本企業のロシア市場参入への警戒感を和らげ、さらには積極的な姿勢に転換させる契機となったことは間違いない。他の自動車企業や自動車部品メーカーなどにも生産進出の動きが始まったのである。
 タイヤ業界では、フランスのミシュラン(Michelin)とフィンランドのノキアン(Nokian)が既にロシアで現地生産を行っている。海外市場の開拓に積極的で、ミシュランやノキアンと同等の販売実績のあるブリヂストンは、生産進出を検討したものの、決定には至らず、引き続き検討中である。イタリアのピレリ(Pirelli)も現地生産を発表し、米国のグッドイヤー(Goodyear)は生産進出を検討している。住友ゴムや東洋ゴムの日本勢もロシアに販売拠点を設置するなど、タイヤメーカーのロシア市場への関心は引き続き高い。
 2008年秋のリーマンショック以降の世界経済の後退、自動車メーカーの大減産と在庫調整、円の相対的な高騰のなか、こうしたタイヤメーカーのロシア戦略における積極的姿勢をどのように理解すればよいのだろうか。本稿では、横浜ゴムのロシアへの生産進出から議論を起こし、タイヤ産業の特徴を明らかにしたうえで、各社の動向を整理する。それらの議論を踏まえ、ロシア市場におけるタイヤメーカーの戦略を分析する。最後に、日本企業、欧米企業そしてロシア企業の経営活動における共通性と異質性に関する筆者の見解を述べる。


クレムリン・ウォッチ
新たな情況への対応を迫られるロシア外交

 就任後まる1年を経過してメドヴェージェフ・プーチン体制の政治スタイルも定着しつつある気配ですが、経済危機という厳しい環境下で、これから国政の舵取りは難しくなるばかりでしょう。対外政策にもそれは言えます。
 先日(5月13日)国家安全保障戦略が発表されました。この文書は国防ドクトリンや外交戦略の基礎になるものです。数年前から準備されてきましたが、この時期に発表した狙いの1つとして、オバマ米大統領のもとでの新しい国際政治環境の中で、ロシアとして主体性の高い対外戦略を展開していこうとする意欲が感じられます。過去10年近く、イラク問題、イラン問題、グルジア問題、コソボ問題、欧州ミサイル防衛施設問題、ウクライナ問題、カスピ海パイプライン問題など、ロシア外交は、外から振りかかって来る情況に対して対応を迫られる形の展開が多かったように思います。
 これからはイニシアチブをもった外交を目指したいところでしょうが、ロシアを取り巻く外交環境はここへきて、かなり複雑になっています。そのいくつかを取り上げます。(月出皎司) 


自動車産業時評
まだら模様のロシア乗用車市場

 先月号の本コーナーでは、ロシアにおける純国産乗用車メーカーの2009年第1四半期の状況をご紹介いたしました。今回は、現地生産を行っている外資系メーカーに焦点を当て、同期の外国ブランド車の生産状況についてお伝えいたします。また、2009年第1四半期のロシアの地域別の乗用車の販売状況、2009年1〜4月期の主要ブランド別の新車販売状況についても取り上げます。 


ロシアビジネスQ&A
ロシアへの農産物の輸出

 最近、極東ロシア地域のスーパーマーケットでは、東北各県や日本海沿岸各県産のお米や果物や野菜などの農産物が店頭に並んでいるのを見かけるようになりました。一般の商品と比べ価格が高いにもかかわらず、品質が高く安全であることから人気が高いようです。
 今回はロシアへの日本の農産物の輸出についての質問にお答えします。