ロシアNIS調査月報
2010年7月号
特集◆ロシア・NISの
原子力ルネサンス
特集◆ロシア・NISの原子力ルネサンス
調査レポート
世界展開を強めるロシア原子力産業
調査レポート
カザフスタンの原子力の現状と対日協力
調査レポート
ウクライナの原発と核燃料供給源
―ロシア依存は続くのか
調査レポート
ベラルーシの原発問題
―チェルノブィリの悲劇と新規建設計画
ビジネス最前線
対カザフスタン原子力支援 ―技術協力と人材育成
ドーム・クニーギ
アミール・D・アクゼル著
『ウラニウム戦争 ―核開発を競った科学者たち』

調査レポート
2009年のロシアの外国投資統計
調査レポート
ロシア極東の移民プロセスと外国人労働力
研究所長日誌
日ソ関係が前進した田中総理の訪ソ
クレムリン・ウォッチ
一歩踏み出したメドヴェージェフ
エネルギー産業の話題
東シベリアとヤマロ・ネネツの石油鉱床
自動車産業時評
ロシア自動車市場に回復の兆し
ロシアビジネスQ&A
◎ロシアでの自動車取得手続き
業界トピックス
2010年5月の動き
◆カザフにおけるウラン開発
通関統計
2010年1〜4月の日本の対ロシア・NIS諸国輸出入通関実績
日本の対ロシア月別輸出入通関実績
日本の対ロシア月別乗用車輸出動向


世界展開を強めるロシア原子力産業

ロシアNIS経済研究所 次長
坂口泉

はじめに
1.民生用原子力分野の主要企業
2.原子力発電部門の状況
3.ウラン採掘部門
4.ウラン濃縮部門
おわりに
はじめに
 原子力発電再評価の世界的潮流の中、ロシアでも同様の動きが生じているが、同国の場合は、温室効果ガス排出量削減への寄与という役割の他に、ガスに偏重した電源構成からの脱却、あるいは、石油ガス分野に過度に依存した産業構造の多様化への貢献といった同国に固有の役割も原子力分野に課せられており、同分野の発展にかける意気込みは他国にもまして強いものとなっている。たとえば、国内では8〜9基もの原子力発電ユニットが建設されている他、多数の建設計画が検討されている。また、国外では自国製原発の売り込みを積極的に行っており、最近、ベトナムやトルコでの受注に成功している。
 ロシアの場合、国外における原発の売り込みは完全に国家主導で行われているが、そこには、「自国の原子力発電関連機器および技術を諸外国に売り込み、石油ガスに偏重した輸出構造の改善につなげたい」というロシア側の強い政治的意思が見て取れる。受注するためならば経済的合理性はある程度犠牲にしてもよい、という覚悟すら見え隠れするような気がする。
 重電機器メーカーの生産能力の問題や、資金調達能力の問題などが存在し、ロシア政府主導による「販売促進」にも限界はあると思うが、その動きは、同様に世界の原発市場でのプレゼンス強化を目指している日本にとって無視できないものとなりつつある。また、周知の通りロシアは世界最先端のウラン濃縮技術と容量を有しており、この点においても日本にとってのロシアの存在感が高まりつつある。
 以上の状況を踏まえ、本稿ではロシアの民生用原子力分野(ウラン採掘部門、ウラン濃縮部門、原子力発電部門)の現状をご紹介する。
 なお、本来であれば、採掘→濃縮→発電の順で記述を進めるべきであろうが、本稿では発電→採掘→濃縮の順に記述を進めるので、その点あらかじめお含み置き願えれば幸いである。


カザフスタンの原子力の現状と対日協力

(社)日本原子力産業協会 国際部リーダー
中杉秀夫

はじめに
1.経済・エネルギー・電力事情
2.原子力開発体制
3.原子力発電所導入計画と核燃料サイクル関係活動
4.日本との原子力協力の現状
おわりに

はじめに
 カザフスタンと日本の政府間原子力協力協定が、本年5月19日に参議院で承認され同日発効となり、これからの両国の原子力ビジネスが活発に進展することになろう。たまたま、その翌日の5月20日、東海大学湘南校舎での駐日カマルディノフ大使の「核不拡散・軍縮による世界平和へのカザフスタンの貢献」という講演を拝聴する機会を得た。
 私はこれまで、ナザルバエフ大統領を長期にわたる独裁者としてしか認識していなかったが、今回考えさせられるものがあった。それらを含め、カザフスタンという国との原子力協力をまとめ直してみた。


ウクライナの原発と核燃料供給源
―ロシア依存は続くのか―

北海道大学グローバルCOEプログラム研究員
藤森信吉

はじめに
1.原子力の位置付け
2.TVEL社の独占供給〜1990年代
3.供給源多元化を求めて〜2000年以降
むすびにかえて−供給源多元化は夢か

はじめに
 ウクライナにとって、原子力発電(以下、原発)は多義的である。25年前に発生したチェルノブイリ原発事故の後遺症と記憶は現在に至るまでウクライナの足枷となっている。ウクライナの総発電量の1割が消え去ったばかりか、今日でも国家歳出の1%余りが被災者関連に費やされており、社会的経済的な後遺症に悩まされている。ウクライナ世論の過半は未だ原発の新規建設に反対である1)。その一方で原発はCO2排出削減およびエネルギーのロシア依存解消の手段として大きな意味を持ち始めている。ウクライナはパイプラインを介した天然ガス、原油の一大輸入国として名高く、ロシアが独占する天然ガス・原油供給体制から逃れられないでいる2)。こうした中で、パイプラインに頼らず輸送できる核燃料で以って、供給源多元化を図ろうとしているのである。本稿では、独立以降のウクライナの原発動向を核燃料の供給源多元化から検討する。なお、本稿の固有名詞は、ロシア語表記に基づく。


ベラルーシの原発問題
―チェルノブイリの悲劇と新規建設計画―

ロシアNIS経済研究所 研究員
齋藤大輔

はじめに
1.難航するロシアとの交渉
2.ガス依存脱却への原子力
3.やはりロシアしかない
4.チェルノブイリの後遺症
最後に
コラム:チェルノブィリ事故 〜終わらぬ悲劇〜

はじめに
 ベラルーシで初となる原発計画が進んでいる。ロシアが受注を確実にしているが、少しでも有利な条件を引き出そうとするベラルーシと建設費負担をできるだけ減らしたいロシアとの間で駆け引きが続く。原発を採り入れ、エネルギー資源のロシア依存からの脱却を実現したいというルカシェンコ政権の一大プロジェクト。
 ただ、ベラルーシは1986年に起きたチェルノブイリ原発事故の最大の被害国であり、事故後24年になる現在も放射能汚染による健康被害は広がり続ける。野党勢力や周辺諸国からは反対の声も上がっており、実現までには曲折もありそうだ。そこで本稿では、ベラルーシの原発計画と放射能汚染による健康被害の実態について報告する。


対カザフスタン原子力支援
―技術協力と人材育成―

日本原子力発電梶@国際協力技術開発チーム
保志貴司さん 松本深さん

はじめに
 日本とカザフスタンとの間で原子力分野の協力について検討が始まったのは、カザフスタンが独立して間もない1990年代前半のことでした。その後、原子力発電所の立地の可能性に関する調査や提案を行なう技術協力、原子力分野の専門家に対する講義や日本の関連施設見学などを中心とした人材育成という2本立てで、カザフスタンの原子力分野でのサポートを行なってきたのが日本原子力発電鰍ナす。今回は、同社の国際協力部門を担われている保志さんと松本さんより、上記の事業についてお話を伺いました。


2009年のロシアの外国投資統計

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
1.ロシアの外国投資受入状況
2.ロシアから外国への投資
3.外資参加企業の設立・活動状況
おわりに

はじめに
 例年どおり、ロシア連邦国家統計局の各種資料にもとづき、2009年のロシアの外国投資統計をとりまとめて掲載するとともに、データに関する解説をお届けする。
 ロシアの「外国投資」の慣行には特殊事情が多く、それを記録したロシア統計局による資料にも難がある。それでも、ロシアが発表している公式統計を把握しておくことは、やはり不可欠な作業であろう。本稿は、統計を駆使した経済分析というよりも、統計そのものをなるべく詳しく紹介する点に主眼があることをお断りしておく。
 以下ではまず、第1節において、ロシアの外国からの投資受入状況について、最新データをなるべく詳細に紹介する。第2節では、ロシアから外国への投資データを吟味する。第3節では、ロシアにおける外資参加企業(100%外資企業および合弁企業)の設立・活動状況を整理する(こちらは2008年の数字)。


ロシア極東の移民プロセスと外国人労働力

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
Ye.モトリッチ

はじめに
1.ロシア極東における移民の変容
2.旧ソ連諸国からの移民
3.東アジアからの労働移民
4.移民に対する法規制
5.地域別の状況
おわりに

はじめに
 人口減少、労働力不足といった問題を抱える現在のロシアにとって、移民や外国人労働者の存在は、国の経済発展にとって重要なファクターのひとつである。とくに人口が希薄なロシア極東地域において地域経済の活性化には外国からの労働力誘致が不可欠である。
 以下では、ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所のモトリッチ研究員によるロシア極東における移民・外国人労働者の動向についてのレポートを紹介する。(編集部)


クレムリン・ウォッチ
一歩踏み出したメドヴェージェフ

 4月から5月にかけての一連の発言の中で、メドヴェージェフ大統領は、内外政策に関する自分の姿勢をあらためて明確に示しました。そこに盛り込まれた思想は、それまでの発言の延長線上にあるとはいえ、より明確なメッセージ性を感じさせました。(月出皎司)


エネルギー産業の話題
東シベリアとヤマロ・ネネツの石油鉱床 

 今回は将来的に太平洋パイプラインへの石油供給源になる可能性が高いといわれている、東シベリアおよびヤマロネネツの鉱床の開発の現状について紹介いたします。(坂口泉)


自動車産業時評
ロシア自動車市場に回復の兆し

 4月のロシア乗用車販売台数は19カ月ぶりに前年比で増加に転じました。今回はその背景にあるいくつかの要因と弊害について報告します。(坂口泉)


ロシアビジネスQ&A
ロシアでの自動車取得手続き

 モスクワでは公共交通機関が発達しており、交通渋滞も激しいことから、公共交通機関を利用される方も多いと思いますが、やはり、ロシアで活動するにあたっては、自動車が必需品といえるでしょう。そこで今回は、ロシアにおいて法人が自動車を所有する際の手続きについて、ウラジオストクで日本企業に対するビジネスサポートをなさっている、井上大樹さんにお答えいただきます。