ロシアNIS調査月報
2010年8月号
特集◆ウラル経済と
ROTOBOミッション
特集◆ウラル経済とROTOBOミッション
特別インタビュー
ロシア・ウラル経済ミッションを終えて
―西岡喬会長に訊く
イベント・レポート
ROTOBO ロシア・ウラル経済ミッションの派遣
INTRODUCTION
「ウラル」を見る視点
調査レポート
ロシアにおける新たな地域政策と金融危機
調査レポート
チュメニ州の経済構造と発展戦略
ビジネス最前線
ウラル鉄鋼業との協業をいかに切り拓くか
特別寄稿
ロシア鋼管製造業の最近の動き
―ウラル地区における新設鋼管工場を中心に
ミニレポート
元祖(?)ウラルのバシコルトスタン
データバンク
ウラル400大企業ランキング
データバンク
ロシア・ウクライナのメーカー別鉄鋼生産
自動車産業時評
ウラル地方の乗用車販売動向

調査レポート
強まるロシア石炭分野の存在感
―供給源としてのポテンシャル
研究所長日誌
元シベリア抑留者への補償問題がようやく解決へ
クレムリン・ウォッチ
再選に向けて動き出したメドヴェージェフ
エネルギー産業の話題
外国市場への攻勢を強めるロシア原子力産業
ロシアビジネスQ&A
◎ロシア極東の住宅建設市場
ドーム・クニーギ
中兼和津次著『体制移行の政治経済学』
業界トピックス
2010年6月の動き
◆ロシア駐在ハンドブック発行される
通関統計
2010年1〜5月の通関実績


特別インタビュー
ロシア・ウラル経済ミッションを終えて
―西岡喬会長に訊く―

はじめに
 社団法人ロシアNIS貿易会は、5月30日〜6月5日に「ROTOBO ロシア・ウラル経済ミッション」を派遣いたしました。総勢39名の団員が、ロシア・ウラル地方のスヴェルドロフスク州とチェリャビンスク州を訪問し、経済フォーラム、工場訪問、現地行政府幹部との面談等の日程をこなしました。昨年の「極東ロシア経済ミッション」に引き続き、上々の成果を挙げることができました。
 今回の月報では、このROTOBOミッションの成果を中心に、ロシア・ウラル経済の特集をお届けします。
 まず初めに、今回のミッションで団長を務めました当会の西岡喬会長(三菱重工業(株)相談役兼三菱自動車工業(株)取締役会長)に、ミッションの成果につき帰国後語ってもらいましたので、以下そのインタビューをご紹介します。


イベント・レポート
ROTOBO ロシア・ウラル経済ミッションの派遣

はじめに
(社)ロシアNIS貿易会(ROTOBO)は、2010年5月30日(日)〜6月5日(土)の日程で、「ロシア・ウラル経済ミッション」を派遣いたしました。このミッションの団長は西岡喬会長が務め、当会会員企業を中心に商社、メーカー、銀行、政府機関、地方自治体より38名が参加しました。
 ウラル地方は、ヨーロッパとアジアを分かつと謳われるウラル山脈を囲む地域で、交通の要衝となっています。また、鉱物資源が豊富で、鉄鋼、機械、化学といった重化学工業が発展している地域として知られています。近年、この地域へのヨーロッパ企業の進出は目覚ましく、すでにシーメンス(ドイツ)、ダニエリ(イタリア)など、多くの企業が進出を果たしています。しかしながら、これまでのところ日本企業の関心は低く、経済交流は限定的なものとなっています。
 必然的に、今回のミッションの目的は、ウラル地方の経済や産業の状況を把握するとともに、州政府や企業による将来展望や投資プロジェクトについての情報を入手し、日本との具体的な経済交流の可能性を探ることでありました。そのため、今回のミッションでは、ウラル連邦管区庁が置かれ、ウラル地方の中心であるスヴェルドロフスク州とチェリャビンスク州を訪問いたしました。
 スヴェルドロフスク州、チェリャビンスク州においては、ヴィンニチェンコ・ウラル連邦管区大統領全権代表、ミシャーリン・スヴェルドロフスク州知事、ユレーヴィチ・チェリャビンスク州知事との会談が行われ、日本とウラル地方の協力について協議がなされました。
 また、2州それぞれにおいて、州行政府と当会の主催のもと、投資環境および開発プロジェクトをテーマとした「経済フォーラム」が開催されました。経済フォーラムには、日本側ミッション参加者に加えて、両州の行政府、産業界から多数の参加者を得、活発な議論がなされ、地元のマスコミでも報じられました。
 以下では、ウラル経済ミッションの日程を掲載いたします。

INTRODUCTON
「ウラル」を見る視点

はじめに
 「特集◆ウラル経済とROTOBOミッション」をお送りするにあたって、まずは「ウラル」とは何かという基本的なところからスタートしたい。本稿では、「ウラル」という地名の元となったウラル山脈、ロシアにおける「ウラル」の地理的範囲、ウラルの経済力などについて、概観してみる。(服部倫卓)

ロシアにおける新たな地域政策と金融危機

早稲田大学アジア太平洋研究センター客員助教
堀内賢志

はじめに
1.新コンセプト策定にいたる経緯
2.新コンセプトの概要
3.金融危機と地域政策

はじめに
 現在の連邦政府の地域政策の改革の方向性を示すものとして、2008年より策定作業が進められている「ロシア連邦地域政策の完全化のコンセプト」(以下、「新コンセプト」)がある。このコンセプトの内容に関しては本誌2010年1月号の「直言」でその概要に触れたが、ここでは、コンセプトの策定に至る経緯、特に2005年に策定された「諸地域の社会経済発展戦略のコンセプト」(以下、「旧コンセプト」)との相違、および、新たなコンセプト策定の前提となった「2020年までのロシア連邦発展戦略」などとの関係に触れた上で、現在発表されているコンセプトの草案の内容を詳しく検討しながら、ロシアの地域政策の問題について論じたい。
 他方、2008年9月以来の金融危機は、地域政策を議論する上で考慮すべき諸々の問題を改めて浮き彫りにすることともなった。本稿の後半では、金融危機が各地域経済に与えた影響と、連邦および連邦構成主体の危機対策措置について概説した上で、金融危機が地域政策のあり方にもたらした問題について論じたい。


シリーズ・ロシアの産業クラスター@
チュメニ州の経済構造と発展戦略

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
1.チュメニ州と自治管区の関係
2.チュメニ州経済の実力
3.チュメニ州の長期発展構想
4.実際のビジネスの動き
おわりに

はじめに
 ロシアNIS貿易会では、平成22年度国庫補助事業の一環として、「ロシア・ウクライナの産業クラスターと日本企業の商機」と題する調査事業を実施している。事業の成果は年度末に特別報告書にまとめて発表する予定だが、本月報でもそれを先取りする形で、ロシア主要地域の産業クラスターについてシリーズで報告していきたいと考えている。先日、筆者はウラル連邦管区のチュメニで現地調査を行う機会を得たので、「シリーズ・ロシアの産業クラスター」の第1弾として、本稿ではチュメニ州の経済構造と発展戦略について論じてみたい。
 チュメニ州と言えば、ロシアの石油・ガス産業の中心地であり、同国でも屈指の豊かな地域というイメージが一般的である。しかし、実際にエネルギーを産出しているのは、チュメニ州内に設けられている2つの自治管区、すなわちハンティ・マンシ自治管区(主に原油)と、ヤマロ・ネネツ自治管区(主に天然ガス)である。両自治管区を除いた狭義のチュメニ州は、決して強力な経済力を誇っているわけではない。しかも、今回調査を試みて、両自治管区の州からの自立度が思いのほか高い実態も明らかになった。そうしたなかで、チュメニ州は、どのように経済発展を遂げようとしているのか?
 両自治管区を除いた狭義のチュメニ州のことを、ロシアでは「チュメニ州南部」と呼ぶことが多いが、本稿では「チュメニ州本体」と呼ぶことにする。というわけで、本稿は普段は脚光を浴びない、両自治管区を除いたチュメニ州本体の経済について分析する試みである。


ビジネス最前線
ウラル鉄鋼業との協業をいかに切り拓くか

はじめに
 ROTOBOでは、過去数年にわたり、国庫補助事業のうち、「コンサルティング型専門家派遣事業」を、ウラル地方において実施してきました。その理由は、ウラル地方がロシア重工業の中心地であること、特に、チェリャビンスク州とスヴェルドロフスク州はロシアの製鉄業の中心であること、そして、2000年代の半ばころから、両州の製鉄所で設備更新が積極的に行われていたことです。一方、こうしたロシア側の需要に応えられる技術を持つ企業が日本の製鉄業の中心である北九州市に集中して存在し、北九州市役所貿易振興課及び北九州国際技術協力協会(KITA)の協力を得ることができたので、北九州の企業をロシア企業のパートナー企業として推薦し、様々な技術移転、設備輸出を試みました。その結果、当初、予想したよりも活発に事業展開ができ、成約に至る案件も数多く生まれました。そして、こうした経済交流が、文化・教育面での交流にも発展するなど、北九州とウラル地方の間に、大きな人の流れが出来ました。そこで先般、北九州のROTOBO会員企業の方にお集まりいただき、地方の中堅企業がロシア市場の開拓にどのように取り組まれたか、ご苦労された点も踏まえ、お話しを伺う機会を設けました。今回はビジネス最前線の特別拡大版として、この座談会の模様をお届けします。

出席者(順不同、敬称略)
高原義弘  北九州市 企画文化局 国際部長
上野浩   北九州市 産業経済局 地域産業振興部 貿易振興課 国際ビジネス担当係長
工藤和也  北九州国際技術協力協会(KITA)副理事長、技術協力部長
椛山十郎  (株)極東製作所 代表取締役社長
小野裕和  (株)ドーワテクノス 取締役社長
原田 信  日本磁力選鉱(株) 常務取締役
奥野浩英  大光炉材(株) 取締役、技術統括部長 兼 購買部長
上原正次  三島光産(株) 機工事業本部 ジェネラルマネジャー
向井慎司  (株)戸畑製作所 営業部長
小川健一郎 (株)北九州YMCA 総主事、常務理事

司会
岡田邦生  ロシアNIS貿易会・ロシアNIS経済研究所 次長

特別寄稿
ロシア鋼管製造業の最近の動き
―ウラル地区における新設鋼管工場を中心に―

株式会社メタルワン モスクワ駐在員事務所長
遠藤訓

はじめに
 ロシアの最重要産業である石油・ガス業界を支える周辺産業のなかでも、その掘削や搬送に使われる主要資機材産業である鋼管業界は、ロシアではここ数年間の間に目覚しい発展を遂げている。私は今般実施催されたROTOBO主催の「ウラル経済ミッション」に参加、その訪問団の一員として現在新設工場を建設中のチェリャビンスク鋼管製造会社(ChTPZ)を訪問し、その伸び行かんとする新設工場を視察した。この機会に、ロシアの鋼管製造業の最近の動きについてまとめ、また日本の産業界がこの変貌に如何に対応していくべきか、私見を述べたい。


ミニ・レポート
元祖(?)ウラルのバシコルトスタン

はじめに
 ウラル連邦管区がウラル山脈の東の地域となったことで、山脈の西側の南は沿ヴォルガ連邦管区となった。しかしながらウラル山脈の西側の地域にもウラルの意識はあるのではないだろうか。筆者はこの2年ほど、このうちのひとつであるバシコルトスタン共和国を訪問する機会が多かったので、ウラルをテーマに同共和国を中心に社会経済状況の一端を書いてみたい。現地訪問での聞きかじりをベースにまとめた話が多く、軽めのエッセイとして受けとめて欲しい。同共和国は経済、政治力もあり、これを機にバシコルトスタンに興味をもっていただければ幸いである。(高橋浩)

データバンク
ウラル400大企業ランキング

はじめに
 ロシアの経済週刊誌『エクスペルト』が、毎年秋に同国の大企業ランキングを発表していることは、ご存じの方も多いと思う。小誌でも2009年12月号で、その最新版を紹介している。実は『エクスペルト』の地域版である『エクスペルト・ウラル』2009年11月2日号に、ウラル地域に絞った400大企業ランキングというものが掲載されている。以下ではこのウラル400大企業ランキングを、編集部で独自の加工を施したうえで、紹介する。

データバンク
ロシア・ウクライナのメーカー別鉄鋼生産

はじめに
 本誌では、ロシアのメーカー別鉄鋼生産のデータを、定期的に掲載することに努めている。本年は例年よりもやや遅れてしまったが、鉄鋼業を基幹産業とするロシア・ウラル経済の特集に合わせる形で、今号で掲載することとしたい。付随して、もう一つの重要な鉄鋼生産国であるウクライナのメーカー別生産データも掲載する。

自動車産業時評
ウラル地方の乗用車販売動向

 ウラル特集ということですので、本コーナーでも今月はウラル地方の乗用車販売市場を取り上げます。ウラル連邦管区だけでなく、いわゆる「大ウラル圏」全体の乗用車市場を概観してみたいと思います。複数の情報源に依拠しており、統計の様式がまちまちで、理解しにくい部分もあろうかと思いますが、ご参考にしていただければ幸いです。(服部倫卓)

強まるロシア石炭分野の存在感
―供給源としてのポテンシャル―

ロシアNIS経済研究所 次長
坂口泉

はじめに
1.石炭埋蔵量
2.生産をめぐる状況
3.国内消費
4.輸出入をめぐる状況
5.主要企業
6.新鉱床開発プロジェクト
おわりに

はじめに
 日本は世界最大の石炭輸入国であるが、インドや中国に代表される新興国の石炭輸入量が急増しており様々な影響を受けるようになっている。たとえば、2009年後半ごろから、それら新興国における需要拡大の影響を受け原料炭の価格が上昇基調に転じ、日本の鉄鋼メーカーはその対応に苦慮している。また、一般炭に関しても、それら新興国での需要が急増しており(たとえば、中国は最近になりロシアからの一般炭の輸入を本格的に開始した)、今後、国際市場において争奪戦が繰り広げられる可能性も出始めている。そのような状況の中、日本は、オーストラリアとインドネシアに偏重した石炭の輸入ソースを多元化する必要性を以前にも増して強く認識し始めており、ロシアの石炭分野への具体的関心を強めつつある。
 日本側の関心の高まりは、原料炭部門においては、ヤクーチアのエリガ炭鉱やトゥヴァ共和国のエレゲスト炭鉱の開発プロジェクトへの参画を目指すという形で具現化されている。また、一般炭部門では、極東に石炭輸出用ターミナルを建設しアジア太平洋諸国への輸出の強化を目指すロシア最大の一般炭生産会社「SUEK(シベリア石炭エネルギー会社)」と日本の電力会社が契約を結ぶケースなどが目立ち始めている。
 以上の状況を踏まえ、本稿では、石炭の輸入ソースとしてのロシアのポテンシャルを評価する上で必要不可欠となる様々な基礎情報(同国の石炭分野の全般的状況、主要石炭会社の特性と現状、新炭鉱開発プロジェクトの概要等)をご紹介する。


クレムリン・ウォッチ
再選に向けて動き出したメドヴェージェフ

 ロシアの国内政局は早くも次の大統領選挙を視野に入れた動きを見せ始めています。
 今の予定では、大統領選挙の3ヵ月前、つまり2011年12月に下院総選挙が行われます。その結果成立する新しい議会与党勢力が新大統領を支えていくことになります。そのため、政権は誰を大統領にするかと下院総選挙の議席構成とを一体として計画します。目論見通りの選挙結果を実現する手段は、怪しげな方法も含めていろいろとあるのです。
 これまでの例からすると本格的な選挙戦が始まるのは来年の9月頃なので、いまから1年後くらいの間に、次の6年間の政権構成に関して政治エリート内部の妥協と合意が出来上がっていることが必要になります。
 過去2年余のさまざまな情況に照らして考えれば、メドヴェージェフが2期目も務めることが基本的な方向になっていくことが推測できるのですが、ここへきて、少しずつ具体的な動きが観察されるようになってきました。(月出皎司)

エネルギー産業の話題
外国市場への攻勢を強めるロシア原子力産業

 先月号掲載の調査レポートの中で、2010年5月末時点のロシアの民生用原子力分野の外国市場への進出状況について論じましたが、6月に入りいくつかの注目すべき動きがありましたので、今回はそれらをご紹介いたします。(坂口泉)

ロシアビジネスQ&A
ロシア極東の住宅建設市場

 近年、北海道や島根県の行政や企業を中心に、ロシア極東地域を対象として、住宅建材の輸出、住宅建設への参入の可能性を探る活動を活発に行っています。そこで今回はロシア極東の住宅建設の状況についての質問にお答えします。