ロシアNIS調査月報
2011年6月号
特集◆NIS諸国のベクトルを探る
特集◆NIS諸国のベクトルを探る
調査レポート
2010年のNIS諸国の経済トレンド
調査レポート
回復遅れるNIS乗用車市場
―ウクライナ・ベラルーシ・カザフ
調査レポート
カザフスタン臨時大統領選挙と新政府発足
データバンク
2009〜2010年のNIS諸国の貿易統計
データバンク
2010年の日本の対NIS諸国貿易統計
ミニレポート
日本とグルジアの経済関係
データバンク
2010年のNIS諸国の経済統計

ビジネス最前線
三国間貿易でロシア医療機器ビジネスを推進
研究所長日誌
ソ連崩壊20年に想う国家と言語
INSIDE RUSSIA
国民はプーチン支持がやや優勢
ロシア極東羅針盤
ロシアによるロシアのための極東開発
ロシア首長ファイル
スヴェルドロフスク州ミシャリン知事
エネルギー産業の話題
東日本大震災とロシア・エネルギー産業
自動車産業時評
2010年のロシアのトラック市場
ロジスティクス・ナビ
2010年のロシア港湾物流
ロシアビジネスQ&A
◎極東ロシアの農地開発の可能性
業界トピックス
2011年4月の動き
◆ロシア極東貿易の課題と問題点
通関統計
2011年1〜3月の通関実績
日本の対ロシア月別輸出入通関実績
日本の対ロシア月別乗用車輸出動向


2010年のNIS諸国の経済トレンド

ロシアNIS経済研究所

はじめに
 本誌では毎年6月号において、前年のNIS諸国の経済実績を踏まえつつ、各国の最新の経済動向について論評するという企画をお届けしている。本年も2010年のデータがほぼ出揃ったので(データバンク「2010年のNIS諸国の経済統計」参照)、早速それを試みたい(『ロシアNIS経済速報』2011年4月15日および4月25日号より再録)。
 なお、かつて本レポートは「CIS諸国の経済」と題してお届けしていたが、2009年にグルジアがCIS(独立国家共同体)から脱退し、CIS統計委員会の刊行物やウェブサイトにもグルジアの最新データが掲載されなくなってしまった。とはいえ、本誌読者にとって、グルジアは引き続き一定の関心事のはずであり、本企画からグルジアを外す理由もない。そこで、昨年から「NIS諸国の経済」とタイトルを変え(NISであればグルジアも含まれる)、CIS諸国にグルジアも加えた形で、最新統計と経済情勢のレビューを以前と同様にお伝えしている。
 執筆は当会ロシアNIS経済研究所のスタッフによるものであるが、ロシアについては北海道大学スラブ研究センターの田畑伸一郎教授にとくにご寄稿いただいた。


回復遅れるNIS乗用車市場
―ウクライナ・ベラルーシ・カザフ―

ロシアNIS経済研究所 部長
坂口 泉

はじめに
 スクラップインセンティブ、自動車ローンの金利の一部負担といった政府の積極的な消費刺激策に油価の上昇というファクターも加わり、ロシアの乗用車市場は2010年春ごろから急激な回復ぶりを見せているが、政府がこれといった具体的な支援策を打ち出せないでいるNIS諸国の乗用車市場では2010年も全般的に低迷が続いた。
 本稿では、NIS諸国のうちウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの3ヵ国を取り上げ、それぞれの乗用車市場の現状と今後の見通しについて紹介する。また、ベラルーシとカザフスタンに関しては、関税同盟への参加が乗用車市場に及ぼした影響についても言及したい。


カザフスタン臨時大統領選挙と新政府発足

ロシアNIS経済研究所 研究員
中馬瑞貴

はじめに
 2011年4月3日、カザフスタン共和国で任期満了前開催の臨時大統領選挙が実施された。投票率は89.98%(8,279,227人)、再選した現職ナザルバエフ大統領の得票率は95.55%と異常に高い数字であった。本来、次の大統領選挙は2012年に実施される予定であったが、1年以上前倒しで行われた。なぜこの時期に、臨時大統領選挙という形で選挙が実施されたのか、当会発行のロシアNIS経済速報2011年4月5日号NO.1525で今回の大統領選までの経緯をお伝えした。
 その後、大統領の就任式、首相・大臣の任命が行われ、新政府が発足した。そこで本稿では、最終的な選挙結果を交えながら、選挙実施の経緯について改めて簡単に確認した後、今回組閣された新政府や今後の政策について紹介する。前述の経済速報の記事とも一部重複する内容が含まれている点についてはご了承いただきたい。


データバンク
2009〜2010年のNIS諸国の貿易統計

はじめに
 小誌では、NIS諸国の基礎的な経済データの紹介に努めており、その一環として毎年1回、NIS諸国の貿易データをまとめて掲載することにしている。その際に、以前は基本的に、CIS統計委員会の統計集『CIS諸国の外国貿易』を情報源として利用していた。同統計集はロシア・NIS諸国の貿易データを同一の様式で載録しており、有用だからである。
 しかし、『CIS諸国の外国貿易』は近年刊行に時間がかかるようになり、年初も過ぎた頃にやっと2年前の統計が出るというサイクルになりつつある。今回も、2009年の貿易データを採録した『2009年のCIS諸国の外国貿易』を我々が入手できたのは、ようやく本年の2月頃であった。他方、昨今では各国の統計関係のウェブサイトが充実し、貿易データもネットでとれる国が増えてきている。そこで、昨年から本レポートのシリーズでは、『CIS諸国の外国貿易』にもとづき統計を共通様式で紹介することを基本としつつも、可能な範囲内で最新値である前年のデータも盛り込むという形のリニューアルを図った。本年は、最新値の補足を、昨年以上に充実させたつもりである。


データバンク
2010年の日本の対NIS諸国貿易統計

はじめに
 恒例により、日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2010年の日本とNIS諸国との貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。日ロ貿易については、すでに5月号に掲載済みである。
 本資料では、財務省発表の円表示の貿易統計を、独自にドル換算して示している。その際に、各国の「貿易動向」の表が、月ごとの為替レートで換算した数値を積み上げたものであるのに対し、「輸出商品構成」および「輸入商品構成」の表は年平均レートで単純に換算したものであり、したがって両者は総額が微妙にずれているので、ご注意されたい。
 なお、当会では以前、日本とロシア・NIS諸国の輸出入通関実績の細かいデータ(輸出入統計品目表の4桁のレベルのデータ)を、本月報に掲載してきた。しかし、紙媒体に掲載することはひとまず役割を終えたとの判断から、現在では同資料は当会ウェブサイトの「会員専用ページ」のコーナーで公開することとし、雑誌への掲載は取り止めさせていただいている。


ミニレポート
日本とグルジアの経済関係

 日本がグルジアの国家承認を行ったのは1992年4月である。同年8月には外交関係を樹立。ただし両国間に大使館を設置するまでにはいたらなかった。当初、日本の対グルジア関係を担当したのは在ロシア日本大使館、その後は在アゼルバイジャン日本大使館であり、在グルジア日本国大使館が開設されたのは2009年1月だった(5月13日、蒲原正義大使による信任状奉呈。なお、2007年2月には在京グルジア大使館が開設されている)。(芳地隆之)


ビジネス最前線
三国間貿易でロシア医療機器ビジネスを推進

蟹CST 代表取締役
横井博之さん

はじめに
 今回ご登場いただく横井さんは、長年、医療・健康機器の開発に携わってきた経験を生かして、ICST(Institute of Circulation System Technology)を設立。日本をコントロールセンターとし、中国・台湾で委託生産した製品を直接ロシアへ輸出するという三国間貿易のビジネスモデルを確立しました。ロシア市場ではどういった製品のニーズがあるのか。それを見極めるため、ロシア出張は欠かさず、既存の製品で該当するものがなければ、ICSTが独自に製品を企画する。ロシア政府が医療制度改革や医療サービスの充実に力を入れている現在、ICSTはロシアビジネスのさらなるステージに踏み出そうとしています。


INSIDE RUSSIA
国民はプーチン支持がやや優勢

 2012年ロシア大統領選を控え、本コーナーでもそのモードに入っていきたいのだが、今号では紙幅の都合で簡単な記事しか載せられない。今回は、ロシア「レヴァダ・センター」の世論調査結果を紹介したい。ロシアの選挙は必ずしも世論で決まるわけではないが、一つの重要な前提条件であることは間違いないはずだからだ。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
ロシアによるロシアのための極東開発

 湾を横断する巨大な連絡橋、最新の国際旅客ターミナルなど、いま、ロシアは、巨額資金をウラジオストクに集中投下し、アジア太平洋地域への進出に戦略の舵を切った。来年9月に沖合のルースキー島でAPEC首脳会合を開催するのを機に、ウラジオストクを「ロシアの東の玄関口」と位置づけ、インフラ整備と再開発に2兆円近くを投じる。ホテルや国際会議場といったハコモノだけでなく、自動車組み立てや風力発電など次々と新しいプロジェクトを立ち上げるロシアに、日本、韓国、中国などアジアの企業が熱い視線を送る。高い技術力と丁寧な仕事で一日の長がある日本企業に、低コストとスピードを売り物にする韓国や中国企業が競い合う。そこに技術力をつけたシンガポールや台湾などの新興国企業が参入する。地元ロシア勢もだまっていない。すべてのプロジェクトでメインコントラクターとなり、開発を主導する。自信をつけたロシアは、国産技術優先をちらつかせ、外資排除の動きを見せる。日本企業はなかなか入り込めずに苦闘する。2014年のソチ冬季五輪と並ぶ、目覚ましい経済成長で変貌したロシアを全世界にアピールする舞台、ウラジオサミットまで500日をきった。(齋藤大輔)


ロシア首長ファイル
スヴェルドロフスク州ミシャリン知事

はじめに
 今回は、ロシアの中央部ウラル地方を構成し、ヨーロッパとアジアの境目に位置するスヴェルドロフスク州知事を紹介する。エリツィン元大統領の出身地でもあるこの州を同大統領政権時代から約20年間支配してきたロッセリ前知事はタタルスタンのシャイミエフやバシコルトスタンのラヒモフ前大統領、モスクワ市のルシコフ前市長と並ぶ「重鎮」であった。彼の後任として新しい州知事に就任したのは連邦中央から地元に戻ったアレクサンドル・ミシャリンである。(中馬瑞貴)


エネルギー産業の話題
東日本大震災とロシア・エネルギー産業

 東日本大震災の発生を受けロシアのエネルギー産業は非常に迅速な動きを示し、サハリン産のLNGの日本への供給量を増やすという措置を速やかに講じました。また、中長期的な視野にたった日本へのエネルギー資源の安定的供給を念頭に置き、サハリンや東シベリアのガス鉱床の開発を加速させる意向も表明しました。今回は、ロシア側のそれらの動きをご紹介します。(坂口泉)


自動車産業時評
2010年のロシアのトラック市場

 今回は、ロシアの自動車専門雑誌『アフトビジネス』の2011年1月号に掲載されている記事、ASMホールディングが発表している数字等を参考に、2010年のロシアのトラック市場の状況をご紹介します。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
2010年のロシア港湾物流

 ロシア港湾は海を隔てた日本、米州、豪州は言うまでもなく、ロシアの最大の貿易相手国である中国や西欧諸国、韓国との貿易においても中心的役割を果たしています。ロシアの港湾物流の現状について、最新データを基に紹介します。(辻久子)


ロシアビジネスQ&A
極東ロシアの農地開発の可能性

  ロシアでは、ソ連崩壊後、コルホーズ(集団農場)やソホーズ(国営農場)が崩壊し、多くの農地が利用されず荒廃してしまいました。そこで、近年、ロシア政府は、農業法人や農家が、新しい農地の開発や耕作放棄地・休耕地の再開発を行う際に、有機肥料や化学肥料の購入費用や土地改良の費用に対する補助を行い、ロシアの農業の復興と穀物や畜産品などの増産を図っています。一方、日本からロシアに農産物や加工食品を輸出するにあたっては、東日本大震災による福島原発事故にともなう一部地域の農産物の輸入禁止措置以前から、植物検疫や衛生証明の取得など、農産物の輸出の拡大にとって難しい環境が存在していました。ロシアにおいて日本人が直接農業を営み、農作物や加工食品のロシア市場での販売や日本への供給を真剣に考えるべき時期がきているようです。そこで、今回はロシアにおける農地開発の可能性についての質問にお答えします。(井上大樹)