ロシアNIS調査月報
2011年12月号
特集◆ソ連解体と
NIS諸国の独立から20年
特集◆ソ連解体とNIS諸国の独立から20年
特別寄稿
新・「危機の20年」
―ソ連崩壊20周年によせて―
調査レポート
ビジネスの視点から見たソ連解体史
調査レポート
ロシアとカザフスタンの石油産業の歩み
調査レポート
ロシア資本主義化20年の軌跡
―人的ネットワークを中心に―
調査レポート
タジキスタンの最新事情
―日本企業の合弁進出と最近の経済情勢―
ビジネス最前線
ロシアからCIS諸国へ広がるカネボウ化粧品
イベント・レポート
第3回日本カザフスタン経済官民合同協議会
ミニ・レポート
ロシア・ウクライナ、20年後の攻防
ミニ・レポート
ベラルーシを覆う閉塞感
ミニ・レポート
議会制民主主義をめざすキルギス
INSIDE RUSSIA
プーチンのユーラシア連合構想
ドーム・クニーギ
『ウクライナ・ベラルーシ・モルドバ経済図説』

ロジスティクス・ナビ
ユーラシア鉄道輸送の拡大
エネルギー産業の話題
極東のガスパイプラインをめぐって
自動車産業時評
ロシアのWTO加盟と自動車産業
ロシアビジネスQ&A
◎風評被害対策への取り組み
―ロシア向け日本食品商談会の開催―
業界トピックス
2011年10月の動き
◆フィンランド・ロシア・日本ビジネスフォーラム
通関統計
2011年1〜9月の通関実績
日本の対ロシア月別輸出入通関実績
日本の対ロシア月別乗用車輸出動向


新・「危機の20年」
―ソ連崩壊20周年によせて―

法政大学 法学部教授
下斗米伸夫

はじめに
 1991年12月の歴史的なソ連崩壊から今年12月で満20年になる。世界史の「進歩」を信じていた一部の人々にとってはまったく不可解であっただろうが、世界と旧ソ連地域はまったくユニークな大転換を経験した。
 そのソ連が崩壊したのと同時にヨーロッパでは統合、とくに通貨統合へのアクセルを強めたマーストリヒト条約が締結された。ソ連の解体とヨーロッパの統合とは、あたかも一対の世界史的現象として理解された。この2つの動きは市場経済と民主化への動きが不可避であるという「ワシントン・コンセンサス」を確認したかに思われた。くしくも旧ソ連の12共和国がソ連邦解体と独立国家共同体(CIS)創設の声明を出した1991年12月、ヨーロッパの12ヵ国は主権の棚上げとヨーロッパ統合を決議したのである。
 それから10年、1999年にはヨーロッパはユーロという歴史的な通貨統合をすすめ、他方ソ連の後継国家であるロシア連邦は98年夏の金融危機のさなかにあった。ロシアの経済は再び危機状況におちいり、IMFが必死に安定化しようとした通貨ルーブリは3分の1から4分の1へと減価した。
 ところがそれから10年余でロシアはあたかも甦ったかに見える。サンクトペテルブルグ市政からウラジミル・プーチンが中央政界にはいり首相となったのが1999年8月であったが、ソ連崩壊20年目になる今年、世界情勢は一転して別の時代に入ったかのようである。
 いなロシアが復活したというのは言葉の半分でしかない。実態からみればロシアはエネルギー価格の高騰をいかし、これをソフト・パワーとして巧みに利用したにすぎないともいえるからだ。それにしてもロシアがBRICsの新興経済国として世界6位ともいわれる経済大国に復活していくなか、むしろヨーロッパ統合のほうが危機に陥りはじめている。通貨ユーロの将来を脅かしかねないギリシャの財政金融危機にヨーロッパ連合は解体の危機におびえている。つまりロシアが変わったというよりも、グローバル世界の方が変転過程に入ったのである。
 このことを象徴的に示したのがプーチンの最近の言動である。ロシアは9月24日にプーチン首相を早々と2012年3月の大統領選挙候補に決めた。さっそくプーチンは10月はじめの『イズベスチヤ』論文で旧ソ連地域を包含したユーラシア連合を立ち上げることを宣言した。さらにはCIS首脳会議では自由貿易協定を進めようとしている。このような変転する世界とロシアとを双方とも視野におさめるべきであろう。とりわけ旧ソ連圏にとってこの20年間とはいったい何であったのか。新・「危機の20年」とも言えるべき角度から検討されるべきではないか。


ビジネスの視点から見たソ連解体史

ロシアNIS経済研究所 所長
遠藤寿一

はじめに
 1917年10月ロシア帝国は、人類最初の社会主義革命により崩壊したが、その後の内戦と外国軍の干渉戦で混乱が続き、ソビエト社会主義共和国連邦が成立したのは5年後の1922年12月30日であった。
 その後ソ連は、米国と並ぶ二大国として20世紀の世界をリードしてきたが、69年を経た1991年12月21日カザフスタン共和国の首都アルマアタで開催された、バルト三国とグルジアを除く11ヵ国首脳会議において、ソ連邦の消滅と独立国家共同体成立を確認した議定書など5文書を採択し、その歴史的役割を終えた。
 この時から20年が経ち、「ソ連崩壊は失敗であった」と主張するプーチン次期大統領候補は、10月4日『イズベスチヤ』紙に寄稿し、旧ソ連諸国を単一経済圏「ユーラシア連合」とする構想を展開して、内外の注目を集めることになった。


ロシアとカザフスタンの石油産業の歩み

ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉

はじめに
 ロシアとカザフスタンはいずれも旧ソ連を代表する産油国であるが、ソ連解体後の両国の石油分野の20年を振り返ってみると、類似点はもちろん存在するものの、相違点も目立つ。特にもっとも目につく相違点は、外資への対応である。ロシアの石油分野がどちらかといえば外資に対して閉鎖的であるのに対し、カザフスタンの場合は積極的に外資を誘致することにより石油分野を発展させてきたとの印象が強い。実際、ロシアの石油分野では石油の総生産量に占める外資系企業のシェアは小さくなっているが、カザフスタンの石油分野では当該の数字は非常に大きなものとなっている。また、PSA(生産物分与契約)への対応ぶりや、民営化のプロセスを見ても、共通点の方が多いものの、微妙な相違点が見受けられる。
 本稿では、それらの相違点に焦点をあてながら、ロシアとカザフスタン両国の石油分野の20年の歩みを振り返ってみたい。その他、両国の石油の生産量の推移や今後の展望についても言及したい。


ロシア資本主義化20年の軌跡
―人的ネットワークを中心に―

高知大学 人文学部
塩原俊彦

はじめに
 ロシアの資本主義化20年を人的ネットワークと関連づけて論じることが本稿の目的である。その過程は、「ドル経済化」と「擬似会社国家化」のふたつの段階に大別することができる。ここでは第1に、ロシアの資本主義化が過度の自由化によって大きく歪められ、それが「ドル経済化」につながり、大企業の形成に影響をあたえた側面に注目したい。第2に、プーチン大統領就任後、財政資金の拡大をテコに、プーチン人脈と結びつくことで構築された大企業ネットワークを分析する。これは、いわゆる「グローバリゼーション」に呼応する形で進んだから、国家を会社のように経営するというNew Public Managementという世界的潮流に沿って展開された。これを、本稿では「擬似会社国家化」とみなす。最後に、若干の展望を示したい。


タジキスタンの最新事情
―日本企業の合弁進出と最近の経済情勢―

前アジア開発銀行タジキスタン駐在事務所長
本村和子

はじめに
 タジキスタンが独立20周年を迎えた2011年9月、日本とタジキスタンの第1号合弁企業の工場がタジキスタン南部、アフガニスタン国境近くで稼働開始した。この事業では日本企業の技術でタジキスタンの甘草資源を加工し、付加価値を高めて輸出すると同時に、資源を保護・育成することもめざしており、これまでに200人余りの現地雇用を生み出した。
 タジキスタンでは内戦終了後、社会秩序の回復に伴い、経済は国際支援を受けながら比較的順調に成長を続けた。しかし人口に占める貧困層の割合はいまだに46%(2009年現在)と高く、引き続き高い経済成長により生活水準の向上を急がなければならない。そのために現在、もっとも必要とされているのは、経済の牽引役となる民間経済の活性化と外資導入である。こうした中で始動したこの合弁事業は、外資導入の一つのモデルケースとして両国政府にも注目されるところとなっている。
 本稿では、この合弁事業設立の背景と経緯、事業の概要とあわせて、タジキスタンの独立後20年の歩みと、経済・社会の現状および今後の開発の展望を紹介する。タジキスタンとのビジネスや協力事業にご関心のある関係者各位のご理解の一助となれば幸いである。


ビジネス最前線
ロシアからCIS諸国へ広がるカネボウ化粧品

カネボウコスメティックスロシア社長
横江勝彦さん
潟Jネボウ化粧品 欧米戦略グループ統括マネージャー
千葉真人さん

はじめに
 ロシアの化粧品市場には「ブランドロイヤリティ」に加えて、「カントリーロイヤリティ」がある――カネボウコスメティックロシアの社長を務める横江さんの実感です。「メイドインジャパン」に対する高い評価と信頼に支えられ、カネボウ化粧品が大切にする「OMOTENASHI」がロシア人女性の心をとらえました。同社が欧米で展開する最高級ブランド「SENSAI」の売上はロシアでも順調に伸びています。また、ロシア・ベラルーシ・カザフスタンの関税同盟がカザフ進出を後押しし、次期大統領に目されるプーチン首相の自由貿易圏構想によって、カネボウ化粧品のビジネスがさらに拡大するかもしれません。今号では本社で欧州事業を統括されている千葉さんと、一時帰国された横江さんにお話を伺いました。


イベント・レポート
第3回日本カザフスタン経済官民合同協議会

はじめに
 2011年10月6日、カザフスタン共和国アスタナにおいて、「第3回日本カザフスタン経済官民合同協議会(第12回日本カザフスタン経済合同会議を兼ねる)」が開催されました。主催は、経済産業省、外務省、日本カザフスタン経済委員会、(社)ロシアNIS貿易会、カザフスタン共和国産業・新技術省、カザフスタン日本経済委員会です。
 同協議会は、2009年10月の第1回(アスタナ開催)、2010年9月の第2回(東京開催)に続くもので、日本より岡田秀一・経済産業審議官、寺村元伸・日本カザフスタン経済委員会会長ほか、政府機関および商社、メーカー、銀行等から約110名、カザフスタン側からはイセケシェフ副首相兼産業・新技術省大臣、ジャクサリエフ同省次官ほか政府機関、企業関係者約140名、合計約250名が参加しました。
 カザフスタン共和国独立20周年の節目に行われた今回の協議会は、これまでの両国の経済協力の歩みを再確認し、今後の更なる経済関係強化に向けた有意義な意見交換の場となりました。
 協議会前日には、原田駐カザフスタン日本国特命全権大使主催によるレセプションが、協議会終了後には、カザフスタン側主催レセプションが開催され、翌日にはアスタナ・インダストリアルパーク視察が行われました。
 以下では、経済産業省通商政策局ロシア・中央アジア・コーカサス室津田室長による本協議会の総括コメントおよび会議でのイセケシェフ副首相兼産業・新技術省大臣の発言内容を掲載するとともに、事務局を担当したロシアNIS貿易会より協議会概要についてご報告致します。


ミニ・レポート
ロシア・ウクライナ、20年後の攻防

はじめに
 筆者は小誌2011年3月号に掲載した「ヤヌコーヴィチ政権下のウクライナ政財界地図」のなかで、以下のような点を指摘した。すなわち、ヤヌコーヴィチ政権になり、ウクライナ情勢は総じて安定に向かった。ヤヌコーヴィチは「親ロシア」であるという世評があるが、実際に同政権が軸足を置いているのは欧州統合路線である。ヤヌコーヴィチ政権は経済ナショナリズムを旨とし、ウクライナの経済的国益をロシアの攻勢から守るという点においては、前政権よりもむしろタフな姿勢を見せている。
 しかし、ここ数ヵ月に起きた出来事、とりわけ「ティモシェンコ事件」により、ウクライナ情勢はその様相を変えつつある。筆者はヤヌコーヴィチ政権自体の対外戦略は基本的に変わっていないと理解しているが、同政権は自らの失策により、ウクライナを袋小路に追い込んでしまった感が強い。
 ウクライナはもともと旧ソ連15共和国のなかでロシアに次ぐ存在であり、ウクライナなしのソ連邦はありえないとすら言われていた。1991年12月のウクライナ国民投票で、圧倒的多数で独立が承認されたことが、ソ連邦に引導を渡したのである。そのウクライナが、ソ連崩壊から20年の時を経て、再びユーラシア地政学の焦点として浮上している。ティモシェンコ事件で国際的孤立に苦しむウクライナの足元を見るように、ロシアはウクライナに関税同盟への加入を迫っている。プーチン首相が先般提唱した「ユーラシア連合」にしても、ウクライナが加入する・しないで、その地政学的重みがまったく違ってくる。
 この小文では、ヤヌコーヴィチ政権成立後のロシア・ウクライナ関係につき、事実関係を整理し、現地専門家の分析等を紹介する。(服部倫卓)


ミニ・レポート
ベラルーシを覆う閉塞感

 7月3日、ベラルーシは独立20周年を経済危機の下で迎えた。通貨切り下げによる物価の高騰、外貨不足、ロシアからの電力供給停止と社会不安が高まる中での異例の記念日となった。30億ドルの融資を実施中のロシアなどのユーラシア経済共同体から1回目の入金として8億ドルが振り込まれ、危機的状況から一息つく一方、80億ドル規模の融資を要請した国際通貨基金(IMF)からの支援が受けられる見通しはたっていない。(齋藤大輔)


ミニ・レポート
議会制民主主義をめざすキルギス

はじめに
 2005年に「チューリップ革命」を経験したキルギス共和国では、2010年4月に首都ビシュケクで暴動が発生し、再び政変が起こり、バキエフ大統領が失脚。かつて外務大臣を務めた経験を持つローザ・オトゥンバエヴァ率いる国民信頼政府(暫定政府)が成立した。暫定政府は2010年5月19日の政府決定で「移行期大統領」のポストを導入することを定め、オトゥンバエヴァ首相にキルギス共和国移行期大統領権限を委譲することを決定し、6月27日の国民投票で大統領が承認された。
 移行期大統領の任期が残り2ヵ月となった2011年10月30日、政変後最初の共和国大統領選挙が行われ、現職のアタムバエフ首相(写真)が圧倒的な得票で大統領に選出された。正式な就任は年末までに予定されている。
 本稿では旧ソ連で初めて、議会制を採用することすることを新憲法で定めてから1年以上が経過し、政府、議会、大統領とようやく主要な政治体制が定まりつつあるキルギスについて、政変・新憲法(議院内閣制)・選挙(議会・大統領)という3つのキーワードから昨今の情勢について解説してみたいと思う。(中馬瑞貴)


INSIDE RUSSIA
プーチンのユーラシア連合構想

はじめに
 ロシアのプーチン首相は先日、『イズベスチヤ』紙に「ユーラシアにとっての新たな統合プロジェクト ―今日生まれる未来―」と題する論文を寄稿した。このなかでプーチン首相は、旧ソ連空間で「ユーラシア連合」と称する新たな国家統合の枠組みを主導していく考えを表明し、内外で話題となった。今回は、このプーチン論文を全文訳出して紹介するとともに、若干の解説をお届けする。(服部倫卓)


ロジスティクス・ナビ
ユーラシア鉄道輸送の拡大

 シベリア鉄道を軸とした国際コンテナ輸送は、リーマン不況に起因した落ち込みから完全回復し、新たな展開を見せています。キーワードは、@欧州発着貨物、A自動車部品の大量定期輸送です。さらに、一度衰退した欧州と東アジアを結ぶトランジット輸送が中国をベースとして復活する動きが注目されます。シベリア横断鉄道調整評議会(CCTT)年次総会資料などを基に最近の動向を紹介します。(辻久子)


エネルギー産業の話題
極東のガスパイプラインをめぐって

 2011年9月に、サハリンを起点として沿海地方に至る総延長約1,800qのガスパイプラインの第1期工事の完成を祝う式典が、プーチン首相も出席して華々しく行われました。ただ、これに関しては、様々な問題点が指摘されています。工事単価の高さ、ガス需要の見通しの甘さ、ガスの供給源の問題等々です。今回は、このパイプラインの概要と、それが抱える主な問題点についてご紹介します。(坂口泉)


自動車産業時評
ロシアのWTO加盟と自動車産業

 2011年に入り導入された新工業アセンブリ措置は、ロシアのWTO加盟を阻害する最大の問題のひとつとみなされていましたが、10月下旬になり、EUとの間でこの問題の解決策に関する合意が得られたとの情報が出ました。米国との間でもこの問題に関する合意が得られたようで、グルジアとの問題さえ解決されれば、ロシアが早期にWTOに加盟する可能性が高くなったとの見方が出始めています。この状況を受け、今回は、新工業アセンブリ措置をめぐりEUおよび米国との間で具体的に何が争点となっていたのかという点や、もしロシアがWTOに加盟した場合、同国の自動車産業にどのような影響が出るのかといった点についてご説明します。(坂口泉)


ロシアビジネスQ&A
風評被害対策への取り組み
―ロシア向け日本食品商談会の開催―

 ここ数年、日本食ブームもあり、日本食品のロシアへの輸出は急速に伸びていましたが、今年3月に起きた東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所事故による放射能汚染への懸念から、日本の一部地域産の農作物と加工食品のロシアへの輸入が制限され、今年のロシアへの日本食品輸出は厳しい状況にあります。しかしながら、ロシアにおける日本食の人気は依然として高く、食品バイヤーは、安全で安心しかも高品質な日本食品を求めて、日本企業の積極的な提案を望んでいます。今回は、今年度中に開催されるロシア向け食品輸出促進の催し物の予定についてご案内いたします。(原真澄)