ロシアNIS調査月報
2012年6月号
特集◆NIS経済とユーラシア新秩序

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5月20日発行    

特集◆NIS経済とユーラシア新秩序
調査レポート
2011年のNIS諸国の経済トレンド
調査レポート
ユーラシア統合の求心力と遠心力
調査レポート
ユーラシア連合構想と域内共通労働市場
調査レポート
2011年のNIS主要国の乗用車市場
ビジネス最前線
ロシアNISでの甘草事業を支える使命感
ビジネス最前線
大胆さと緻密さで進めるグルジアビジネス
データバンク
2011年の日本の対NIS諸国貿易統計
データバンク
2011年のNIS諸国の経済統計

調査レポート
沿海地方に新たな風 ―ダリキン時代の終焉―
研究所長随想
ウリヤノフスク出身の2人のモロゾフ
INSIDE RUSSIA
ロシア新政権の経済政策の焦点
エネルギー産業の話題
ロシアの随伴ガス有効利用の現状
自動車産業時評
WTO加盟に対応するロシア自動車産業
ロジスティクス・ナビ
ロシア極東港湾物流を読む
業界トピックス
2012年4月の動き
◆稚内・サハリンの架け橋となるホクユーストアー
通関統計
2012年1〜3月の通関実績
2012年1〜3月の日ロ貿易


2011年のNIS諸国の経済トレンド

ロシアNIS経済研究所

はじめに
 本誌では毎年6月号において、前年のNIS諸国の経済実績を踏まえつつ、各国の最新の経済動向について論評するという企画をお届けしている。本年も2011年のデータがほぼ出揃ったので(データバンク「2011年のNIS諸国の経済統計」参照)、早速それを試みたい(『ロシアNIS経済速報』2012年4月15日および4月25日号より再録)。
 執筆は当会ロシアNIS経済研究所のスタッフによるものであるが、ロシアについては北海道大学スラブ研究センターの田畑伸一郎教授にとくにご寄稿いただいた。


ユーラシア統合の求心力と遠心力

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
 ロシア・ベラルーシ・カザフスタン3国による関税同盟が、2012年1月1日から「共通経済空間」(以下ではCESと略記する)へと発展するなか、この3国以外のCIS諸国が関税同盟/CESに加わる可能性が重要な焦点となっている。そこで本稿では、3国以外の独立国家共同体(CIS)各国が関税同盟/CESに、さらにはプーチン・ロシア新大統領が提唱している将来的な「ユーラシア連合」に参加する可能性を、現地の報道や専門家による分析に依拠しながら、国ごとに検討することを試みる。その際に当該諸国を、1.参加に前向きな国(キルギス、タジキスタン)、2.欧州とユーラシアの狭間の国(ウクライナ、モルドバ、アルメニア)、3.参加に否定的な国(アゼルバイジャン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)と、大きく3つのグループに分けて分析することにする。


ユーラシア連合構想と域内共通労働市場

富山大学極東地域研究センター 教授
堀江典生

はじめに
 プーチン首相が2011年10月4日にイズベスチア紙で発表した論文「ユーラシアにとっての新たな統合プロジェクト:今日生まれる未来」においてユーラシア連合構想が披露された。詳しくは、『ロシアNIS調査月報』2011年12月号のプーチン論文の翻訳を参照されたい。そして、関税同盟を基礎とした共通経済空間の設立が2012年1月にロシア、ベラルーシ、カザフスタン各国の首脳により宣言され、これら3ヵ国の域内労働移動が労働許可制の撤廃により自由化された。事実上、この共通経済空間の域内には共通労働市場が形成されようとしている。プーチン首相がこの論文で強調したように、EU諸国のシェンゲン協定に倣い、域内国境での国境検査が廃止され、域内住民の移動の自由だけでなく、域内での居住移転の自由が保証され、労働割当などの外国人労働規制がなくなり職業選択の自由が保障されることになり、まさしく域内で「居住・教育・労働の地を選択できる」ようになったのである。
 ただ、この3ヵ国のうち、ベラルーシは連合国家の一員であったので、そもそもロシアの外国人労働者管理の対象外だったし、カザフスタンからロシアで働く外国人労働者の数は、2010年に8,267人しかいなかったことを考えると、これら3ヵ国の労働市場の統合はそれほどロシアの労働市場に大きな影響を与えるものではないと想像できる。
 ロシアにとっての労働力の供給源は、ベラルーシやカザフスタンではなく、カザフスタンを除く中央アジア諸国である。また、ウクライナもウズベキスタンとタジキスタンに次ぐロシアへの労働力供給の源泉である。共通経済空間の拡大の先にユーラシア連合があるとするならば、そこで形成される域内共通労働市場にウズベキスタン、タジキスタン、キルギス(クルグズスタン)、ウクライナなどロシアへの労働力供給を担っている国々が参加する意義を考えなくてはならない。そして、現在のロシアの移民政策・外国人労働者管理がそうした方向に向かうべく整備されているのか、振り返って検討したい。


2011年のNIS主要国の乗用車市場

ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉

はじめに
 本稿では、NIS諸国のうちウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの3ヵ国を取り上げ、それぞれの乗用車市場の現状と今後の見通しを紹介するが、ウクライナ市場に関しては、WTO加盟が及ぼした影響、国内自動車産業保護政策に関する動き等に注目しながら、その状況を紹介したい。また、ベラルーシ市場に関しては、関税同盟への参加が市場に及ぼした影響や付加価値税上の特典の廃止が及ぼす影響などに注目しながら、その現状を紹介する。さらに、カザフスタン市場に関しては、関税同盟への参加が市場に及ぼした影響の他に国内乗用車メーカーの増産計画にも注目しながら、その現状と今後の展望を紹介する。


ビジネス最前線
ロシアNISでの甘草事業を支える使命感

宏輝梶@代表取締役社長
吉田博さん

はじめに
 宏輝は漢方薬の原料となる甘草の加工工場をタジキスタンに設立し、同国への進出日本企業第1号として注目を集めました。社訓(「製品を通じて、患者様の健康に貢献すること、雇用を通じて、社員・家族の生活に貢献すること、納税を通じて、社会に貢献すること」)を国内外で実践するためには、事業家が3K(きつい、汚い、危険)を厭ってはいけない――「永遠の恋人」である甘草を求め、ロシアNIS各国の辺境へと足を運ぶ吉田さんはこう断言します。その理由は、本文をお読みいただければ、おわかりになるでしょう。社会的な使命感とビジネス成功のための意欲と知恵が吉田さんのエネルギッシュな活動を支えています。


ビジネス最前線
大胆さと緻密さで進めるグルジアビジネス

潟lイチャープラス 代表取締役社長
阿原聡さん

はじめに
 阿原さんは、グルジアからミネラル・ウォーターのボルジョミを輸入するために、ネイチャープラスを設立されました。同社はグルジア・ヨーグルトのマツォーニの種菌を輸入し、大手食品メーカーと組んで製品化にも成功。さらにワイン、チーズ、蜂蜜、ジャム、紅茶、ハーブティ等の輸入の計画を進めています。食品輸入以外では、中古車関連ビジネスや「グルジア・カフェ」のチェーン店展開など、グルジアをテーマとする様々なビジネスプランをお持ちです。旧ソ連圏ビジネスに縁も所縁もなかった阿原さんのグルジアとの奮戦は、ロシアをはじめとする旧ソ連諸国とのビジネスを目指す多くの人々にとって、様々な示唆に富む、生きた参考書のように思えるのではないでしょうか。


データバンク
2011年の日本の対NIS諸国貿易統計

はじめに
 恒例により、日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2011年の日本とNIS諸国との貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。日ロ貿易については、すでに5月号に掲載済みである。
 本資料では、財務省発表の円表示の貿易統計を、独自にドル換算して示している。その際に、各国の「貿易動向」の表が、月ごとの為替レートで換算した数値を積み上げたものであるのに対し、「輸出商品構成」および「輸入商品構成」の表は年平均レートで単純に換算したものであり、したがって両者は総額が微妙にずれているので、ご注意されたい。
 なお、当会では以前、日本とロシア・NIS諸国の輸出入通関実績の細かいデータ(輸出入統計品目表の4桁のレベルのデータ)を、本月報に掲載してきた。しかし、紙媒体に掲載することはひとまず役割を終えたとの判断から、現在では同資料は当会ウェブサイトの「会員専用ページ」のコーナーで公開することとし、雑誌への掲載は取り止めさせていただいている。


沿海地方に新たな風
―ダリキン時代の終焉―

ロシアNIS経済研究所
主任 齋藤大輔
研究員 中馬瑞貴

はじめに
 2012年2月28日、11年間、沿海地方の知事を務めたセルゲイ・ダリキンが解任された。5日後の3月4日に大統領選挙が予定されていた最中での出来事であり、このような時期に地方首長が解任されることは、ロシアでも異例であった。大統領府の公式発表によると、ダリキン自身が主に健康上の理由で退任を希望した。しかし、大統領による任命制になってからよくある話であるが、自発的な退任というのはあくまでも表向きの理由であり、クレムリンからの圧力か、それに近い誘導があったとの見方が強い。後任には極東連邦大学学長のヴラジミル・ミクルシェフスキーが就任した。
 今年9月にAPEC首脳会合の開催を控え、国内外の注目を集める沿海地方での知事交代劇についてまとめるとともに、強烈な個性を放ち続けたダリキンの11年を振り返る。


INSIDE RUSSIA
ロシア新政権の経済政策の焦点

はじめに
 3月4日の投票で63.6%(公式発表)を得票し大統領に当選したV.プーチン氏は、5月7日に就任式を挙行し、正式に6年間の新たな政権をスタートさせた。そして、かねてから表明していたとおり、D.メドヴェージェフ氏を首相に指名し、8日に下院によってこれが承認された。かくして、2011年9月の与党「統一ロシア」の党大会でその方針が発表された大統領と首相の「入れ替わり」というウルトラCが、ここに完結したことになる
 今号のこのコーナーでは、プーチン新体制の下で、ロシアの経済政策のどのような点が焦点となるのか、整理を試みたい。(服部倫卓)


エネルギー産業の話題
ロシアの随伴ガス有効利用の現状

 2009年1月8日付政府決定「フレアスタックにおける石油随伴ガス燃焼生成物による大気汚染の低減促進措置について」が、2012年1月1日より発効しました。この政府決定では随伴ガスの有効利用率95%を達成することが義務付けられており、その数値を達成できない石油会社にはフレア処理分に対し割増の罰金が科せられることになりました。そこで今回は、有効利用率95%達成に向けた各石油会社の最新の動きをご紹介します。(坂口泉)


自動車産業時評
WTO加盟に対応するロシア自動車産業

 ロシアは年内中にWTOに正式加盟することになっていますが、そのことはロシアの自動車産業に大きな影響を及ぼすと考えられています。その関係で、ロシア政府は現在、WTO加盟の影響を最小限に抑えるべく、様々な対応策の検討を急いでいます。今回は、現時点で浮上している対応策の中からいくつかをご紹介することとします。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
ロシア極東港湾物流を読む

 日本との関係が深いロシア極東港湾の物流事情について、港湾統計『2011年のロシア、バルト諸国、ウクライナの海港を通じた貨物取扱状況』(Mortsentr-TEK)から読み解くこととします。(辻久子)