ロシアNIS調査月報
2012年9-10月号
特集◆ロシアの貿易と
高付加価値化の課題

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8月20日発行    

特集◆ロシアの貿易と高付加価値化の課題
調査レポート
2011年のロシアの貿易統計
調査レポート
ロシアの石油ガス輸出の高付加価値化
ビジネス最前線
極東林産業における日ロ協業のビジネスモデル
データバンク
2011年のロシア極東の貿易

調査レポート
ロシア医薬品市場の最新動向
調査レポート
ロシアの軍需産業と主要企業
キーパーソンに訊く
駐日大使は、私の外交官キャリアで最も重要な任務
アファナシエフ駐日ロシア大使インタビュー
ミニ・レポート
拡大の様相を見せるロシアの経済特区
研究所長随想
半世紀前に実現した日本財界大型使節団のソ連訪問
自動車産業時評
ロシア自動車市場の特徴と対応策
―シュコダ、シボレー、現代の事例
ロジスティクス・ナビ
改革を継続するロシア鉄道
業界トピックス
2012年7月の動き
◆在日アゼルバイジャン大使館の日本語広報誌
通関統計
2012年1〜6月の通関実績
2012年1〜6月の日ロ貿易


2011年のロシアの貿易統計

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
 ロシア連邦関税局が発行する『ロシア連邦外国貿易通関統計』の2011年年報が刊行され、2011年の同国の貿易動向に関する詳しいデータが明らかになった。そこで本稿では恒例により、『ロシア通関統計』およびその他の資料を駆使し、同国の最新の貿易統計を図表にまとめて極力詳細に紹介するとともに、データに関する解説をお届けする。
 なお、先般ロシア・ベラルーシ・カザフスタン3国による関税同盟が発足したが、関税同盟域内の貿易取引はロシアの通関統計には記録されない。本レポートでは、『ロシア通関統計』以外の出所からデータを補い、ロシアの貿易の全体像をより正確に示すことを試みている。


ロシアの石油ガス輸出の高付加価値化

ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉

はじめに
 ロシア政府は、原料輸出への依存度を低減させ、高付加価値製品の輸出量を増加させることを国家的目的として掲げている。石油関連の輸出産品に関しても高付加価値化を促進する意向を明確に示しており、重油、高サルファ軽油等の輸出を減らし、ハイオクガソリン、低サルファ軽油等の高付加価値石油製品の輸出を増やそうとしている。そして、その目的を達成するために、重油の輸出関税率の引き上げ、ユーロ3~5への移行、石油会社に製油所の近代化を義務付ける協定(4者間協定)の締結といった措置を講じている。
 一方、ガス分野に目を転じれば、高付加価値製品とは言い難い部分もあるが、より柔軟な輸出戦略を可能とするLNGの輸出を促進しようとする動きが見受けられる。また、生産量が増加しつつある(ガス層の)ウェットガスや、有効利用率95%の達成が義務付けられた随伴ガスなどに含まれるC2以上の重質炭化水素を利用したガス化学製品の生産拠点を構築し、それらの製品の輸出を促進しようとする動きも見受けられる。
 これらは日ロ経済関係の強化という観点から見ても非常に興味深い動きだといえるが、「強い政治的意思は感じられるが経済的合理性に欠ける」という致命的欠陥がそこに見え隠れするのも否定しがたい事実である。
 本稿では、石油ガス輸出の現状とその高付加価値化をめぐる動きを紹介すると同時に、そこに潜む問題点についても言及したい。


ビジネス最前線
極東林産業における日ロ協業のビジネスモデル

住友商事
地域総括部 部長代理 欧州・CIS・中東チーム
奥山靖司さん
木材資源事業部 ロシア関連事業チームリーダー
山北 耕介さん

はじめに
 住友商事がロシア最大の総合林産企業チェルネイレス社に出資し、沿海地方における林業プロジェクトを開始してから20年が経ちました。チェルネイレス社の所在地はプラスタンという、ウラジオストクから北へ自動車で8〜9時間はかかる小さな村です。日本からの移動も、現地での滞在も決して楽ではない「極東の僻地」において、将来の日ロ間におけるウィン・ウィン関係のモデルとなる事業が展開されています。その役割を担う住友商事で日本と極東を繰り返し往復されているのが山北さんです。また、同社ウラジオストク駐在員事務所(現在はCIS住友商事ウラジオストク支店)への赴任経験もある奥山さんは長くロシアビジネスに携わってこられました。お二人の話からはパートナーであるチェルネイレス社をここまで育て上げたことの矜持と苦労が伝わってくると同時に、極東の林業における日ロの協業が、他の産業分野にも汎用可能であることを教えられます。(芳地隆之)


データバンク
2011年のロシア極東の貿易

はじめに
 極東税関の通関統計によると、2011年の極東連邦管区内の貿易高は、輸出が248億ドル、輸入が92億ドルとなり、輸出入の総額は340億ドルとなった。収支は156億ドルの黒字であった。前年と比較すると、輸出が25.0%、輸入が16.6%、総額では22.7%の増加となっている。(大森祥子)


ロシア医薬品市場の最新動向

ロシアNIS経済研究所 主任
山本靖子

はじめに
 ロシアの医薬品市場は、経済危機およびルーブル下落の影響によりマイナス成長に転じた2009年を除き、2ケタ成長を続けている。10年前の2001年と比べて市場規模は9〜10倍に拡大し、年平均25%近い勢いで成長してきた。
 国民の所得水準の向上に加え、2005年に開始された政府による薬剤給付制度も市場にインパクトを与えた。近年は医療制度改革も進められているが、数年前から検討されている保険償還制度はまだ導入されていない。そのため患者の自己負担割合が高く、国民の医薬品需要は十分に満たされていない。ロシア市場は未整備で不確定な要素を含みつつ、今後も成長の可能性を持っていると考えてよいだろう。
 当然、新興市場の一つであるロシア市場に対する日本企業の関心も高まっているが、他の外資に比べて日本はかなり出遅れているのが現状だ。欧米系大手製薬会社の多くは1990〜2000年代にロシア市場におけるシェアを伸ばして地歩を固め、この2〜3年で現地生産化の動きを活発化させている。
 本稿では、ロシアの医薬品市場の概況につきデータを中心にまとめるとともに、政府の政策、外資の最新の動向についてもご紹介する。


ロシアの軍需産業と主要企業

高知大学 人文学部
塩原俊彦

はじめに
 プーチン大統領の復活は、ロシアの軍需産業にとって追い風となっている。すでに、2010年末、「2011〜2020年の国家軍備プログラム」(GPV-2020)が承認され、多額の軍事支出が見込まれている。これを受けて、すでに国防発注も増加傾向にある2)。ロシアは近年、海外からの技術導入による軍需産業の立て直しに取り組んでおり、こうした動きが日本との協力の可能性を示唆している3)。ロシアのWTO加盟を機に、製造業の立て直しを迫れているロシアにとって、海外からの技術支援は願ってもないものであるはずだ。そこで、本稿では、ロシアの主要な軍需企業について、その現状を紹介することにしたい。軍需産業であっても、民間機やタイヤを生産するなど、民需品も手掛けているのだから、もっと関心をもつべきであろう。


キーパーソンに訊く
駐日大使は、私の外交官キャリアで最も重要な任務
アファナシエフ駐日ロシア大使インタビュー

はじめに
 アファナシエフ駐日ロシア連邦特命全権大使は、2月にその職に就かれ、そして、4月末に信任状を奉呈され、日本での本格的な活動を開始されました。大使は、日本で長期に勤務されることは初めてですが、本省で第一アジア局長として日本を含むアジア諸国を担当され、そして、韓国とタイで大使を務められるなど、ロシア外務省きってのアジア通であられます。また、駐韓国大使の時代には、ロシアと韓国の経済関係の発展に多大な貢献をされたとのことです。
 インタビューでは、大使の人となりをお聞きしつつ、新任の駐日大使としての日本の印象や、大使在任中に日ロ関係をどのようにしたいとお考えなのか、また、プーチン大統領、メドヴェージェフ首相の新たな指導体制の下、連邦政府の顔触れも大きく変わり、今後、ロシアは日本との関係をどのように位置づけようとしているのかなど、様々なお話を伺いました。(岡田邦生)


ミニ・レポート
拡大の様相を見せるロシアの経済特区

はじめに
 ここに来て、ロシアの経済特区に関する新たな動きがいくつか出てきているので、それらの情報をまとめて紹介する。


自動車産業時評
ロシア自動車市場の特徴と対応策
―シュコダ、シボレー、現代の事例―

 ロシアの自動車市場は個性的な側面を有しており、他の新興市場での常識が通用しないことも少なくありません。このため、ロシア市場に進出している各外国メーカーは、いずれも、同市場の個性への対応に大きな注意を払っています。
 今後、本コラムでは、各メーカーのロシア市場の個性への対処法を随時ご紹介していきたいと思っていますが、今回は、VWグループのシュコダ、シボレー(韓国GM)、現代自動車の関係者が語るロシア市場の個性とそれに対する対処法をご紹介します。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
改革を継続するロシア鉄道

 2001年から10年間にわたって進められてきたロシア鉄道の3段階改革プログラムがひとまず完了しました。これに続く改革の第4段階(2011−2015)が既に始まっています。ロシア鉄道の現状と目指す方向を最新の資料から読み解くこととします。本稿では『ロシア鉄道2011年年次報告書』を参考にしました。(辻久子)