ロシアNIS調査月報
2013年4月号
特集◆ロシア・NIS経済
イノベーション化の課題

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3月20日発行    

特集◆ロシア・NIS経済イノベーション化の課題
調査レポート
ロシアと中国の民間航空機産業の比較
調査レポート
ロシアのチタン産業
―素材産業の成功例とイノベーション化―
調査レポート
カザフスタンのイノベーション政策
資料
シリーズ◆ロシアの産業政策(1)
鉱工業の発展とその競争力向上
ミニ・レポート
停滞するウクライナ経済のイノベーション化
イベント・レポート
ロシア・ナノテク投資セミナー開催
ドーム・クニーギ
藤井晴雄・西条泰博著『原子力大国ロシア ―秘密都市・チェルノブイリ・原発ビジネス』

調査レポート
2012年のロシア乗用車市場の総括
―年後半の失速は続くのか―
キーパーソンに訊く
ロシアにとって欧州市場の重要性は不変
ビジネス最前線
讃岐うどんをロシアの食に根付かせたい
研究所長随想
偉大なるロシア・ピアニズムの系譜
ロシア極東羅針盤
中朝国境ルポ2013
ロシア首長ファイル
スヴェルドロフスク州クイヴァシェフ知事
日ロ異文化遭遇の日々
ロシアの飲み会では仕事の話は禁止!
エネルギー産業の話題
ガスプロムの資源の枯渇
ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道の競争力
業界トピックス
2013年2月の動き
◆ミキハウスのモスクワ出店計画
通関統計
2013年1月の日本の対ロシア・NIS諸国輸出入通関実績
2013年1月の日ロ貿易


ロシアと中国の民間航空機産業の比較

高知大学 人文学部
塩原俊彦

はじめに
 本稿では、ロシアと中国の民間航空機産業(設計から機体・エンジン・装備品の製造・組み立てまで)を比較する。といっても、企業レベルでみると、同じ会社が軍用機と民生用(民間)機を製造しているケースも多い。貨物輸送機のように、軍事転用が簡単にできるものもある。エンジンを併用することもできる。ゆえに、ここでの比較は軍用機を含めた、垣根の曖昧な考察にならざるをえない。ロ中のメーカーを比較するのは、ロシア側のメーカーの特徴を浮き彫りにするのが目的であり、どちらかといえば、ロシア側に力点を置いた分析にならざるをえない点をご了解いただきたい。


ロシアのチタン産業
―素材産業の成功例とイノベーション化―

渡邊 光太郎

はじめに
 ロシアでは産業の高付加価値化がテーマとなっており、資源産業にたよる経済構造から脱却を目指している。しかし、現状のロシアの経済構造は資源や加工度が低い低付加価値な品種の輸出に頼る構造に留まっているのが実情であり、ロシアが、付加価値の高い高度な技術を必要とする分野で、競争力を持っている例は多くない。そのような状況下、製造に高度な技術を要するチタンは、ロシアの製造業において、高付加価値分野の製品で競争力を持つ数少ない例と言える。
 ロシアのチタン産業は、ソ連時代に発展したが、その他の製造業がソ連崩壊後に没落していったのに対し、主要顧客であったロシア国内の航空産業が凋落したにもかかわらず、輸出に活路を見出し早々に復活した。現在では、コストパフォーマンスを武器に強力な国際競争力を得るに至り、ボーイング、エアバス、ロールスロイス、プラット・アンド・ホイットニー等の主要航空関連企業は軒並みロシアのチタンを使用している。
 金属素材を製造するチタン産業は、資源産業に近い側面を持っているのではないかと誤解されるかもしれないが、後述のようにロシアはチタン資源に恵まれていない。また、チタンは製造に高度な技術力を要する特殊な金属である。さらに、チタンの大型部材を製造する技術においては、ロシアは技術的に世界最高レベルである。こうした技術を要する分野で国際競争力を持ち、盛んに輸出を行い、高収益を上げていることは、ロシアが目指す産業イノベーション化の姿そのものである。ロシアチタン産業の成功と限界について考査することは、ロシアのイノベーション化を考える上で大いに参考になり得るものである。


カザフスタンのイノベーション政策

ロシアNIS経済研究所 研究員
中馬瑞貴

はじめに
 カザフスタンでは、1997年10月に発表された「カザフスタン2030年戦略(以下、「2030年戦略」)」の第2次10か年計画である「2020年までのカザフスタン共和国発展戦略計画(以下、「2020年戦略計画」)」に基づいて様々な国家政策が行われている。経済分野については、「2010〜2014年のカザフスタン共和国産業イノベーション発展促進プログラム(以下、「2014年プログラム」)」が進められている。その名称の通り、カザフスタンでは国家の経済成長の主軸にイノベーション発展が位置づけられている。
 そこで本稿では、これらの政策を中心にカザフスタンのイノベーションの現状について紹介する。まず初めに、現在カザフスタンで進められている上記のイノベーション政策について概説する。続いて、イノベーション政策の調整や実施を担う諸機関・組織を紹介する。さらにカザフスタンで実現されているイノベーション政策の一例としてイノベーションテクノパークについて紹介する。
 なお、2013年2月、東京にて第4回日本カザフスタン経済官民合同協議会(以下、協議会)が開催された。協議会の中で実施された4つの分科会のうち、第2分科会は「イノベーション技術、産業協力発展の可能性」というテーマで報告が行われた。まさに本稿に合致したテーマである。そこで、第4回協議会で行われた報告の内容を一部交えて紹介するが、協議会全体の概要については別途報告する予定なので、そちらをご参照いただきたい。


資料
シリーズ◆ロシアの産業政策(1)
鉱工業の発展とその競争力向上

はじめに
 ロシア政府が2012年12月27日付の政府指令で、国家プログラム「鉱工業の発展とその競争力向上」を採択したことに関しては、小誌2013年2月号および『ロシアNIS経済速報』(2013年1月25日号、No.1584)ですでに報告している。このプログラムは、今後のロシアの産業政策にとって根幹的な文書になると予想される。
 この「鉱工業の発展とその競争力向上」を筆頭に、最近のロシアでは重要な国家政策文書の策定が相次いでいる。2012年3月の選挙に勝利し、5月に復帰を果たしたプーチン大統領は、5月7日付で大統領令「長期的な国家経済政策について」を発令した。この大統領令が現時点のプーチン政権/メドヴェージェフ内閣の経済政策のロードマップになっており、ロシア政府は現在これに沿って戦略的な政策文書の策定を進めているわけである。
 むろん、ロシアの場合は国家プログラムの実効性が低いという問題がついて回るわけだが、ロシア当局が自国の経済発展につきどのような青写真を描いているかを把握しておくことは、決して無駄な作業ではないはずである。そこで本月報では、産業政策にかかわるロシア政府の一連のプログラムを翻訳し、「シリーズ◆ロシアの産業政策」と題して、順次掲載していくことにした。
 第1回目の今回は、上掲の国家プログラム「鉱工業の発展とその競争力向上」のうち、総論部分に当たる本文を翻訳してご紹介する(政策的な観点からあまり重要でない技術的な条項もあるので、重要部分のみ抄訳する)。同国家プログラムには、産業部門別の17本のサブプログラムが付属しており、これらのサブプログラムについては次回以降、連載形式でお届けしていきたい。また、国家プログラム「鉱工業の発展とその競争力向上」の枠外となっている産業セクターに関するプログラムも、続々と別途策定されているので、それらについても可能な範囲内で取り上げていきたいと思う。
 以下の翻訳をご覧になっていただければお分かりのとおり、産業政策においても「イノベーション」がキーワードになっている。本プログラムをイノベーション特集の枠内で紹介することにした所以である。


ミニ・レポート
停滞するウクライナ経済のイノベーション化

はじめに
 このほど、ウクライナ科学アカデミー市場問題・経済・環境研究所のO.エルマコヴァ研究員に、ロシア・NIS諸国のイノベーション政策を比較するレポートを寄稿してもらった。その全文は年度末に刊行する特別報告書に掲載する予定だが、ここではそのなかからウクライナに関する部分を抜粋して掲載する。(編集部)


イベント・レポート
ロシア・ナノテク投資セミナー開催

はじめに
 ロシアNIS貿易会では2013年2月1日、東京のホテルニューオータニにおいて、「ロシア・ナノテク投資セミナー 〜ナノテク分野における日ロ協力の可能性〜」を開催した。ロシアのナノテクノロジー分野の国策会社「ロスナノ」のV.グルデフ・プロジェクト部長らが来日した機会を捉え、同社の概要とロシアのナノテク分野のビジネスチャンスに関し日本企業にPRするのが、その目的であった。以下では、セミナーの模様につき報告する。(服部倫卓)


2012年のロシア乗用車市場の総括
―年後半の失速は続くのか―

ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉

はじめに
 ロシアの乗用車市場は、爆発力はあるものの、安定性に欠ける嫌いがある。その特性が最も顕著に現れたのが2009年で、ロシア経済にとっての命綱ともいえる油価が大幅に下落したことが消費者の不安を掻き立て、同年の市場規模は前年の約半分にまで縮小した。その後、油価が上昇に転じたことに加え、ロシア政府が講じたスクラップ・インセンティブ等の市場刺激策が奏功したこともあって市場規模は順調に回復し、2012年の小型商用車を含む乗用車の販売台数はこれまでのピークだった2008年を上回る293万5,111台に達した。
 ただ、その回復傾向に早くも陰りがみえ始めている。2012年秋に入り販売が伸び悩む傾向が顕著になり、11月の販売台数はほぼ前年同月並みの水準にとどまり、12月も前年同月比でわずか1%しか伸びなかった。2013年に入っても状況は変わっていない。主要メーカーがこぞって従来よりも大幅な値引き販売を行ったにもかかわらず、1月の販売台数の伸びは前年同月比で約5%にとどまった。
 本稿では、秋以降の失速傾向に着目しながら2012年の乗用車市場の回顧を行うと同時に、今後の見通しについても考察する。


キーパーソンに訊く
ロシアにとって欧州市場の重要性は不変

フランス国際問題研究所ロシアNISセンター長
T.ゴマルト

はじめに
 今月はトーマス・ゴマルト・フランス国際問題研究所副所長(戦略開発担当)兼ロシアNISセンター長のお話をお届けします。ゴマルトさんは、フランスを代表するロシア研究者の一人で、ロシアのエネルギー安全保障、ロシアと欧州の政治経済関係等を専門とされていますが、研究室にこもるのではなく、実学的にロシアをみておられます。長引く欧州の経済危機を受けて、ロシアが本格的に東方外交を展開する中、ロシアにとって、欧州の重要性は大きく後退するのか、フランスをはじめとする欧州とロシアの関係の現状と展望をお聞きしました。(岡田邦生)


ビジネス最前線
讃岐うどんをロシアの食に根付かせたい

Toridoll LLC
社長アシスタント マーケティング担当
古賀 むつみさん

はじめに
 外食チェーンの株式会社トリドール(本社:神戸市)のロシア現地法人Toridoll LLCが運営するセルフサービス式うどん店「丸亀製麺」(マルカメ)のモスクワ1号店が2月1日にオープンしました。モスクワにおける日本食レストランは一時のブームから、いまでは外食市場における一定のステータスを確立した感があります。しかしながら、この間、日本の大手外食チェーンのロシア進出に関するニュースはあっても立ち消えることが多く、「丸亀製麺」がロシアに展開する日本初の外食チェーンとなりました。これは現地の日本人にとっても朗報です。今回はモスクワでロシアのお客さんと直に接し、ロシアの一般消費者に「うどん」を根付かせるため日々奮闘されている古賀さんにお話を伺いしました。(芳地隆之)


ロシア極東羅針盤
中朝国境ルポ2013

 最近はロシア極東がらみでしか出張していない。正確に言えば、ウラジオストクとその周辺ばかりだ。2月下旬、そのウラジオストクから道程にて300kmほどのロ中朝国境地帯に2泊3日で出張に行った。国境地帯は初めてではない。何度も訪れたことのある場所だ。
 いつも新しい驚きを与えてくれる。2泊3日といっても、初日は到着がお昼過ぎで半日、翌日は終日視察の計1日半、その翌日にロシアへ陸路で入るスケジュールになっていて行きたいと思うところを駆け足でめぐった。北朝鮮労働者が数百人規模で働く図們経済加工区、中朝国境、ロ中朝3ヵ国国境など行きたいところはたくさんある。一帯は、3回目の核実験の強行で注目が集まる地域だ。核実験をしたとされる場所は、国境地帯から100kmも離れていない。北朝鮮に行くことはできないが、国境から北朝鮮をこの目で確かめたかった。(齋藤大輔)


ロシア首長ファイル
スヴェルドロフスク州クイヴァシェフ知事

はじめに
 広大な面積のロシアには83もの連邦構成主体があり、今月で3年目に突入する本連載の中で取り上げた地域はまだ4分の1に満たない。毎回、新しい地域を紹介し、1つでも多くの地域を読者の皆様に知っていただきたいところであるが、今回取り上げるスヴェルドロフスク州はすでに紹介したことのある地域である。
 2013年2月。ロシアNIS貿易会主催のロシア・ビジネスセミナー「チタン・バレー経済特区」開催のために、エヴゲニー・クイヴァシェフ同州知事が来日した。知事自らプレゼンテーションを行い、スヴェルドロフスク州の魅力、日本企業のビジネスチャンスについて説明した。東京での聴取は約100名に達し(北九州、名古屋でも同じ内容のプレゼンテーションを開催)、セミナー終了後も参加者と代表団との間で個別の議論が交わされるほどの盛況ぶりであった。筆者自身、聴衆としてこのプレゼンテーションに参加していたが、非常にわかりやすく、熱意に満ちた素晴らしいプレゼンテーションであった。
 しかし、知事が語った通り、日本では同州についてまだあまり知られていない。そこで、同プレゼンテーションについては、すでに「経済速報」で取り上げられているが、本稿でもクイヴァシェフ知事自身について紹介するとともに、同知事が語ったスヴェルドロフスク州の魅力について再度、日本の方々に紹介したい。(中馬瑞貴)


エネルギー産業の話題
ガスプロムの資源の枯渇

 1993年にガスプロムが誕生した時点での同社のガス生産量は約5,800億立米に達していましたが、2012年は5,000億立米を割り込みました。そこには、独立系ガス会社の台頭による国内販売量の減少や輸出の不振といった要因も絡んでいますが、何といっても大きいのは、ガスプロムの屋台骨を支えてきたヤマロ・ネネツ自治管区ナディム・プル・タズ地区の開発中の鉱床の資源の枯渇という要因です。
 今回は、ロシアの『石油と資本』社のデータをもとに、同地区の主要鉱床の資源の枯渇状況を紹介する他、それ以外の地域で活動するガスプロムの主要生産子会社の現状も紹介します。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道の競争力

  2012年の対ロ貿易は輸出入ともに増加傾向が続きました。しかしシベリア鉄道を利用したコンテナや完成車の輸出は足踏み状態です。日本発のコンテナ列車はウラル山脈を越えられずにいるように見えます。何が障害となっているのか、ロシアと日本で当事者に話を聞いてきました。(辻久子)