ロシアNIS調査月報
2013年7月号
特集◆日ロ間の医療ビジネスの可能性
特集◆日ロ間の医療ビジネスの可能性
イベント・レポート
日露医療フォーラム開催される
調査レポート
成長が続くロシアの医薬品市場
―2012年の市場概観と政策動向―
ビジネス最前線
ロシアでの医薬品ネットマーケティング
資料
シリーズ◆ロシアの産業政策(3)
医薬品・医療産業の発展
データバンク
ロシアの最新の人口・保健統計
ミニ・レポート
ロシアの医療機器市場 ―政策の動向を中心に―
ミニ・レポート
武田薬品のロシア進出の背景と経緯
ミニ・レポート
医療の国際化における日ロ協力の今後

調査レポート
国際航空宇宙サロン(MAKS)2013
―モスクワ航空ショーのビジネス活用―
データバンク
2011年のNIS諸国の貿易統計
研究所長随想
安倍訪ロで日ロビジネスは新展開へ
INSIDE RUSSIA
メドヴェージェフ内閣、発足1年後の苦境
ロシア極東羅針盤
変容するバム鉄道
ロシア首長ファイル
チェチェン共和国カディロフ首長
日ロ異文化遭遇の日々
ロシアでは「ごめんなさい」はかえって怒られる
エネルギー産業の話題
高まる随伴ガス有効利用の重要性
自動車産業時評
ロシアのタイヤ市場最新情報
ロジスティクス・ナビ
韓国企業の対ロシア物流動向
ドーム・クニーギ
道上真有著『住宅貧乏都市モスクワ』
業界トピックス
2013年5月の動き
◆ロシア不動産市場へ日本企業初の進出
通関統計
2013年1〜4月の通関実績


イベント・レポート
日露医療フォーラム開催される

はじめに
 2013年4月15日、東京で「日露医療フォーラム:医療分野における官民のパートナーシップの展望」が開催された。主催者は、日本側が外務省、経済産業省、厚生労働省、国土交通省観光庁、日露貿易投資促進機構、ロシアNIS貿易会であり、ロシア側がロシア連邦経済発展省、保健省、産業・商業省、実業ロシアであった。
 今回のフォーラムは、2012年11月に開催された「貿易経済に関する日露政府間委員会第10回会合」において開催が提案され、実現したもの。本フォーラムには、ロシア側からリハチョフ経済発展省次官ほか関係省庁、企業・団体より35名、日本側からは鶴岡公二外務審議官をはじめ130社・機関・団体より250名以上、総勢300名近くが参加した。これだけ多くの参加者を得たという事実は、医療分野における協力に両国の実業界が高い関心をもっていることを示していると言ってよいだろう。
 以下では、日露医療フォーラムの概要を紹介する。(L.ソコロヴァ)


成長が続くロシアの医薬品市場
―2012年の市場概観と政策動向―

ロシアNIS経済研究所 主任
山本靖子

はじめに
 成長著しい新興市場の一つとして注目されるロシアの医薬品市場。市場規模は日本の6分の1程度だが、この10年間、年平均20%以上の成長が続いており、今後も2ケタ台の成長が見込まれる。
 1990年代からロシア市場に参入し、最近は現地生産の動きを活発化させている欧米企業に比べ、日本の多くの製薬会社は出遅れているのが現状だが、この数年でロシア市場への関心は確実に高まっている。
 本稿では、2012年のロシアの医薬品市場について、データを中心にまとめるとともに、政策の動向についてもご紹介する。


ビジネス最前線
ロシアでの医薬品ネットマーケティング

MirVracha LLC 代表取締役
山本昭太郎さん

はじめに
 ここ数年、ロシア政府は自国の製薬・医療産業の発展に注力をしています。その流れに合わせて日系医薬品メーカーのロシアへの関心も高まり、昨年は武田薬品工業のヤロスラヴリ工場が完成、今年に入ってからはエーザイやテルモが現地法人を設立しました。エーザイは抗がん剤やてんかんの治療薬販売、テルモは医療機器の貿易、卸売、修理、アフターサービスを行っています。そうしたなか、今回ご登場いただいた山本さんは2011年に「ミール・ブラチャ―」を立ち上げ、医療情報や医師同士の情報交換の場(プラットフォーム)を提供し、ロシアにおける医薬品のマーケティングをサポートしています。今号では山本さんに同社のビジネスの具体的な事業内容をはじめ、ロシアの医薬品市場全般についてもお話しいただきました。(芳地隆之)


資料 シリーズ◆ロシアの産業政策(3)
医薬品・医療産業の発展

はじめに
 本シリーズでは、ロシア政府が2012年12月27日付の政府指令で採択した国家プログラム「鉱工業の発展とその競争力向上」の本文と、自動車産業および冶金工業に関するサブプログラムを、すでに紹介している。実は、医薬品および医療産業は上記の国家プログラムの枠外となっており、2012年11月3日付で同分野に絞った個別の国家プログラムが採択されている。そこで今回は、医療特集の一環として、この国家プログラム「医薬品・医療産業の発展」の全文を翻訳して掲載する(ただし付属文書は省略)。


ミニ・レポート
ロシアの医療機器市場
―政策の動向を中心に―

はじめに
 ロシアの医療機器市場は、プレーヤーが多く、情報やデータは少なく、不明瞭な点が多い。しかしながら、医療機器市場における日本企業の存在感は、医薬品市場におけるそれよりも実ははるかに大きく、長年にわたり様々なメイドイン・ジャパンの医療機器がロシア向けに輸出されてきた。
 さらに近年、日ロ間協力の重要なテーマとして医療分野が急速に注目されるようになり、両国関係者の情報・意見交換の機会が増えている。ただ、こうした場において常に感じられるのは、日本の医療技術、サービス、製品をもっと売り込みたい日本側と、簡潔にいえば現地生産を望むロシア側とのズレだ。もちろん、現在官民で進められている日本の病院輸出等の動きは、ロシアの医療水準の向上に貢献し、医療関係者や患者にも歓迎されるものだと思うが、医療分野における国際協力といった場合にロシア政府が念頭に置いているのは、外国企業の研究・開発、生産の現地化による輸入依存からの脱却、ひいては経済近代化の推進なのである。
 以下では、このようなロシア政府の政策を中心に、医療機器市場の最新の動向をご紹介する。(山本靖子)


ミニ・レポート
武田薬品のロシア進出の背景と経緯

はじめに
 武田薬品工業株式会社(以下、武田薬品)のヤロスラヴリ州における医薬品生産工場が完成したのは2012年9月である。同社が発表したニュースリリースによると、総工費7,500万ユーロ、床面積2万4,000u、生産予定品目はロシアにおいてニーズが高い主力製品(脳・抹消循環障害改善剤、心血管疾患予防剤、骨粗鬆症治療剤)。日本の大手製薬メーカーによるロシア初の生産拠点であり、現在は2014年の本格稼働に向けた準備に入っている。本リポートでは、武田薬品コーポレート・コミュニケーション部(以下、CC部)へのヒアリングならびに提供いただいた資料を基に、武田薬品のロシア進出の背景と経緯、ならびに今後のビジネスの課題について報告する。(芳地隆之)


ミニ・レポート
医療の国際化における日ロ協力の今後

はじめに
 日本で治療や検査を受けたいという海外からのニーズに応えるための窓口の役割を担い、経済産業省のサポートを通したプロジェクト型のコンソーシアムとして2011年に設立された一般社団法人「Medical Excellence JAPAN(MEJ)」が4月23日、定款変更をして生まれ変わった。今後は医療の国際化を推進するコーディネータ的機能を担う。医療産業を成長戦略の柱と位置づけている日本政府は、官民一体で医療を提供できるようMEJを支援するという。
 これまでMEJの事業は海外からの患者を受け入れるインバウンドが中心であり、2013年5月のウラジオストクにおける社会福祉法人、北斗(北海道帯広市)による画像診断センターの開設は、MEJが海外において日本の医療サービスを提供する(アウトバウンド)初めてのケースとなった(詳細は『ロシアNIS調査月報6月号』「今月のピックアップ」を参照いただきたい)。
 そこで本稿では、北斗とともにウラジオストクで合弁会社「HOKUTO Healthcare Corporation」を立ち上げたピー・ジェイ・エル鰍フ代表取締役であり、MEJの理事を務める山田紀子さんへのヒアリングを基に、MEJによるロシア向け医療サービスの今後について報告する。(芳地隆之)


国際航空宇宙サロン(MAKS)2013
―モスクワ航空ショーのビジネス活用―

渡邊光太郎

はじめに
 国際航空宇宙サロン(MAKS)は、モスクワで2年に1回開かれる大規模な航空ショーである。日本において、航空ショーというと自衛隊が広報イベントにて行う飛行展示のイメージを浮かべる人が多いと思う。しかし、海外の航空ショーは航空宇宙産業の見本市としての性格が強く、航空宇宙分野に携わる各企業が、自社の製品のPR、売り込み、商談、情報収集を行う場所として機能している。実際にMAKSには旧ソ連の航空宇宙関連企業だけでなく、ボーイング、エアバスをはじめとする世界の主要企業が集まり、ビジネスを展開している。
 MAKSは旧ソ連最大の航空ショーであるので、ロシアの航空宇宙産業に関係するビジネスを展開しようとするのであれば、非常に重要なイベントであるはずであるが、残念ながら、現状、ロシアビジネスに関係されている方の間での注目度は低いようである。
 理由としては、航空宇宙産業そのもののハードルが高い印象を持たれている上に、その航空宇宙産業関係者の中でもロシアの航空宇宙産業は日本から遠い所にあるというイメージがあり、ロシアの航空宇宙産業でのビジネス獲得に向けた活動があまり活発でなかったところにあると考えられる。
 本稿では、MAKSについて紹介するとともに、ロシアの航空宇宙産業において、既にビジネスを獲得している日本企業の事例なども挙げながら、ビジネス獲得の機会としてのMAKSについて考えてみることとする。今回、MAKSの運営会社OAOアヴィアサロンのザネーギン氏に、日本企業が感じるであろう懸念点を率直にぶつけ、突っ込んだ議論を行うことができた。


データバンク
2011年のNIS諸国の貿易統計

はじめに
 小誌では、NIS諸国の基礎的な経済データの紹介に努めており、その一環として毎年1回、NIS諸国の貿易データをまとめて掲載することにしている。今回も、CIS統計委員会編の『2011年のCIS諸国の外国貿易』にもとづき、当該のデータを紹介する。2013年の半ばに2011年の貿易統計を載せるというのは、いかにも遅いが、CIS統計委の統計発行の遅れや、小誌の編成上の事情等によるもので、ご容赦願いたい。
 『CIS諸国の外国貿易』の発行が年々遅くなっていることにかんがみ、小誌では過去3年間、同統計集にもとづき前々年の統計を共通様式で紹介することを基本としつつも、可能な範囲内で最新値である前年のデータも盛り込むことを試みてきた。しかし、統計の状況が国ごとに千差万別であり、それらを処理するのはあまりに多くの労力と紙幅を要することから、今回は2012年のデータの掲載は断念した。『2011年のCIS諸国の外国貿易』にもとづき、シンプルに各国共通で2011年のデータを掲載することとさせていただいた。何卒ご了承いただきたい。ただし、貿易高の推移を示した各国の「表1」のみ、基本的にCIS統計委のウェブサイトに掲載されたデータにもとづき、2012年の貿易額を付記した。
 なお、すでにCISから脱退したグルジアと、CIS統計委にしかるべく数字を提供しておらず、したがって『CIS諸国の外国貿易』にデータが満足に出ていないウズベキスタンとトルクメニスタンについては、共通様式での表の掲載ができない。ウズベキスタンに関しては、同国統計委の刊行物にもとづいて掲載したが、同国の輸出入額はサービス貿易も含んでいるので、ご注意いただきたい。トルクメニスタンとグルジアに関しては、貿易の内訳を示した資料を入手できなかったので、両国政府のウェブサイトに掲載されたデータにもとづき、貿易高の推移のみ、末尾に示した。


INSIDE RUSSIA
メドヴェージェフ内閣、発足1年後の苦境

はじめに
 ロシアでD.メドヴェージェフ現首相が就任したのが2012年5月8日、その内閣が成立したのが同21日だった。それから約1年間が経過したが、内閣の置かれた立場は、ここに来て、かつてなく厳しいものとなっている。この5月には政策工程表の未達成をV.プーチン大統領から叱責され、その直後には、首相が頼りとしていたV.スルコフ副首相・官房長官が退任に追い込まれる事態となった。本稿では、メドヴェージェフ内閣の最近の窮状について概観し、その背景としてのイノベーション政策のつまずきについても触れる。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
変容するバム鉄道

 極東・東シベリア地域で産出される資源をアジア太平洋へ輸送するルートとして注目されるバイカル・アムール鉄道(バム鉄道)。「第2シベリア鉄道」ともよばれ、タイシェト(イルクーツク州)でシベリア鉄道から分岐し、ハバロフスク地方の港湾都市・ソビエツカヤガワニにいたる全長4,324kmの路線である。 2012年12月、バム鉄道のコムソモリスクナアムーレ〜ソビエツカヤガワニ間に、「新クズネツォフスキー・トンネル(全長3,890m)」が開通した。また、オウネ駅〜ヴィソコゴルナヤ駅間には、同トンネルを含む24.9kmの新線も完成した。(大森祥子)


ロシア首長ファイル
チェチェン共和国カディロフ首長

はじめに
 2013年5月、訪日中であったラスハノフ・チェチェン共和国財務大臣やメジドフ共和国産業・エネルギー省次官らが当会を訪問し、面談を行う機会を得た。
 チェチェンに限らず、ロシアの南部や北カフカス地域と聞くとテロ、紛争、危険といったマイナスのイメージが先行し、社会・経済情勢のあまりよくない地域が多いということと相まって、企業の進出や投資誘致は程遠いと考えられているように思う。しかし、大臣の話によると、1990年代と2000年代の二度にわたる戦争によって壊滅状態であったチェチェンの中心都市グローズヌィは、過去5〜6年で社会インフラなどが復旧され、急速に近代的な都市へと発展を続けているようだ。
 そんなチェチェンを主導するのは、連邦最年少で地方のトップに君臨したラムザン・カディロフである。彼の父親、アフマト・カディロフもチェチェン共和国で大統領を務め、チェチェンと連邦の関係回復に一役買った人物と言っても過言ではない。今月は父親の業績も合わせて紹介することにする。(中馬瑞貴)


エネルギー産業の話題
高まる随伴ガス有効利用の重要性

 ロシアでは、随伴ガス有効利用率95%の達成を義務付ける政府決定が2012年1月1日より発効し、その数値を達成できない石油会社にはフレア処理分に対し割増しの罰金が科せられることになりました。罰金の額は今後さらに引き上げられることになっており、随伴ガスの有効利用の重要性が日ごとに高まっています。そこで今回は、ロシアの主要産油地域と主要石油会社の随伴ガス有効利用の現状をご紹介します。(坂口泉)


自動車産業時評
ロシアのタイヤ市場最新情報

 2013年4月にブリヂストンが、ウリヤノフスク州のザヴォルジェ工業団地に乗用車用ラジアルタイヤの工場を建設することを発表し、ロシアのタイヤ市場に対する関心が一層高まっています。そこで今回は、2012年のロシアのタイヤ市場の状況ならびにいくつかの外資系メーカーのロシアにおける最新の動きをご紹介します。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
韓国企業の対ロシア物流動向

 本コラム4月号において、欧州航路の運賃が低水準にある状況下で、日本発着コンテナのシベリア鉄道(TSR)利用が低迷を続けている事実について述べました。では韓国の状況はどうなっているのでしょうか、現地で得た情報を基に実態を紹介します。(辻久子)