ロシアNIS調査月報2015年6月号特集◆ウクライナ危機後のNIS経済 |
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特集◆ウクライナ危機後のNIS経済 |
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調査レポート |
2014年のNIS諸国の経済トレンド |
調査レポート |
為替に翻弄されるNISの乗用車市場 ―2014年の総括― |
調査レポート |
ウズベキスタンとカザフスタンの大統領選挙 ―世界有数の長期政権となるか?― |
調査レポート |
2014年度のウクライナ・ガス市場と今後の展開 |
データバンク |
2013年のNIS諸国の貿易統計 |
データバンク |
2014年の日本の対NIS諸国貿易統計 |
ビジネス最前線 |
逆境下だからこそウクライナに商機あり |
キーパーソンに訊く |
急成長するベラルーシのITアウトソーシング |
イベント・レポート |
第12回日本ウズベキスタン経済合同会議 |
データバンク |
2014年のNIS諸国の経済統計 |
研究所長随想 |
デタント(緊張緩和)と東西貿易の発展 ―日ソ貿易外史(6)― |
モスクワ便り |
高速鉄道サプサン号でペテルブルグへ |
ロシア極東羅針盤 |
ウラジオストク自由港構想 |
ロジスティクス・ナビ |
ロシアの鉄道コンテナ輸送の動向 |
シネマ見比べ隊!! |
子供の居場所 |
業界トピックス |
2015年4月の動き ◆在ロ日本大使館で神戸ビーフ試食会を開催 |
通関統計 |
2015年1〜3月の輸出入通関実績 |
記者の「取写選択」 |
チェルノブイリの独居老人 |
2014年のNIS諸国の経済トレンド
ロシアNIS経済研究所
はじめに
本誌では毎年6月号において、前年のNIS諸国の経済実績を踏まえつつ、各国の最新の経済動向について論評するという企画をお届けしている。本年も2014年のデータがほぼ出揃ったので(データバンク「2014年のNIS諸国の経済統計」参照)、早速それを試みたい(『ロシアNIS経済速報』2015年4月15日および4月25日号より再録)。執筆は当会ロシアNIS経済研究所のスタッフによるものであるが、ロシアについては北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの田畑伸一郎教授に特にご寄稿いただいた。
為替に翻弄されるNISの乗用車市場
―2014年の総括―
ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉
はじめに
本稿では、NIS諸国のうちウクライナ、ベラルーシ、カザフスタン、ウズベキスタンの4ヵ国を取り上げ、それぞれの乗用車市場の現状と今後の見通しを紹介する。特に、ウクライナ市場に関しては、政情不安とグリブナ安が及ぼした影響に着目しながら、その状況を紹介したい。また、ベラルーシ市場とカザフスタン市場に関してはロシア・ルーブル安が及ぼした影響に留意しながら、その現状と今後の展望を紹介する。そして、ウズベキスタンに関しては、同国唯一の乗用車メーカーであるGMウズベキスタンと市場の特殊性に焦点をあてながら、その現状を紹介する。
ウズベキスタンとカザフスタンの大統領選挙
―世界有数の長期政権となるか?―
ロシアNIS経済研究所 研究員
中馬瑞貴
はじめに
2015年3月29日にウズベキスタン、同年4月26日にカザフスタンで大統領選挙が行われた。正式な開票を待つまでもなく、77歳のイスラム・カリモフ、そして76歳のヌルスルタン・ナザルバエフが揃って再選を果たした。両大統領ともに得票率90%以上と、選挙ではなく、信任投票のような結果となった。両大統領ともに今期を全うすると、独立以来30年間、大統領を務め上げることになる。
大統領選挙の数週間前に体調不良が原因で一時メディアの前から姿を消していたカリモフ大統領は、こん睡状態との噂もあったが、選挙直前にようやく元気な姿を見せた。実の娘との確執と健康不安を抱える大統領にとって後継者問題はいよいよ深刻なようである。
一方、ユーラシア経済連合によってロシアとの経済連関をさらに強めるカザフスタンでは、ロシア経済の悪化、ルーブル安といったロシア要因に加えて、油価の下落によって国家経済に大きな不安を抱えており、ナザルバエフ大統領の今後の経済政策に注目が集まる。
実施前から結果は明らかであったウズベキスタンとカザフスタンの大統領選挙であるが、その経緯や結果については、両国の政治の現状と今後の展望、さらに経済にも関わる重要な出来事であるので、本稿でまとめておく。
2014年度のウクライナ・ガス市場と今後の展開
北海学園大学非常勤講師
北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター共同研究員
藤森信吉
はじめに
2013年末に始まったウクライナ危機は、諜報機関の暗躍から文明論に至るまで、様々な要因から説明されている。その中で、天然ガスは重要な説明要因の一つとなっている。ヤヌコーヴィチ政権はロシアが提示する値引き価格に誘引され、欧州連合(EU)との連合協定調印を延期し、ユーロ・マイダン運動を引き起こした。ヤヌコーヴィチ政権崩壊後、ロシアによるクリミア併合、ドンバス軍事介入に対してEUは対ロ経済制裁を発動、しかしロシアからの輸入は制裁対象外でありロシアの天然ガスが間断なくウクライナ領を通過してEU市場に供給されている。こうした「ぬるい」経済制裁は、相互依存論が説くところの、「EU・ロシア双方にとって天然ガス売買を遮断するコストが大きすぎるため、交渉による解決が模索される」典型のようにも見られる。一方で、輸送と供給で相互に依存してきたウクライナ・ロシアのガス関係はウクライナ危機以降、希薄となってきている。本稿では、ガス問題の基本となる、2009年1月19日に調印された契約を振り返りながら、これまでの流れを概観した後、2014年度に明らかになった傾向から、今後の展望を考えてみたい。
データバンク
2013年のNIS諸国の貿易統計
はじめに
小誌では、NIS諸国の基礎的な経済データの紹介に努めており、その一環として毎年1回、NIS諸国の貿易データをまとめて掲載することにしている。今回も、CIS統計委員会編の『2013年のCIS諸国の外国貿易』にもとづき、当該のデータを紹介する。
本資料は、2014年ではなく、一昨年の2013年の貿易データなので、ご注意願いたい。2015年の半ばに2013年の貿易統計を載せるというのは、いかにも遅いが、CIS統計委の統計発行の遅れや、小誌の編成上の事情等によるもので、ご容赦願いたい。ただし、2014年の各国の輸出入額はすでに判明しているので(トルクメニスタンを除く)、各国の「表1 貿易高」には2014年の輸出入額を記入した。
なお、すでにCISから脱退したジョージアと、CIS統計委にしかるべく数字を提供しておらず、したがって『CIS諸国の外国貿易』にデータが満足に出ていないウズベキスタンとトルクメニスタンについては、共通様式での表の掲載ができない。ウズベキスタンに関しては、同国統計委の刊行物にもとづいて掲載したが、同国の輸出入額はサービス貿易も含んでいるので、ご注意いただきたい。トルクメニスタンとジョージアに関しては、詳しい貿易統計を入手できなかったので、両国政府およびADBの資料にもとづき、輸出・輸入額のデータのみ、末尾に示した。
むろん、各国はそれぞれに、より詳しい貿易統計を発表しており、それらを利用する方法もある。しかし、CIS統計委の『CIS諸国の外国貿易』には、共通様式で同諸国の貿易データを比較・概観できるというメリットがあり、依然として利用価値は大きいと考える次第だ。
データバンク
2014年の日本の対NIS諸国貿易統計
はじめに
恒例により、日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2014年の日本とNIS諸国との貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。日ロ貿易については、すでに5月号に掲載済みである。
本資料では、財務省発表の円表示の貿易統計を、独自にドル換算して示している。その際に、各国の「貿易動向」の表・図が、月ごとの為替レートで換算した数値を積み上げたものであるのに対し、「輸出商品構成」および「輸入商品構成」の表は年平均レート(下表参照)で単純に換算したものであり、したがって両者は総額が微妙にずれているので、ご注意されたい。
ビジネス最前線
逆境下だからこそウクライナに商機あり
伊藤忠商事梶@CIS代表付 兼 キエフ事務所
ウクライナ日本商工会 会長
日野宏貴さん
はじめに
ウクライナの「ユーロマイダン革命」からちょうど1年が経過した今年2月、伊藤忠商事キエフ事務所を訪問し、日野さんにお話を聞かせていただきましたので、以下でそのインタビューをお届けします。
ロシア・NIS諸国の中でも、ウクライナほど、ここ数年のビジネス環境がジェットコースターのように激変してきたところはないでしょう。改革と欧州統合をもたらすはずの2014年2月のユーロマイダン革命は、現実には国の混乱と解体の危機に繋がり、きわめて厳しい国情が続いています。そんな中で、日野さんはいかにしてこの逆境を乗り切り、ピンチをチャンスに変えようとしているのか。インタビューでは、伊藤忠のウクライナビジネスの概要、特にキエフ地下鉄の案件について詳しくお話を伺うとともに、ウクライナ情勢の展望などについてもご意見を聞かせていただきました。(服部倫卓)
キーパーソンに訊く
急成長するベラルーシのITアウトソーシング
ベラルーシ・ハイテクパーク総裁
V.ツェプカロ
はじめに
4月にベラルーシ・ハイテクパークのV.ツェプカロ総裁が来日した機会を捉え、ツェプカロ総裁にインタビューを試みましたので、以下その模様をお届けします。
ベラルーシ・ハイテクパーク(http://www.park.by)は、首都ミンスク市の郊外に所在し、オフショア・プログラミングのメッカとして最近注目度が高まっています。ここでは「ワールドオブタンク」という世界的なヒット・ゲームが生み出されており、また日本の楽天が同パークのサービスを活用していることも知られています。
ツェプカロ総裁は、1965年ベラルーシのグロドノ生まれ。ベラルーシ工科大を卒業した科学技術のエキスパートであると同時に、モスクワ国際関係大を卒業し外交官としてのキャリアも歩んだという、稀有な経歴のエリートです。ベラルーシ外務第一次官、駐米大使、科学技術担当の大統領補佐官を経て、2005年からベラルーシ・ハイテクパークの総裁を務めています。(服部倫卓)
イベント・レポート
第12回日本ウズベキスタン経済合同会議
はじめに
2015年1月27日、如水会館にて、「第12回日本ウズベキスタン経済合同会議」が開催されました(事務局はロシアNIS貿易会)。前回の第11回合同会議は2013年3月にタシケントで開催され、日本での開催は、カリモフ大統領訪日の際の2011年2月以来、約4年ぶりとなりました。
合同会議には、先方会長であるアジモフ第一副首相兼財務大臣をはじめ、同国政府関係者、エネルギー、鉱物資源、通信他の業界団体関係者計15名が参加し、ウズベキスタンの経済情勢、日本側に向けた様々な分野におけるプロジェクトの提案、今後の両国貿易・投資の拡大、協力関係発展に向けた期待が述べられました。
日本側からは、日本ウズベキスタン経済委員会会員企業の他、政府・政府関係機関、商社、メーカー、銀行など総勢148名が参加しました。
以下、第12回日本ウズベキスタン経済合同会議の概要についてご報告致します。(片岡久美子)
研究所長随想
デタント(緊張緩和)と東西貿易の発展
―日ソ貿易外史(6)―
1968年1月、チェコスロバキア共産党中央委員会は、スターリン主義者のノボトニーに代わってドブチェクを第一書記に選出した。ドブチェクは「人間の顔をした社会主義の実現」を標榜して、改革路線を歩むことを表明し、ノボトニー前第一書記を追放した。
ドブチェクの改革は、政治犯の釈放・裁判の公正・検閲の廃止・旅行の自由化などの政治的自由化と、企業の自主運営・統制の緩和で労働生産性を高める経済改革を連動して進めようとしていた。しかし、隣国のポーランド(ゴムルカ)や東独(ウルブリヒト)は、自国に政治・経済への改革思想が広がることを非常に怖れた。
同年8月20日夜11時に、ソ連を含む5か国のワルシャワ条約機構軍約20万人と、約5,000台の戦車がチェコに侵攻した。ドブチェクはモスクワへ連行され、ブレジネフ政権は世界から厳しい批判に曝されて、大きなイメージダウンとなった。
このようにしてチェコ侵攻は、その後ソ連指導部内部でも様々な議論を生むことになる。(遠藤寿一)
モスクワ便り
高速鉄道サプサン号でペテルブルグへ
はじめに
2009年12月にモスクワ〜サンクトペテルブルグ間に高速鉄道サプサン号が運行を開始して以来、はや5年半が経とうとしている。モスクワ、ペテルブルグ両都市のビジネスマンや観光客の移動手段として、すっかり定着した感がある。遅ればせながら、筆者も今年初めにサプサン号でモスクワ〜ペテルブルグ間を往復する機会があったので、今回はその体験をレポートすることとしたい。(中居孝文)
ロシア極東羅針盤
ウラジオストク自由港構想
極東発展省は4月29日、ウラジオストクとその周辺一帯を税制面での大幅な優遇措置や通関の迅速化などの規制緩和が受けられる特別な地域に指定し、人、モノ、カネの動きを活発にすることで、香港やシンガポールといった国際貿易センターを目指す「ウラジオストク自由港法」の原案を連邦政府に提出した。
5月中にも政府案を議会に提出し、7月までの成立を目指す。8月にウラジオストクで開かれるヴォストーチヌィ経済フォーラムでプーチン大統領自らが世界各国の参加者に披露する。
そこで今回は、自由港構想の概要について、簡単に紹介する。なお、本文は極東発展省が作成した第2案(4月9日版)にもとづくものであり、今後の政府内での討議や議会の審議次第では内容が大きく変わる可能性があることにご留意願いたい。(齋藤大輔)
ロジスティクス・ナビ
ロシアの鉄道コンテナ輸送の動向
資源輸送の比重が極めて高いロシア鉄道ですが、コンテナ輸送も穏やかながら伸びています。また最近のルーブル安は国際コンテナの誘致に追い風となっているとも言われています。ロシアの鉄道コンテナ輸送の近況を紹介します。(辻久子)
シネマ見比べ隊!!
子供の居場所
『人間の運命』VS『この道は母へとつづく』
ロシアには、日本のような子供のための祝日はとくにありません。けれども、Детский мир《子供の世界》という子供用品専用のデパートがソ連時代からあったぐらいですから、子供が国の宝として社会的にも大切にされてきたという印象は強いのです。ちなみにこのデパート、1957年の6月5日に開店しており、今ではモスクワ市内にさまざまな規模のチェーン店を展開し(朝10時から夜10時までの営業です!)、ネットでもこの店の商品が購入できます。社会主義の時代であればこそ、社会が子供を育てるという認識が強かったのでしょうが、それにしても、ロシア人のお母さんが自分の子供を誉め称え、甘やかして可愛がる姿は今でもよく見かけます。
このたびは、「子供の居場所」と題し、社会主義リアリズムの傑作と言われる『人間の運命』と42カ国で絶賛された2005年の作品『この道は母へとつづく』を見比べることで親子の絆の一断面をみていきたいのです。毎度のことながら、ネタバレについてはお許しください。(佐藤千登勢)
記者の「取写選択」
チェルノブイリの独居老人
「放射能なんて問題ないわ。見えないし、臭いもないし」―。1986年4月に大事故を起こしたチェルノブイリ原発で汚染された立ち入り制限区域(原発から半径30キロ以内)の村で暮らすワレンチーナさんは静かにこう言った。
2011年にお会いした時は77歳だった。古い木造平屋建てが彼女の城だ。独り暮らしで足も良くないが、部屋は整然と保たれており、突然訪れた記者を快く迎えてくれた。(小熊宏尚)