ロシアNIS調査月報
2015年9-10月号
特集◆制裁下のロシアの
貿易パフォーマンス
特集◆制裁下のロシアの貿易パフォーマンス
調査レポート
2014年のロシアの貿易統計
調査レポート
ロシアの農産物の生産・貿易動向
―制裁とルーブル安の影響―
調査レポート
欧米産食料の禁輸とロシア経済
―輸入代替は進んだのか―
データバンク
2014年のロシア極東の貿易
エネルギー産業の話題
制裁を背景に進むロシアの石油ガス輸出シフト
データバンク
2015年1〜6月の日ロ貿易
―輸出入ともに落ち込む―

調査レポート
倒産に関するロシアの法制度
―債権の取扱い・債権者の地位を中心に―
ビジネス最前線
ロシアに本当の日本茶文化を芽吹かせたい
ビジネス最前線
クラフトビールから見えたロシア市場の可能性
ドーム・クニーギ
小田博著『ロシア法』
研究所長随想
訪日を2度ドタキャンしたエリツィン大統領
モスクワ便り
実業ロシアとのパートナーシップ
ロシア極東羅針盤
新・極東政策の突破力
地域クローズアップ
ロシアの国際交通拠点オムスク州
産業・技術トレンド
ウラルの工業見本市「イノプロム」
自動車産業時評
2015年上半期のロシアの中古車市場
ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道は石炭のために
ウクライナ情報交差点
一山越したウクライナのデフォルト危機
中央アジア情報バザール
中央アジア諸国の2015年上半期経済動向
デジタルITラボ
ロシア国民のインターネット・ライフ
シネマ見比べ隊!!
ロシアのヒーロー
蹴球よもやま話
出しゃばりすぎるサッカークラブのオーナー
出張・駐在の達人
ロシアの空港と航空会社のランキング
業界トピックス
2015年7月の動き
通関統計
2015年1〜6月の輸出入通関実績
記者の「取写選択」
北極のソ連村


2014年のロシアの貿易統計

ロシアNIS経済研究所 調査部長
服部倫卓

 今回の月報では、ロシアの貿易動向を特集しており、その際にウクライナ危機を背景に進行しているロシアと先進諸国の経済制裁の応酬の影響を分析の軸の一つに据えている。特に、ロシアが欧米産食品の輸入を禁止したことから、農産物・食品の貿易にかつてない注目が集まっており、その点についての報告に力を入れた特集となっている。
 なお、今号の入稿直前の8月初頭になって、ロシアがこれまでEU・米国・カナダ・オーストラリア・ノルウェーに対して課していた食品禁輸を、対ロ制裁に同調している他の国にも拡大し、そこに日本も含まれるのではないかという情報が急浮上した。今号掲載記事の脱稿後に突然表面化した動きであり、今回はこの問題に関する記述を盛り込めなかった。本件に関しては今後、機会を改めて取り上げてみたい。
 特集冒頭の本稿では、毎年恒例になるが、『ロシア通関統計』およびその他の資料を駆使し、同国の最新の貿易統計を図表にまとめて極力詳細に紹介するとともに、データに関する解説をお届けする。


ロシアの農産物の生産・貿易動向
―制裁とルーブル安の影響―

ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉

 対ロ制裁とルーブル安はロシアの農業分野に一定の恩恵をもたらした。たとえば、2014年8月にロシア政府は対ロ制裁への対抗策として欧米からの食品の輸入を禁止するという措置を打ち出したが、その結果、国産の食肉に対する需要が高まり、不振の兆候が見え始めていた畜産分野が息を吹き返した。また、食品輸入禁止措置に伴う輸入代替促進の気運の高まりの中、一部では、投資活性化の兆しも見え始めている。
 さらに、2014年の夏ごろから顕著となったルーブル安は、ロシア産農産物の輸出効率の大幅な改善につながり、2014年7月初頭から2015年6月末にかけての穀物年の穀物輸出量は過去最高の水準に達した。ただ、その一方で、対ロ制裁とルーブル安がもたらした否定的影響も存在する。中でも特に大きいのは、銀行融資の金利の上昇ならびに銀行の貸し渋り傾向で、多くの農業企業が資金調達に苦慮するようになっている。この状況が長期的に続くようなことがあれば、ロシアの農業分野は窮地にたたされることになるだろう。
 本稿では、対ロ制裁とルーブル安が及ぼした影響に着目しながら、ロシアの主要農産物の生産ならびに輸出入動向を紹介する。その他、最近日本でも大きな注目を集めるロシア極東地方の農業分野の最新動向についても言及する。


欧米産食料の禁輸とロシア経済
―輸入代替は進んだのか―

ロシアNIS経済研究所 研究員
鳴沢政志

 2015年6月25日、ロシア政府は2014年8月6日より導入している欧米諸国からの食料品輸入禁止措置をさらに1年間延長した。この背景には6月22日にEUが対ロシア経済制裁をさらに半年間延長したことがある。
 輸入禁止措置が実施されてから、1年が経とうとしている。当初、EUではロシアへの農水産品の輸出が禁止されたことによって生じた損失は決して軽微ではなく、ロシアも突然の輸入禁止に、農水産品の調達先変更が間に合わず、市場価格の高騰などの混乱が生じ、両者痛み分けの様相を呈していた。
 しかし、その頃からロシアでは「輸入代替」が打ち出されるようになる。とくに、輸入禁止措置との関連でみれば、農水産品の輸入依存度を下げ、自国の食料自給率を上げていくことが目指されている。その流れのなかで、昨今の食料輸入禁止措置は別の意味を持ってくるのではないかと思われる。
 本稿では、延長された輸入禁止措置の概要とともに、2014年の導入から今日に至るまで、同措置がロシア経済に与えた影響を、とくに、ロシアが掲げる輸入代替は進展したのかという観点からまとめる。


データバンク
2014年のロシア極東の貿易

 極東税関の通関統計によると、2014年のロシア極東地域の貿易は、輸出が285億ドル、輸入が105億ドルとなり、輸出入を合わせた総額は390億ドルとなった。収支は180億ドルの黒字であった。前年比では、輸出が1.6%の増加となったのに対し、輸入が12.8%と大幅な落ち込みとなり、総額でも2.7%の減少となった。輸出相手国をみると、韓国(32%)、日本(30%)、中国(19%)と日中韓の3ヵ国が80%以上を占めた。輸入をみても、日中韓がトップ3であるが、なかでも対中国の輸入割合が45%と大きい。輸入の落ち込みは、ウクライナ危機による欧米の経済制裁と通貨ルーブルの急落が影響した。(齋藤大輔)


エネルギー産業の話題
制裁を背景に進むロシアの石油ガス輸出シフト

 ロシアの石油輸出に関しては、すでに数年前から中国への傾斜が強まっていましたが、欧米の対ロ制裁発動後は、インドやベトナムへの輸出を強化しようとする動きも加速し始めています。また、ガス輸出に関しては、制裁発動後、中国への輸出を強化しようとする動きが目立ち始めています。今回は、そのような東方シフトの動きに着目しながら、ロシアの石油ガス輸出の現状を紹介する。(坂口泉)


倒産に関するロシアの法制度
―債権の取扱い・債権者の地位を中心に―

松嶋希会

 1991年12月のソビエト連邦崩壊後、市場経済を支える重要なメカニズムとして、1992年11月、逸早くロシア倒産法が復活した。倒産法に続いて、民法や会社・事業に関する法律が順次整備され、合わせて、倒産法も1998年、2002年に新法が採択された。現行倒産法は2002年法だが、これまで幾度か大きな改正を経ている。2014年には、政府が倒産法制改革の「ロード・マップ」を発表し(2014年7月24日付政府指令第1385-p号)、随時、改正が進められている。
 本稿は一般企業の倒産を扱い、特則が適用される倒産(個人、金融機関、保険会社、戦略産業企業や住宅建設会社など)は割愛する。引用条文は、2015年7月1日現在の2002年10月26日付連邦法第127号「倒産法」である。


ビジネス最前線
ロシアに本当の日本茶文化を芽吹かせたい

宇治の露製茶梶@海外事業部 部長
桐島俊昭さん

 今回は、2015年4月にロシアで初となる日本茶の専門店をサンクトペテルブルグ市に開設された福寿園のグループ会社である宇治の露製茶鰍フ桐島部長にお話を伺うことができましたので、ご紹介いたします。ロシアはお茶の消費量、輸入量ともに世界有数のお茶大国です。市場を見回せば、世界中の様々なお茶が販売されています。その一方で本当の日本茶を飲んだことがある、もしくは、知っているというロシア人はあまりいません。そこで、桐島さんからはロシアのお茶市場や、今後どのようにロシアで日本茶の需要を広げていくのかについて語っていただきました。(鳴沢政志)


ビジネス最前線
クラフトビールから見えたロシア市場の可能性

木内酒造合資会社 専務取締役
木内洋一さん

 木内酒造合資会社(茨城県那珂市)の木内洋一専務取締役から、同社のクラフトビール「常陸野ネストビール」のロシア輸出事業についてお話を伺いましたのでご紹介します。 同社は世界各国へクラフトビールを輸出しています。ロシアへの輸出はロシア側の強い要望から実現した案件です。また、木内さんご自身もロシアへ直接赴かれて、ロシアを大変気に入るとともに、ロシア市場の可能性を大いに感じられたそうです。そこでインタビューでは、同社のロシア事業に加え、世界市場と比較したロシア市場の特徴やその可能性などについてもお話を伺いました。(鳴沢政志)


研究所長随想
訪日を2度ドタキャンしたエリツィン大統領

 ソ連邦が解体してロシア連邦が継承者となり、国家元首はゴルバチョフからエリツィンに交代した。日本政府も対応を急ぐことになり、1992年1月25〜29日モスクワで開催された「中東和平会議」に出席するため渡辺美智雄外相を訪露させた。一方国連安保理首脳会合に出席中の宮澤喜一総理が、1月31日エリツィン大統領とニューヨークで会談した。さらに第1回日露外相定期協議のため、コーズイレフ外相が3月19〜20日に来日し、第2回日露外相定期協議は5月2〜6日モスクワで開催された。ミュンヘン・サミットにおいて7月8日宮澤・エリツィンによる日露首脳会談が行われ、エリツィン大統領の来日が決まった。それから2ヵ月後エリツィン大統領の来日が秒読みに入った来日4日前の9月9日夕刻、ロシア政府は「訪日を延期する」と一方的に通告してきた。突然の延期は、外交史上あまり例がなく内外に大きな衝撃を与えることになる。この時、日本訪問後に韓国訪問も決まっていたが、これも延期した。(遠藤寿一)


モスクワ便り
実業ロシアとのパートナーシップ

 「実業ロシア」に関しては、これまで本誌でもしばしば言及されているが、今回は我々ロシアNIS貿易会のパートナーである経済団体「実業ロシア」の組織や活動、また実業ロシアと当会の協力関係についてご紹介することとしたい。(中居孝文)


ロシア極東羅針盤
新・極東政策の突破力

 7月、ウラジオストク自由港法が成立した。ウラジオストクとその周辺一帯を、税制面での大幅な優遇措置や通関の迅速化などの規制緩和が受けられる特別な経済区域に指定し、日本や中国などアジア各国との人やモノの交流を拡大することを目指す。(齋藤大輔)


地域クローズアップ
ロシアの国際交通拠点オムスク州

 2013年に「フォーブス」誌が発表したビジネスに最適な都市ランキングで第5位となったオムスク市を州都とするオムスク州は州の北部をシベリア鉄道が通過し、ウラルとシベリアを結ぶ位置にある。また同州はカザフスタンと国境を接し、中央アジアへ抜ける鉄道も走っているので、国際交通拠点でもある。南北に流れるイルティシュ川とその支流のイシム川もカザフスタンへと通じる水路になっている。このように、恵まれた地理的条件、交通インフラの発展に豊富な人材が加わり、オムスクの投資の魅力が高まっている。(中馬瑞貴)


産業・技術トレンド
ウラルの工業見本市「イノプロム」

 7月5日より13日まで当会主催で行った日本の工作機械等の対ロシア輸出促進ミッションの中で、総合工業見本市イノプロム展を訪問した。同展示会は、毎年7月にロシア・ウラル地方のエカテリンブルグにて開催される。ウラル地方の企業も多いものの、他地域からもロシア製造業の代表的企業が出展するため、製造業の動向を知ることに非常に参考になる。今回は、イノプロム展と同展示会で読み取れるロシア製造業の動向について報告する。(渡邊光太郎)


自動車産業時評
2015年上半期のロシアの中古車市場

 新車市場の不振を尻目に好調さを維持していたロシアの中古車市場ですが、2015年に入ってからは月間販売台数が前年同月を下回る状況が続いています。また、2月ごろからは中古車の価格が下落する傾向も見え始めました。以上の状況を踏まえ、今回は、2015年上半期の主要ブランド別、モデル別の中古車販売状況や、中古車の最新価格動向などをご紹介することにいたします。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道は石炭のために

 石炭はロシア鉄道の最大輸送品目です。特にシベリア鉄道では近年アジア向け輸出用石炭の輸送量が上昇を続けています。輸出の更なる増加を前提にバム鉄道と併せた輸送力増強計画が始動しました。鉄道と石炭の経済的関係を考察します。(辻久子)


ウクライナ情報交差点
一山越したウクライナのデフォルト危機

 ユーロマイダン革命後のウクライナには、対外債務のデフォルトを起こすのではないかという不安感が、ずっとつきまとってきた。特に、先日の7月24日に、ユーロ債のクーポン支払(1.2億ドル)が予定されており、この日がデフォルトのXデーになるという見方も強かった。しかし、結局ウクライナ財務省は支払を実行し、デフォルトという事態はひとまず回避された。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
中央アジア諸国の2015年上半期経済動向

 当会では毎年6月号で前年のロシアNIS各国の社会・経済データを紹介しているが、その際には主にCIS統計委員会が発表する統計集に基づいたデータを掲載している(ただし、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ジョージアなどについてはCIS統計委員会の統計集に記載がないため、当該国の統計機関のデータを引用)。しかし、CIS統計委員会の統計集およびデータの公開には時間がかかるため、本稿では「最新のデータ」として、中央アジア5ヵ国で統計機関が発表した社会・経済指標と政府のコメントを抜粋してお伝えする。(中馬瑞貴)


デジタルITラボ
ロシア国民のインターネット・ライフ

 2015年8月号でもご紹介したように、ロシアではモバイル端末の大衆普及もあり、インターネット利用者の増加および接続環境の改善が目覚しい。全ロシア世論調査センター(VTsIOM)が2015年3月に実施した調査によると、ロシア国民のうち、インターネットを毎日利用するという回答が52%、時々利用するという回答が17%となり、国民の実に69%が程度に差はあれ日常的にインターネットを利用していることが分かった。特にスマートフォン、タブレットでのモバイルインターネット利用者は増加の一途を辿っている。ロシア3大通信キャリアの1つであるMTSでは、2014年1月〜9月の同社ユーザーのモバイルデータ通信量が月平均で390ペタバイトとなり、前年同時期と比べ60%増となった。(大渡耕三)


シネマ見比べ隊!!
ロシアのヒーロー
『誓いの休暇』VS『ロシアン・ブラザー』

 今回は、ロシアのヒーローと題してロシアの人たちが理想とする英雄像について考えてみたいのです。ロシア映画で描かれる主人公、ヒーローというのは、徹頭徹尾、肯定的人物でつねに正しく、運命にも愛されるという華やかな英雄ではありません。このたびは、グリゴーリイ・チュフライ監督の映画史に残る名作『誓いの休暇』(1959)と2013年に夭逝した鬼才アレクセイ・バラバノフの大ヒット作『ロシアン・ブラザー』(1997)の2つの作品をネタバレご容赦のうえ、ご紹介し、ロシアのヒーロー像(主人公という意味ばかりでなく)を提示できたらと思うのです。(佐藤千登勢)


蹴球よもやま話
出しゃばりすぎるサッカークラブのオーナー

 ロシアのソヴィエツキー・スポルト出版から発行されている『フットボール』という雑誌の2015年7月14〜20日号に、面白い記事が出ていた。スパルタク・モスクワやソ連代表で長く活躍したYe.ロフチェフという人物がインタビューの中で、ロシアのサッカークラブのスポンサー企業側のオーナーが、素人のくせに出しゃばりすぎていると、苦言を呈しているのである。(服部倫卓)


出張・駐在の達人
ロシアの空港と航空会社のランキング

 ロシアで仕事をするとなれば、必然的にお世話になるのが、空港および航空会社である。そこで、皆様のご参考のために、2014年のロシアの空港別乗降客数、そして航空会社別の旅客数をグラフにまとめてみたので、それをお目にかける。


記者の「取写選択」
北極のソ連村

 夏。気分だけでもさわやかな北国へ。ところで最北の観光地ってどこだろう。公共交通や快適なホテルがある場所に限定すれば、北極海に浮かぶノルウェー領スピッツベルゲン島になりそうだ。
 島の中心地ロングヤービーエンは北緯78度。あと1300kmで北極点だが、首都オスロなどから定期旅客機が飛ぶ。世界最北のタイ料理店やケバブ屋もある整然とした北欧の街だ。観光シーズンの夏は完璧な白夜。透明感のある冷涼な風が吹く。
 ここを拠点に観光客は極地の自然を楽しむのだが、船で片道数時間の炭鉱村バレンツブルクへの小旅行も可能。ロシア政府系「北極石炭」の従業員と家族ら数百人が暮らす旧ソ連系住民の村だ。(小熊宏尚)