ロシアNIS調査月報2015年11月号特集◆アジア太平洋に |
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特集◆アジア太平洋に舵を切るロシア |
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イベント・レポート |
東方経済フォーラム開催される |
イベント・レポート |
ロシア極東経済ミッションと日ロ二国間セッション |
調査レポート |
ロシアの新しい極東政策 |
調査レポート |
注目される極東の石油ガス関連プロジェクト |
調査レポート |
ロシア極東の電力事情 ―近年の政策とプロジェクトの動向― |
ビジネス最前線 |
人との繋がりが日ロビジネスを進めるカギ |
キーパーソンに訊く |
ロシアのアジア志向は「欧州中心主義」終焉の帰結 |
ルポルタージュ |
ロシア新宇宙基地取材報告 ―宇宙大国ロシア プーチン大統領の狙い― |
ロシア極東羅針盤 |
クリル諸島に新型特区 |
地域クローズアップ |
金とダイヤモンドのサハ共和国(ヤクーチヤ) |
ロジスティクス・ナビ |
中国発「借港出海」の試み |
研究所長随想 |
対岸貿易から始まった日露極東貿易 |
モスクワ便り |
次回の東方経済フォーラムに向けて |
INSIDE RUSSIA |
ヤクーニン・ロシア鉄道社長退任の背景 |
産業・技術トレンド |
ロシアとボーイング社 |
自動車産業時評 |
2015年上半期のロシア商用車市場 |
中央アジア情報バザール |
中央アジアの二世エリート |
ウクライナ情報交差点 |
ウクライナ石油精製業の苦境と混乱 |
蹴球よもやま話 |
君はFCアスタナを見たか |
デジタルITラボ |
成長著しいロシアのネット通販市場 |
シネマ見比べ隊!! |
ロシア革命:赤と白、評価の逆転 |
業界トピックス |
2015年8〜9月の動き |
通関統計 |
2015年1〜8月の輸出入通関実績 |
記者の「取写選択」 |
解任された強面役人 |
イベント・レポート
東方経済フォーラム開催される
9月3〜5日まで、ロシア極東のウラジオストクで、東方経済フォーラムが開催された。2日目の4日にはプーチン大統領が登場し、大統領自らが、先進経済発展区(新型特区)やウラジオストク自由港などロシア政府が進める新しい極東政策を世界に発信した。
2015年という年はロシアの対極東政策にとって特別な意味がある。税制面での大幅な優遇措置や通関の迅速化などの規制緩和が受けられる特別な経済区域「先進経済発展区」や「自由港」の始動、さらには極東地域で優先的に実施する投資プロジェクトの選定、政策を具体化するツールとしての極東開発公社や投資誘致エージェンシーの設立など、国内外からの投資、とくに製造業の呼び込みに、新しい活路を見出す、新しい極東政策のスタートの年に当たるからだ。
ロシア極東で初の大型国際経済フォーラムの開催は、2012年のAPECサミット後の極東開発が迷走する中で、極東を重視するプーチン政権の姿勢を改めて国内外に示し、「極東開発第2章」のスタートを宣言する絶好の機会となった。
原油価格の下落による経済の低迷、ウクライナ危機と欧米との対立など厳しい情勢にある中、ロシアは東方へのシフトを一段と強めている。そして、その玄関口である極東で新たな挑戦を始めた。
公共事業中心のAPEC開発からソフトパワーを活かす政策へ。ウラジオストクAPECから3年を経て、プーチン政権がようやく打ち出してきた新・極東政策。それは、これまでの極東開発の在り方を大きく変えるとともに、「今度こそロシア極東が変われるチャンスではないか」との期待をわれわれに抱かせる。
果たしてこれからのロシア極東はどうなっていくのか、そして、プーチン大統領の東方戦略の成否は?
月報の今号では、ダイナミックに動き出したロシア極東のいまを様々な角度から迫ってみたい。
冒頭の本レポートではまず、東方経済フォーラムとプーチン大統領の演説の意義を考察し、これからの新しい極東政策の展望を試みたい。(齋藤大輔)
イベント・レポート
ロシア極東経済ミッションと日ロ二国間セッション
別レポートで紹介しているとおり、2015年9月3〜5日にロシア極東のウラジオストクで、「東方経済フォーラム」が開催されました。ロシアNIS貿易会では、同フォーラムに合わせ、村山滋会長(川崎重工業且ミ長)を団長とする「ロシア極東経済ミッション」を、9月2〜6日の日程で、現地に派遣しました。そして、9月4日には、東方経済フォーラムにおける日ロ二国間セッションとして、ビジネスラウンドテーブル「日本とロシア:極東への投資可能性」を、当会と実業ロシアの共同で開催しました。以下では、この二国間セッションの概要についてご報告申し上げます。
ラウンドテーブルでは、村山滋会長と、レピク実業ロシア会長・露日ビジネスカウンシル議長がモデレーターを務め、日ロの官民代表者がロシア極東への投資を妨げている障壁を克服するための方策や日ロ間でこれまでに取り組まれてこなかった新たなビジネス分野、とくに製造分野の開拓に必要な課題などについて活発な議論を交し合いました。当会会員企業をはじめ、日ロ双方から官民合わせて約120名の参加がありました。(長谷直哉)
調査レポート
ロシアの新しい極東政策
ロシアNIS経済研究所 次長
齋藤大輔
プーチン政権の新しい極東政策のメニューが出揃った。なかでも、税制面での大幅な優遇措置や通関の迅速化、行政手続きの簡素化などの規制緩和が受けられる特別な経済ゾーンをつくり、ビジネスがしやすい環境を創り出すことで、国内外からの投資、とくに製造業を呼び込もうとする新型特区(先進社会経済発展区)とウラジオストク自由港は、新政策の象徴となっている。
新型特区をつくる構想が発表されたのは2013年10月、ウラジオストク自由港にいたっては昨年12月のプーチン大統領の年次教書でのことである。この間、新型特区9ヵ所を選定し、ウラジオストク自由港関連法を成立させるところまでこぎつけた。ロシアは、驚くべきスピードと突破力で政策実現に向けて動き出している。
最初はお手並み拝見と決め込んでいた企業や地元政府の間でも、「今度こそロシア極東が変われるチャンスではないか」という期待感に変わっている。だが、この構想は机上の域を出ていない。法律ができたいま、企業の呼び込みなど具体的な成果が求められる。これまでも本誌の「ロシア極東羅針盤」というコーナーなどで取り上げてきた。そこで本稿では、ロシアの新しい極東政策についてまとめた。
調査レポート
注目される極東の石油ガス関連プロジェクト
ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉
ロシアの石油ガス分野における極東地方のプレゼンスは現時点ではそれほど大きなものではないが、ロシア政府が打ち出しているエネルギー輸出の東方シフトの流れの中、最近になり徐々に同地方の石油ガス関連プロジェクトの注目度が高まりつつある。そこで、本稿では、極東地方の石油ガス分野の主要なプロジェクトの現状と今後の展望を紹介することとする。
調査レポート
ロシア極東の電力事情
―近年の政策とプロジェクトの動向―
ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
長谷直哉
本稿では、ロシア政府・電力企業の公式資料及び関連報道に基づき、ロシア極東の電力事情に関わる近年の関連政策及び最近のプロジェクト動向を紹介するとともに、同地域が抱える電力問題を様々な観点から整理・分析する。
ビジネス最前線
人との繋がりが日ロビジネスを進めるカギ
澤田ホールディングス株式会社
投資企画部 部長 中山寿一さん
今回は澤田ホールディングス株式会社(以後、澤田HD)投資企画部部長の中山寿一さんのお話をご紹介します。
中山さんは、澤田HDに入社されてから、同行の出資先であるロシアのソリッドバンクへ出向され、カムチャッカ、ウラジオストクと勤務され、2015年4月にご帰国されたばかりです。
インタビューではロシアでの滞在経験を中心に、日ロビジネスの可能性、ロシアで感じた様々な人達との縁、また、それが日ロビジネスを進める上で何よりも大切だということなど様々なことを伺いました。(鳴沢政志)
キーパーソンに訊く
ロシアのアジア志向は「欧州中心主義」終焉の帰結
ロシア連邦議会連邦院(上院)国際委員会副議長
A.クリモフ
本号では、ロシア上院国際委員会副議長のクリモフさんのインタビューをお届けします。クリモフさんとは、9月初旬にウラジオストクで開催された東方経済フォーラムで、20数年振りにお目にかかり、その後、モスクワで時間を取っていただき、旧交を温めました。青年実業家から政治家に転進し、2000年代半ばから欧州諸国を中心とする国際関係問題を担当されています。クリモフさんには、ロシアの欧州、米国との関係の現状、また、ロシアのアジア志向の「本気度」を伺いつつ、中国や日本との関係の現状と将来などについてお話しいただきました。(岡田邦生)
ルポルタージュ
ロシア新宇宙基地取材報告
―宇宙大国ロシア プーチン大統領の狙い―
今年9月24日の夜、ロシア極東アムール州のウグレゴルスク駅に、ロケットのパーツを積み込んだ特別列車が到着した。すぐ近くで建設中のヴォストーチヌィ宇宙基地で、最初に打ち上げられる予定のソユーズロケットだ。ロケットはパーツに分けられたままコンテナに積まれ、ロシア中部サマラ州にある宇宙開発施設からおよそ20日間かけて運ばれてきた。
ロシア政府は、年内を目標に宇宙基地を完成させるとともに、ソユーズロケットを基地内の工場で組み立てた上で、2つの衛星を積み込み、初めての打ち上げを行う計画だ。
プーチン大統領が国の威信をかけて取り組む宇宙基地の建設。軍事目的の利用も可能で機密も詰まった建設現場を、外国のメディアとして初めてNHKが単独取材した。(山下武朗)
ロシア極東羅針盤
クリル諸島に新型特区
北方領土を含むクリル諸島に新型特区(先進社会経済発展区)をつくる計画が進んでいる。地元のサハリン州政府は、開発コンセプトをまとめ、極東発展省に提出した。トルトネフ副首相はメディアのインタビューに対し、今年末までに特区を設ける方針を明らかにしている。2015年10月現在、極東発展省とサハリン州政府との間でコンセプトの調整が行われており、それが終わり次第、政府に提出される予定である。(齋藤大輔)
地域クローズアップ
金とダイヤモンドのサハ共和国(ヤクーチヤ)
ロシア最大の面積を誇り、その広大な土地に金やダイヤモンドの鉱山が広がるサハ共和国(ヤクーチア)。豊富な天然資源に恵まれた地域であるが、シベリア北東部に位置する共和国の大部分は永久凍土で覆われており、タイガ(針葉樹林)やツンドラが広がっている。過去には、人類が生息する地域として世界最低気温を記録するなど、過酷な自然環境は想像を絶する。
金やダイヤモンドを中心に鉱物・エネルギー資源の埋蔵量はロシア第1位と経済的な魅力はあるものの、ロシアの極東・シベリアの多くの地域に共通する厳しい自然環境、希薄な人口、未整備な輸送インフラといった要因で長年、経済発展が進まず、日本でもあまり関心の目が向けられてこなかった。
ところが最近は、ロシアの地域別投資魅力ランキングや投資ポテンシャルの高い都市ランキングなどで上位に位置づけられる。そこで本稿ではサハ共和国(ヤクーチア)の現状と、経済成長のポテンシャルについて紹介する。(中馬瑞貴)
ロジスティクス・ナビ
中国発「借港出海」の試み
ロシア第一の貿易相手国である中国は、極東港湾でも存在感を強めています。さらに従来の中ロ貿易貨物に加え、中国発―ロシア港湾経由―日本海というトランジット輸送ルートの試験運行が始まっています。中国東北部の海への出口としての極東港湾の可能性を考えます。(辻久子)
研究所長随想
対岸貿易から始まった日露極東貿易
ゴルバチョフがソ連共産党書記長に選出されたのは1985年3月で、54歳の若さであった。その時から3年が経過し、ペレストロイカやグラースノスチが国民にも浸透してきていた。モスクワの生活は、毎日が新鮮で何かが起こる予感があり、1960年代や1970年代に駐在していた当時の停滞して、何も変わらない時代とは大きく異なっていた。(遠藤寿一)
モスクワ便り
次回の東方経済フォーラムに向けて
9月4日〜6日、ウラジオストクで東方経済フォーラムが開催された。ロシア政府は、来年も第2回フォーラムを実施する意向だ。欧州勢が主役のペテルブルグ経済フォーラムと異なり、東方経済フォーラムはアジア勢が中心的役割を果たすことができる貴重なイベントである。日本としては、このフォーラムをロシアビジネス促進のための足がかりとして大事にしていきたいところだ。しかし、今回のフォーラムは、第1回という点を考慮しても、かなり不手際が目立った。本稿では、次回のフォーラムをより良いものとするため、幾つかの提案をしたためることとしたい。そして、ここで提案したことは、何らかの形でロシア側関係者に伝えるつもりである。(中居孝文)
INSIDE RUSSIA
ヤクーニン・ロシア鉄道社長退任の背景
2015年8月20日、ロシア鉄道鰍フ社長の座から、ウラジーミル・ヤクーニン氏が退任した。ちょうど10年間、ロシア鉄道業界に君臨した大物社長の退陣だ。本稿では、この人事の背景について考える。なお、月報今号の「記者の『取写選択』」のコーナーでも、ヤクーニン氏の人となりが語られているので、あわせて参照していただきたい。(服部倫卓)
産業・技術トレンド
ロシアとボーイング社
ボーイング社はアメリカの航空産業の代表企業であり、冷戦中はアメリカの空軍力を支えた企業であるので、一見するとロシアとの関係は薄そうである。しかし、同社は世界中の産業インフラを自社のために有効活用することに長け、ロシアの産業インフラも利用している。今回は、ロシアにおけるボーイング社の活動について紹介し、ロシアに対する真に積極的な姿勢の実例を紹介する。(渡邊光太郎)
自動車産業時評
2015年上半期のロシア商用車市場
ロシアの調査会社「ASMホールディング」より、2015年上半期のロシアの商用車(トラック、バス)の生産、販売、輸入に関するデータを入手することができましたので、今回は、それらのデータをもとに同期のロシアの商用車市場の状況をご紹介することにします。その他、AEBのデータをもとに上半期の小型商用車の販売の状況もご紹介します。(坂口泉)
中央アジア情報バザール
中央アジアの二世エリート
中央アジアでは後継者問題が頻繁に取り沙汰されるが、候補として必ず注目されるのが大統領の娘や息子たちだ。大統領の政権長期化、高齢化が進んでいるため、娘や息子と言っても、すでに政界、経済界でさまざまな経験を積んだエリートたちである。大統領のご子息とはいえ、いや、そうであるからこそ、権力争いに巻き込まれ、時にはスキャンダルとして注目される。そこで今回は大統領を親に持つ各国の有力な二世エリートたちを紹介する。(中馬瑞貴)
ウクライナ情報交差点
ウクライナ石油精製業の苦境と混乱
ウクライナ統計局によれば、同国におけるガソリンの生産量は、図表1のように推移している。生産量は、2004年の500万tをピークに、減少の一途を辿っており、2014年にはわずか67万tに留まった。(服部倫卓)
蹴球よもやま話
君はFCアスタナを見たか
カザフスタンサッカー連盟は、2001年にアジアサッカー連盟(AFC)を脱退し、2002年に欧州サッカー連盟(UEFA)に加盟している。サッカーのことをよくご存知でない方は、「アジアにいた方が、ワールドカップに出やすいのに、何故?」と疑問に思われるかもしれない。(服部倫卓)
デジタルITラボ
成長著しいロシアのネット通販市場
J'son & Partners Consulting社の調査によると、2014年のロシア国内のネット通販市場規模は前年比27%増の6,830億ルーブルに達した。2009年から2014年にかけての同市場規模の年平均成長率は42.5%と順調な拡大が見られた。国内経済の停滞および消費者の購買力低下により、2015年には一時的に前年比5%の縮小が予測されているものの、2016年には景気低迷以前の水準に回復する見通しとなっている。(大渡耕三)
シネマ見比べ隊!!
ロシア革命:赤と白、評価の逆転
『愛の奴隷』VS『提督の戦艦』
今では、11月を迎えてロシア革命を思い起こすロシアの人々も少なくなったことでしょう。かつて11月7日・8日と祝日だった「十月革命記念日」も11月4日の「民族統一の日」に取って代わられ、革命記念パレードの祝祭モードも消滅したのですから(その祝祭的盛り上がりは、5月9日の戦勝記念日に譲ることになりました)。ロシア革命をもはや記念する事由がなくなったとして記念日を廃止し、新たに「民族統一の日」(1612年、ミーニンとポジャルスキー率いる義勇軍が介入してきたポーランド軍に勝利し、モスクワを解放した日にちなむ)が設けられたのは、2005年の第2次プーチン政権下でのことです。
このたびは、ソ連時代に制作され、赤軍側に協力した者たちの闘争と悲劇を背景に男女の悲恋が重ねて描かれた『愛の奴隷』(1976)と、革命記念日が廃止されて間もなく制作され、白軍の司令官コルチャークを悲劇のヒーローとして描出した『提督の戦艦』(2008)とを見比べてみたいのです。(佐藤千登勢)
記者の「取写選択」
解任された強面役人
こんなににらまれた上に指まで差されながら、よくシャッターを切ったものだ。国営ロシア鉄道(RZD)のウラジーミル・ヤクーニン前社長である。先日、解任のニュースを耳にし、あの強面が脳裏に蘇った。RZDのトップに10年間君臨。最近ではクリミア問題に絡む欧米の制裁リストに名を連ねる。もちろんプーチン大統領との親密さからである。(小熊宏尚)