ロシアNIS調査月報
2016年6月号
特集◆揺れ動くNIS経済と
産業・貿易
特集◆揺れ動くNIS経済と産業・貿易
調査レポート
2015年のロシア・NIS諸国の経済トレンド
調査レポート
2015年のNIS諸国の乗用車市場
データバンク
2014年のNIS諸国の貿易統計
データバンク
2015年の日本の対NIS諸国貿易統計
キーパーソンに訊く
農業はベラルーシ経済を牽引する輸出産業
ビジネス最前線
親日国ウズベキスタンに日本の技術導入を推進
ルポルタージュ
ドネツク人民共和国訪問記
データバンク
2015年のロシア・NIS諸国の経済統計
エネルギー産業の話題
2015年のカザフスタン石油産業
中央アジア情報バザール
中央アジアの「報道の自由度」
ドーム・クニーギ
宇山智彦・藤本透子編
『カザフスタンを知るための60章』
ウクライナ情報交差点
ウクライナのタイヤ生産と輸出入

研究所長随想
ロシア歴史画の巨匠スーリコフ
モスクワ便り
欧州各国の在ロ商工会:それぞれの現実
産業・技術トレンド
択捉島のレニウム資源
ロジスティクス・ナビ
バルト海水域の動向とトランジット輸送
デジタルITラボ
ロシアのSNSでのトラブルあれこれ
データの迷い道
通貨ルーブルの価値
シネマ見比べ隊!!
音楽映画に見るロシアの自然
駐在員のロシア語
床屋さん
業界トピックス
2016年4月の動き
JA庄内みどりが桜をペテルブルグへ初出荷
通関統計
2016年1〜3月の輸出入通関実績
記者の「取写選択」
KGBの孤児院


調査レポート
2015年のロシア・NIS諸国の経済トレンド

ロシアNIS経済研究所

 本誌では毎年6月号において、前年のロシア・NIS諸国の経済実績を踏まえつつ、各国の最新の経済動向について論評するという企画をお届けしている。本年も2015年のデータがほぼ出揃ったので、早速それを試みたい(『ロシアNIS経済速報』2016年4月15日および4月25日号より再録)。なお、モンゴルは一般的にはNISの範疇に入らないが、今回からモンゴルも本レポートの対象に加えることにする。
 執筆は当会ロシアNIS経済研究所のスタッフによるものであるが、ロシアについては北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの田畑伸一郎教授に特にご寄稿いただいた。


調査レポート
2015年のNIS諸国の乗用車市場

ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉

 本稿では、NIS諸国のうちウクライナ、ベラルーシ、カザフスタン、ウズベキスタンの4ヵ国を取り上げ、それぞれの乗用車市場の現状と今後の見通しを紹介する。ウクライナに関しては、グリブナ安が及ぼした影響や特別関税をめぐる動きに着目しながらその状況を紹介したい。また、ベラルーシとカザフスタンに関しては通貨の下落、税制の変更、ならびに、ロシアからの並行輸入車の大量流入などが及ぼした影響に留意しながら、その現状と今後の展望を紹介する。そして、ウズベキスタンに関しては、同国唯一の乗用車メーカーであるGMウズベキスタンと市場の特殊性に焦点をあてながら、その現状を紹介する。


データバンク
2014年のNIS諸国の貿易統計

 小誌では、NIS諸国の基礎的な経済データの紹介に努めており、その一環として毎年1回、NIS諸国の貿易データをまとめて掲載することにしている。今回も、CIS統計委員会編の『2014年のCIS諸国の外国貿易』にもとづき、当該のデータを紹介する。
 本資料は、2015年ではなく、一昨年の2014年の貿易データなので、ご注意願いたい。2016年の半ばに2014年の貿易統計を載せるというのは、いかにも遅いが、CIS統計委の統計発行の遅れや、小誌の編成上の事情等によるもので、ご容赦願いたい。ただし、2015年の各国の輸出入額はすでに判明しているので、各国の「表1 貿易高」には2015年の輸出入額を記入した。
 なお、すでにCISから脱退したジョージアと、CIS統計委にしかるべく数字を提供しておらず、したがって『CIS諸国の外国貿易』にデータが満足に出ていないウズベキスタンとトルクメニスタンについては、共通様式での表の掲載ができない。ウズベキスタンに関しては、同国統計委の刊行物にもとづいて掲載したが、同国の輸出入額はサービス貿易も含んでいるので、ご注意いただきたい。トルクメニスタンとジョージアに関しては、詳しい貿易統計を入手できなかったので、今回は割愛させていただいた。他方、今回から、モンゴルのデータを同国発表の統計を利用して加えることにする。一方、ロシアについては、2014年の詳細な貿易統計を本誌2015年9-10月号に掲載しているので、ご利用いただきたい。また、2015年のロシアの貿易統計は『ロシアNIS経済速報』2016年2月25日号で概要を紹介しているほか、近く本誌でさらに詳しく取り上げる予定である。


データバンク
2015年の日本の対NIS諸国貿易統計

 恒例により、日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2015年の日本とNIS諸国との貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。日ロ貿易については、すでに5月号に掲載済みである。なお、今回から日本とモンゴルの貿易データも取り上げる。


キーパーソンに訊く
農業はベラルーシ経済を牽引する輸出産業

ベラルーシ共和国農業・食料省第一次官
L.マリニッチ

 本号では、ベラルーシ共和国農業・食料省第一次官のマリニッチさんのインタビューをお届けします。マリニッチさんは、3月初旬に幕張メッセで開催されたアジア最大級の食品・飲料専門展示会であるフーデックス・ジャパンに、ベラルーシ代表団を率いて初来日されました。ベラルーシは伝統的に製造業の国ですが、この10年ほどの間に、農業生産も著しく拡大しています。ベラルーシの食料自給率は93%に及び、さらに加えて国内需要の70%に相当する食料を海外に輸出するなど、ベラルーシは知られざる農業大国でもあります。マリニッチさんには、ベラルーシにおいて、どのように農業の再興がなされたのか、ユーラシア経済連合の発足がベラルーシの農業に与える影響、農業における日本との協業の可能性などについてお話しいただきました。(岡田邦生)


ビジネス最前線
親日国ウズベキスタンに日本の技術導入を推進

富士通 公共・地域営業グループ グローバルビジネス統括部
マネージャー 岡田光太郎さん

 今回は富士通株式会社公共・地域営業グループグローバルビジネス統括部の岡田光太郎さんのお話をご紹介します。
 岡田さんは、プライベートでウズベキスタンを訪問して以来、ウズベキスタンの方々の強い親日感情と日本であまり知られていないポテンシャルに魅せられ、同国でのビジネス展開に熱意をもったそうです。
 インタビューでは富士通のウズベキスタンを含む中央アジア事業の現状や今後の可能性の他に、実際に訪問してみたウズベキスタンの印象や国民性などについてもお話いただきました。(中馬瑞貴)


ルポルタージュ
ドネツク人民共和国訪問記

北海学園大学非常勤講師
北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター共同研究員
藤森信吉

 2016年2月、私はドネツク人民共和国(法的に言えば「ウクライナの一時的占領地域」、もしくは「ドネツク州の特定地区(ORDO)」、「対テロ作戦(ATO)地域)」と呼ばれ地域)を調査研究する機会に恵まれた。
 周知のように、現在、人民共和国への合法的な渡航は制限されている。2014年4月にウクライナ東部のドンバス2州(ルガンスクおよびドネツク州)で「人民共和国」の建国が宣言されると、ウクライナ政府は「対テロ作戦」と称する軍事的な奪還作戦を発動し、両者の武力衝突が激化、同年8月のロシアの軍事介入を経て人民共和国の存在が確固たるものなると、ウクライナ政府は「占領地域」との境界に複数の通過ポイントを設け、往来を制限、事実上の封鎖体制を敷いている。
 現時点では人民共和国への渡航は非常に面倒である。ウクライナ公安当局から渡航許可を得なければならないし、5つしかない通過ポイントは頻繁に閉鎖される。首尾よく入境できたとしても、人民共和国には軍事機密上、立ち入り禁止の地区が多く、拘束や武力衝突に巻き込まれる危険性がある。そうなった場合、ウクライナ政府、日本大使館による保護は期待できない。
 とはいえ、ここ数年、沿ドニエストルを訪問し、ドンバスや未承認国家問題に傾注している私にとっては、ドンバスは行かねばならない地域だ。現地調査をしない地域研究者は失格だと思っているからだ。困難が予想される通過ポイントでの体験も「境界を体験する絶好の機会」と楽観的に考え、日本を出たのだった。


エネルギー産業の話題
2015年のカザフスタン石油産業

 カザフスタンの石油生産量は2000年代に入り急激に増加し始め、2001年時点で3,990万tだったものが2013年には8,180万tに達しました。カザフスタン政府の見通しによれば、2014年以降も増産が続くとみられていましたが、生産は減少し始め、2015年の生産量は7,950万tにとどまりました。また、製油部門の状況も芳しくなく、近代化の遅れが目立ち始めています。今回は、カザフスタン石油分野の不振の背景にある事情に着目しながら、その2015年時点の状況をご紹介します。(坂口泉)


中央アジア情報バザール
中央アジアの「報道の自由度」

 2002年から「国境なき記者団(Reporters without Boarders)」によって毎年発表されている「報道の自由度」を示す(World Press Freedom Index)ランキングをご存じだろうか。ジャーナリストや報道機関の多様性や独立性、インターネットへのアクセス、政府による言論の自由の尊重の度合い、法整備の現状などについて、各国のジャーナリスト、法律家、人権活動家などを対象としたアンケートの結果を元に作成されているランキングである。
 2016年4月にこのランキングの2016年版が発表された。日本は2010年の11位(過去最もよいランク)以来、年々順位を落としている。2012年の22位から2013年に53位に急落し、その後、2014年59位、2015年61位、今年は72位にまで落ち込んだ。
 世界180カ国が対象となっているこのランキングで果たして中央アジア各国はどういう位置づけになっているのだろうか。言論や報道の自由という点ではマイナスイメージの強い中央アジアについて、国境なき記者団の評価や他の旧ソ連地域との比較も交えて紹介する。(中馬瑞貴)


ウクライナ情報交差点
ウクライナのタイヤ生産と輸出入

 今回は、ウクライナのタイヤ産業・市場に着目してみたい。それには、2つの理由がある。
 第1に、昨今の危機的な政治経済情勢にあっても、ウクライナ随一のタイヤメーカーであるROSAVA(ロサヴァ)社が、意外に元気だという点である。2015年の暮れから2016年の新年にかけて、同社は元日の1日しか休みをとらず、正月返上で操業したという。この5月の連休シーズンにも2日しか休まなかったそうだ。
 第2に、ウクライナ製のタイヤは、ロシアをはじめとするCIS市場だけでなく、EU等の遠い外国にも輸出実績があることである。ウクライナの輸出は、鉄鋼・化学品・農産物などの素材・原料系に偏重しており、完成工業製品のタイヤが国際的な販路を有していることは、注目すべきだろう。(服部倫卓)


研究所長随想
ロシア歴史画の巨匠スーリコフ

 19世紀後半に入ったロシアは、クリミア戦争(1853〜1856年)に敗れ、大きな衝撃を受けた。欧州一の軍隊と怖れられていたロシア軍は、数の上ではるかに劣っていた英・仏の軍隊に完敗を喫したのである。武器や軍事技術の劣勢では、ロシアの社会基盤の弱さが指摘されるようになった。クリミア戦争の中で、農奴社会では農奴がこの戦争に従軍すれば、農奴の身分から解放されると言う噂が広がり、これを打ち消そうとする当局との間に騒乱が各地に広がって行った。
 ニコライ1世急死の後を受けて即位したアレクサンドル2世は、社会の混乱を収拾するため、モスクワの貴族団に対し、農奴制廃止を約束することになる。1861年2月農奴解放は実施されたが、地主の利益を守ることに重点が置かれていた。その結果、同年夏以降ロシアの主な都市でデモが繰り返された。政治的抗争の中で社会は不安定になっていったが、文化面ではニコライ1世の警察国家時代に摘み取られてきた才能が花開いた時代でもあった。科学、哲学、教育、文学、音楽、美術、演劇などに優れた多くの人材が世に輩出したのである。(遠藤寿一)


モスクワ便り
欧州各国の在ロ商工会:それぞれの現実

 これまで本コーナーでは、欧州ビジネス協会(AEB)、独ロ通商会議所、在ロ米国商工会議所の活動を紹介してきた。ロシアには、これら3組織ほど強力ではないものの、一定の活動をしている欧州系の商工会がいくつか存在する。今回は、その中からフランス、フィンランド、イタリアの商工会活動の概要を紹介することにしたい。(中居孝文)


産業・技術トレンド
択捉島のレニウム資源

 択捉島と言えば北方領土最大の島として多くの日本人に記憶されているが、地質分野ではレニウムを含む鉱物が存在していることが90年代から知られていた。レニウムは地殻中の存在度が白金族元素並みに少ないレアメタルの中のレアメタルである。択捉島のレニウムは商業的生産に至っていなかったが、2015年12月に火山ガスからのレニウムの生産に成功し、商業的生産の可能性が出てきたことが報道された。択捉島のレニウムがどのようなものか、また、本当に経済的な可能性があるのかを紹介する。(渡邊光太郎)


ロジスティクス・ナビ
バルト海水域の動向とトランジット輸送

 バルト海沿岸にはロシアの他にバルト諸国やフィンランド領に港湾が多数存在し、ロシアがトランジット輸送に利用してきました。2015年のバルト海水域港湾の動向を紹介し、近隣国港湾との関係を分析します。(辻久子)


デジタルITラボ
ロシアのSNSでのトラブルあれこれ

 地域社会団体「インターネットテクノロジーセンター」(ROTSIT)が2015年に実施した調査「ロシア国民のデジタルリテラシー指数」によると、ロシア国民のおよそ60%が何らかのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を利用していることがわかった。図表1のとおり、SNSユーザーのうちの70%程度がアカウントを所有していると回答したのがロシア最大のSNSサイト「Vkontakte」であり、他の同様のサイトを大きく引き離している。(大渡耕三)


データの迷い道
通貨ルーブルの価値

 通貨ルーブルの発行元で通貨の番人である、ロシア中央銀行を抜きに、ロシア経済は語れない。お金周りの統計データは、ロシア中央銀行のサイトにある。ロシア中央銀行の紙の出版物として、毎週1回以上、年間100号発行される「ロシア銀行通報」、毎月発行される「ロシア銀行統計報告」などの出版物がある。金融は国際化され、ロシア中央銀行も国際通貨基金(IMF)と密接な関係があり、IMFの基準に沿ったデータ提供を行い、英語での情報提供は充実している。IMFのサイトにも、ロシアをはじめ、各国の情報があり、経常収支のGDP比など、各国の中央銀行のサイトでは簡単に探せないようなデータもあり、双方のデータを併用するのがよさそうである。(高橋浩)


シネマ見比べ隊!!
音楽映画に見るロシアの自然
『チャイコフスキー』VS『ラフマニノフ』

 サンクトペテルブルクでは今年も「白夜祭」と呼ばれる音楽や芝居、バレエで長く明るい夜を楽しむ時節を迎えておりますね。5月から7月にかけて開催されるこの企画、1993年に始まったとされますが、コンサートホールのみならず、カフェやレストランでもさまざまなジャンルの演奏会やパーティーが催され、通りでは大道芸人が通行人を楽しませ、花火が鳴り響くなか壮麗な建築物がライトアップされるなど、街全体で祝祭的盛り上がりを見せるようになったのは、2000年頃からと言われます。この白夜祭を目玉としたツアーも人気で、外国からの観光客で街はいっそう賑わいます。
 今回は、そうした白夜祭の熱気に遠く思いを馳せながら、ロシアを代表するふたりの作曲家をテーマとした2つの音楽映画をご紹介したいのです。(佐藤千登勢)


駐在員のロシア語
床屋さん

 オペラ「セビリアの理髪師」をもじった、ニキータ・ミハルコフ監督の映画「シベリアの理髪師」のцирюльникとは髪を切る理髪師ではなく、シベリアの木をめった切りにするための蒸気機関式森林伐採機だった。今回は、ロシアの床屋さんに正しくこちらの意図を伝え、できるだけ期待どおりに髪を切ってもらうための講座だ。(新井滋)


記者の「取写選択」
KGBの孤児院

 「若き親衛隊」と名付けられた施設は、モスクワ郊外ヴヌコヴォの白樺林の先に静かにたたずんでいた。招き入れられた部屋の壁には、KGBの前身「非常事態委員会/チェーカー」初代議長ジェルジンスキーの肖像。「秘密警察の父」に見つめられながらの取材になろうとは―。ただ、この「若き親衛隊」は諜報機関でも戦闘組織でもない。孤児院なのだ。(小熊宏尚)