ロシアNIS調査月報
2017年11月号
特集◆東方経済フォーラムと
北東アジア国際関係
特集◆東方経済フォーラムと北東アジア国際関係
イベント・レポート
第3回東方経済フォーラム開催
イベント・レポート
第3回東方経済フォーラム全体会合
―ロシア極東:新しい現実の創造―
イベント・レポート
日ロラウンドテーブル開催
―ロシア極東における日ロ協力の多様化―
資料
ロシアメディアによる東方経済フォーラム関連報道
イベント・レポート
新潟で日ロ沿岸ビジネスフォーラム開催
調査レポート
中ロ協力の現状と問題点
調査レポート
ロシアの東方シフトの現状分析
―経済的合理性を軸に―
ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道と「一帯一路」
INSIDE RUSSIA
ロシアと北朝鮮の貿易データ
ロシア極東羅針盤
数字で攻めてくるロシア
地域クローズアップ
日本から最も近いヨーロッパのサハリン州
ミニ・レポート
ウラジオストク:海を渡る橋
―モスクワ女性が感じた印象―

研究所長随想
「研究所長随想」100号の軌跡
自動車産業時評
2017年上半期のロシア商用車市場
産業・技術トレンド
ロシアの炭素繊維メーカーの再編
デジタルITラボ
ロシア仮想通貨市場の盛り上がり
蹴球よもやま話
ロシアではサッカーも国が主導
ウクライナ情報交差点
まだら模様のウクライナ経済パフォーマンス
中央アジア情報バザール
中央アジア・コーカサスの国際競争力
ロシアと日本
・出会いの風景
ウイスキー博物館の思い出
―ザ・ヴァシェ・ズダロービエ―
シネマ見比べ隊!!
芸術の秋に寄せて
駐在員のロシア語
酒席
業界トピックス
2017年8−9月の動き
通関統計
2017年1〜8月の輸出入通関実績
記者の「取写選択」
スノーデンが来た夏


イベント・レポート
第3回東方経済フォーラム開催

「極東:新しい現実の創造」をテーマに、2017年9月6日、7日、ロシア極東のウラジオストクにおいて第3回東方経済フォーラムが開催された。先進社会経済発展区(新型特区)やウラジオストク自由港など、プーチン政権は極東開発政策を積極的に進めている。進出件数は400件を超え、それなりの成果を出しつつある。東方経済フォーラムは、そうした極東政策やそれに関連するプロジェクトを広く紹介し、ロシア国内外からの投資誘致を促進するとともに、政策の諸課題や地域開発の問題点を有識者や企業関係者が議論し、次の政策につなげることを目的としている。今回のフォーラムには、ロシア、日本、韓国、モンゴルの4ヵ国の首脳が顔をそろえた。フォーラム直前に北朝鮮が6回目の核実験を強行したことで、北朝鮮への対応をめぐり、各国首脳がどのような言葉を発するのかに関心が集まった。日ロ首脳会談では、北方4島での共同経済活動で優先的に取り組む事業として、海産物の養殖、温室野菜の栽培など5つに絞り込むことで合意した。一方、ロシア側からは日本の経済協力への不満が聞かれた。昨年同様、日本からは数多くのハイレベルの企業関係者が本フォーラムに参加した。当会は実業ロシアとともに日ロビジネスラウンドテーブルを開催した。本稿では、第3回東方経済フォーラムの結果とともに、日ロ首脳会談の概要と日ロ間の合意文書一覧を紹介する。(齋藤大輔)


イベント・レポート
第3回東方経済フォーラム全体会合
―ロシア極東:新しい現実の創造―

 第3回東方経済フォーラム2日目である9月7日15時ごろ(14:00〜16:00の予定であったが繰り下がり)、全体会合の幕があがった。会場は昨年と同じく、厳重に警備されたS棟が選ばれ、プレムアム登録者のみが出席することができた。その他の参加ステータスの場合は、別棟のパブリック・ビュー会場、または各所に設置の中継テレビで視聴することとなった。今回は、香港出身の実業家であるルーニー・チャン「Hang Lung Properties」会長が司会を行い、安倍総理、プーチン大統領に加え、文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領及びハルトマー・.バトトルガ・モンゴル大統領が登壇した。外交儀礼に則り、プーチン大統領、文大統領、バトトルガ大統領、安倍総理の順で演説が行われ、その後質疑応答時間となった。以下では、「ロシア極東:新しい現実の創造」と題された全体会合での登壇者発言、質疑応答の様子などを紹介する。(長谷直哉)


イベント・レポート
日ロラウンドテーブル開催
―ロシア極東における日ロ協力の多様化―

 9月7日(木)午前、東方経済フォーラムの枠内で、日ロラウンドテーブル「ロシア極東における日ロ協力の多様化」が開催された。日ロラウンドテーブルは、2015年に開催された第1回東方経済フォーラムから毎年実施しているもので、今回は、世耕弘成経済産業大臣兼ロシア経済協力分野担当大臣、シュヴァロフ第一副首相、オレシキン経済発展大臣を含め約350名(うち日本側220名、ロシア側130名)がこれに参加した。以下では、その概要を報告する。なお、本稿では、オレシキン経済発展大臣と世耕経産大臣の挨拶については、ほぼ全文を掲載し、その他の参加者の発言に関しては要旨を紹介することとしたい。(中居孝文)


資料
ロシアメディアによる東方経済フォーラム関連報道

 この小レポートでは、ロシアNIS貿易会の村山滋会長(川崎重工業会長)、岡田邦生ロシアNIS経済研究所所長、そして当会のパートナーである実業ロシアのアレクセイ・レピク会長(露日ビジネスカウンシル議長)が、東方経済フォーラムに際してロシア側のメディアから受けたインタビューを翻訳し、その内容を紹介することとしたい。


イベント・レポート
新潟で日ロ沿岸ビジネスフォーラム開催

 2017年8月23日(水)〜24日(木)にかけて、新潟市の朱鷺メッセにおいて第26回日ロ沿岸市長会議・日ロ沿岸ビジネスフォーラムが開催された。当会は日露貿易投資促進機構の事務局として日ロ沿岸ビジネスフォーラムに協力した。
 日ロ沿岸市長会議は、新潟市をはじめ日本海側沿岸の17市から構成される日ロ沿岸市長会及びロシア極東・東シベリアに所在する20市を会員とするロ日極東シベリア友好協会(会長:ソコロフ・ハバロフスク市長)が、2年に1度、日ロ交互に開催しているものである。まだソ連時代の1970年に第1回会合(当時の名称は日ソ沿岸市長会議)がハバロフスクで開催され、すでに40年以上の歴史を有する伝統ある会議である。
 今回の第26回日ロ沿岸市長会議・日ロ沿岸ビジネスフォーラムには、日ロ双方の自治体関係者及びビジネス関係者合わせて約120名が参加した。会議は2日間にわたって行われ、第1日目は「経済:日本海沿岸地域とロシア極東シベリア地域とのビジネスチャンス拡大について」、第2日目は「観光:両地域諸都市における双方向(インバウンド・アウトバウンド)の観光交流促進に向けた方策」をテーマに報告が行われた。本稿では、当会が協力した第1日目の「経済」の結果について報告することとしたい(第2日目の「観光」については割愛)。 (中居孝文)


調査レポート
中ロ協力の現状と問題点

高知大学 人文学部
塩原俊彦

「ユーラシア経済連合」を推進するロシアと、「シルクロード経済ベルト」や「一帯一路イニシアチブ」構想を具体化しつつある中国とは、中央アジアなどで利害が対立する場面がみられる。この矛盾を止揚するためにウラジミル・プーチン大統領は「ボリショイ・ユーラシア・パートナーシップ」の創設といった新しい概念を提唱するに至っている。本稿では、中ロ協力の現状を考察するなかで、中ロ協力に潜む問題点を指摘したい。といっても、この二国間の協力は多岐にわたるため、本稿では@輸送、A石油ガス資源、B北極圏、C軍事の4つの分野を中心に分析することにする。


調査レポート
ロシアの東方シフトの現状分析
―経済的合理性を軸に―

ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉

 欧州に偏重気味となっている石油ガス輸出の東方へのシフト(アジア諸国への輸出の強化)の必要性がロシアで唱えられるようになって久しい。ただ、東方シフトに関しては地政学的重要性が強調されることが多く、その経済的合理性に注目が集まることは比較的稀となっている。そこで、本稿では、経済的合理性というキーワードを軸に、東方シフトの現状と今後の課題を見ていくこととする。


ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道と「一帯一路」

 中国では「一帯一路」の掛け声の下、全国各地から競って、欧州行きコンテナ列車を運行し始めました。どのルートも途中、シベリア鉄道を利用します。北京で開催されたシベリア鉄道の国際会議では、中国が最大利用国として圧倒的存在感を見せつけました。(辻久子)


INSIDE RUSSIA
ロシアと北朝鮮の貿易データ

 北東アジアにおいては、全体として、国際的な経済交流の機運は高まる方向にあると言えよう。そうした中で、深刻な攪乱要因となっているのが、北朝鮮情勢である。本稿では、今後の北東アジア情勢を考える材料の一つとして、ロシアと北朝鮮の貿易データを取り上げる。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
数字で攻めてくるロシア

 いつの間に、ロシアはこんなに数字に敏感な国となったのか、もっと見るべき視点がほかにあるのではないかと、今回のプーチン大統領の極東への投資をめぐる対日不満をきいて、違和感を覚えた。(齋藤大輔)


地域クローズアップ
日本から最も近いヨーロッパのサハリン州

 日本から最も近いヨーロッパ、ロシア。中でも北海道の最北端、宗谷岬からわずか43kmの距離に位置するのが本稿で紹介するサハリン州。サハリン州はロシアの連邦構成主体の中で唯一、大陸から離れて島から成る構成主体。ロシア最大の面積を誇る島、サハリン島を含む59の島々で構成されている。サハリンと言えば、日本企業も参画している「サハリン1」や「サハリン2」といった石油・ガス開発プロジェクトで知られるようにエネルギー資源が豊富な地域である。また、サハリン州には日本と姉妹都市提携を結んでいる市が多い。そこで今回はロシアの中で日本人にも比較的馴染みのある地域、サハリン州について紹介したいと思う。 (中馬瑞貴)


ミニ・レポート
ウラジオストク:海を渡る橋
―モスクワ女性が感じた印象―

 ウラジオストクという街を、ロシア人は皆知っています。しかし、行ったことのある人はそんなに多くありません。 私は長い間、十代の頃から行ってみたいと思っていました。初めはこの街をロックグループ「ムーミートロリー」の歌の中で知りました。リーダーのイリヤ・ラグテンコはここで育ち、大学で中国語を学びました。そして、私のこの街への関心は日本との太い経済関係を通じて高まりました。私は2017年に初めてウラジオストクを訪れる機会を得ました。これまで多くのロシア、ヨーロッパ、日本の街を見てきたので、はっきり言えるのは、ウラジオストクはユニークで美しい街だということです。(L.ソコロヴァ)


研究所長随想
「研究所長随想」100号の軌跡

 2008年6月ロシアNIS研究所長に就任してまもなく、『調査月報』での連載を引き受けてほしいという依頼を受けた。
 第1回は2008年5月ロシア連邦大統領に就任したメドヴェージェフが、2ヵ月後洞爺湖で行われた「G8サミット」で国際舞台に初めて登場した姿を取上げた。
 連載開始当初は「所長日誌」というコーナー名であり、ロシアおよび日ロ関係業界の最新の動きについてコメントすることになっていた。初めのうちは過去のことも折り混ぜて話題性のあることを書いていたが、時には筆が進まないこともあり、2012年からはタイトルも「研究所長随想」として、範囲を広げ少し自由に書くことを許してもらった。今回100号を顧みる時、9年の歳月が流れていたことを知ることになった。(遠藤寿一)


自動車産業時評
2017年上半期のロシア商用車市場

 ロシアの調査会社「ASMホールディング」より、2017年上半期のロシアの商用車(トラック、バス、小型商用車)の生産、販売、輸入に関するデータを入手することができましたので、今回はそれをご紹介することにします。(坂口泉)


産業・技術トレンド
ロシアの炭素繊維メーカーの再編

 炭素繊維は比重1.7で鉄より強い素材として知られる。炭素繊維単体では、細く柔らかいものであるが、樹脂で固め炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に代表される複合材にすることで、軽量高強度の材料となる。炭素繊維はCFRPの形態で航空機の材料からスポーツ用品に至るまで広い範囲で使用されている。炭素繊維の生産は日本が得意とする分野で、炭素繊維で最も一般的なPAN系の炭素繊維では日本が6〜7割のシェアを握るとされる。ロシアでも日本の数パーセントレベルに留まると推定されるが炭素繊維を生産している。これまで持株会社コンポジット社(以下HCC社)が炭素繊維複合材業界の垂直統合をする方向で動いており、炭素繊維メーカーもHCC社の管理下にあった。しかし、昨年より炭素繊維メーカーはHCC社の管理下からはずれることになった。現在のロシアの炭素繊維メーカー、炭素繊維複合材業界について報告する。(渡邊光太郎)


デジタルITラボ
ロシア仮想通貨市場の盛り上がり

 ビットコインに代表される仮想通貨は、ピア・トゥー・ピア型のネットワークにより運営され、取引は仲介者なしでユーザ間で直接行われる。このシステムは中央格納サーバや単一の管理者を置かずに運営される。日本では2017年4月1日に改正資金決済法が施行され、仮想通貨は円やドルなどの法定通貨に準ずる支払い手段として、正式に認められた。今回は、ロシアにおける仮想通貨市場の盛り上がりについて、見ていきたいと思う。(牧野寛)


蹴球よもやま話
ロシアではサッカーも国が主導

 周知のとおり、ロシアでは国営企業の存在感が大きく、政府による上からの開発が試みられるなど、国家による主導性の強い経済となっている。そして、国の主導的な役割が大きいのは、実はサッカーでも同じである。言い換えれば、ロシアのサッカーは、市民による自発的な文化という側面が弱いということにもなる。ロシア・サッカーにおける国家の役割を象徴するのが、サッカーに関する事実上の国家戦略が策定されていることである。(服部倫卓)


ウクライナ情報交差点
まだら模様のウクライナ経済パフォーマンス

 ウクライナ経済は2016年から回復に転じているものの、2017年に入ってからの各種経済指標を見ると、「まだら模様」という様相を呈している。そこで今回は、2017年のウクライナ経済の途中経過について報告する。指標によって対象期間が異なるので、ご注意願いたい。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
中央アジア・コーカサスの国際競争力

 2017年9月27日、ダボス会議を主催する「世界経済フォーラム(WEF)」によって2017年版国際競争力ランキングが発表された。新興国の中では中国が27位、ロシアが38位、インドが40位と中盤より少し高い位置を占める。こうした中で中央アジア・コーカサス諸国はどのように評価されているか。その位置づけを見ていきたい。なお、対象国は137か国であり、当該地域の中ではトルクメニスタンとウズベキスタンが調査の対象から外れている。参考までに図表では日本とロシア、ウクライナ、モルドバ(ベラルーシは137カ国に含まれていない)についても紹介している。(中馬瑞貴)


ロシアと日本・出会いの風景
ウイスキー博物館の思い出
―ザ・ヴァシェ・ズダロービエ―

 ある日、北海道の余市にあるニッカウヰスキー余市蒸溜所の見学ツアーに申し込んだ。その数年前に放映されたNHK朝ドラマ「マッサン」のおかげで日本のウイスキーの誕生と歴史について知り、(個人的にお酒を飲まないのに)関心が湧いたこともあって、小樽に行った際に、余市まで足を伸ばしたのである。(D.ヴォロンツォフ)


シネマ見比べ隊!!
芸術の秋に寄せて
『小犬をつれた貴婦人』VS『黒い瞳』

 東京もすっかり秋となりましたね。今年のサンクトペテルブルグは曇天の冷夏に見舞われ、果たして夏はあったのか? と言われるほどでした。日照時間の少ない寒冷な土地において、夏はいつもと違う解放的な気分を味わえる「特別な季節」でしょう。このたびは、そんな瞬く間の夏の出逢いに始まる刹那的なような永遠のような愛について描いたチェーホフの短編『小犬をつれた貴婦人』(1899)の世界観を見事に再現したイオシフ・ヘイフィッツ監督の原作と同名の作品、そして、この小説にインスピレーションを受け、壮大な悲喜劇メロドラマに仕立て上げたニキータ・ミハルコフ監督の『黒い瞳』を見比べてみたいのです。まずは、チェーホフ生誕百周年を記念して制作された『小犬をつれた貴婦人』(1960)から。(佐藤千登勢)


駐在員のロシア語
酒席

 アルコールは社会的(=人間関係の)潤滑剤である。日本では「ノミュニケーション」なる造語ができるくらいで、何かにつけて職場仲間で、あるいはそれ以外で飲み会が開かれる。平日だろうが、ウイークエンドだろうが… 当然ロシアも負けてはいない。飲み方について違いがあるとすれば、日本人は飲む回数は多いものの量はそこそこ(人によるものの)、一方ロシア人は飲む回数は日本人ほど多くないが、一度飲み出すと「底なし」というのが筆者の個人的感想だ。(新井滋)


記者の「取写選択」
スノーデンが来た夏

「スノーデンが香港からモスクワへ飛んだ。XX時にそっちに着く。最終目的地はキューバだが乗り継ぎは翌日だから、空港から出てくる可能性もある」
 2013年6月の週末。モスクワの飲食店のテラスでの楽しい時間を、携帯電話に響くデスクの声が断ち切った。一緒にいた米国大使館幹部も顔色が変わっている。オバマ大統領の秋の公式訪露計画をも葬った長い夏≠フ始まりだった。(小熊宏尚)