ロシアNIS調査月報
2019年1月号
特集◆ロシア経済の
命運は投資が握る
特集◆ロシア経済の命運は投資が握る
調査レポート
ロシアの石油ガス分野の投資状況
―新プロジェクトをめぐる動きを中心に―
データバンク
ロシア企業の投資実施額ランキング
INSIDE RUSSIA
プーチン体制における国家投資と民間投資
ロシア極東羅針盤
ロシア極東の新型特区の現在
―沿海地方の特区に見る現状と未来―
ロジスティクス・ナビ
ロシア鉄道のインフラ投資
エネルギー産業の話題
ロシア石油ガス会社の外国への投資状況
データバンク
外国からロシアへの投資件数

調査レポート
ロシアの「デジタル経済」の位置付け
イベント・レポート
第14回日本ウズベキスタン経済合同会議
地域クローズアップ
今も注目される伝統地域ウラジーミル州
自動車産業時評
日産=ルノー・アライアンスのロシアでの現在地
産業・技術トレンド
ロシア中小企業の現状とビジネスチャンス
ロシアメディア最新事情
ロシア発おもしろ映像メディア「TOK」
中央アジア情報バザール
中央アジアの女性政治家たち
ウクライナ情報交差点
ケルチ海峡・アゾフ海で高まる緊張
デジタルITラボ
ロシアのインターネット広告市場
ロシアと日本・
出会いの風景
ソ連が崩壊した時期にできた重要な資産
シネマ見比べ隊!!
貴族社会への懐古
ロシア音楽の世界
ブルネロで、ロシア三昧のチェロ!
駐在員のロシア語
ロシアのさむーい話
業界トピックス
2018年11月の動き
通関統計
2018年1〜10月の輸出入通関実績
ユーラシア珍百景
農地買います:拡大するミラトルグの牛肉帝国
記者の「取写選択」
クリミア・ワインと戦争


調査レポート
ロシアの石油ガス分野の投資状況
―新プロジェクトをめぐる動きを中心に―

ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉

 ロシア経済の屋台骨を支える石油ガス分野では様々な投資プロジェクトが動いているが、地政学的意義が大きく話題性の高い中流・下流のプロジェクトだけに注目が集まる傾向が強くなっている。その結果、それらのプロジェクトの成否を大きく左右する川上の状況への関心が希薄となっている。より具体的に言えば、しっかりした資源基盤が存在しなければ、中流・下流のプロジェクトの成功はありえないという当たり前の事実が軽視されがちになっている。さらに、それらの話題性の高いプロジェクトに関しては、良い面だけを強調した情報が矢継ぎ早に出される傾向も見受けられ、一種の情報操作が行われているのではないかとの疑念すら抱くこともある。
 本稿では、偏向した情報により植え付けられた先入観を払しょくする意味もあり、それぞれが抱えるリスクに着目しながら、話題となっている中流・下流のプロジェクトの概要を紹介する。さらに、軽視されがちな上流の主要なプロジェクトにもできるだけ詳しく言及する。


データバンク
ロシア企業の投資実施額ランキング

 ロシアの『エクスペルト』誌(2018年10月15-21日号、No.42)に、ロシア企業の投資実施額のランキングという興味深い資料が掲載されたので、ここではそれを抜粋して紹介することにする。
 『エクスペルト』誌がロシア企業の投資実施額を比較分析する網羅的なランキングを策定するのは今回が初めてということであり、おそらく他の媒体でも前例がないのではないだろうか。
 今回のランキングは、ロシアの非金融企業を対象に、過去5年間(2013〜2017年)の固定資本投資の累計額を弾き出し、上位200社のリストを作成したものである。


INSIDE RUSSIA
プーチン体制における国家投資と民間投資

 第3期目のプーチン政権(2012年5月〜2018年5月)においては、ロシア経済近代化のためには投資拡大が必須であり、翻ってそのためには民間および外国企業による投資を促す投資環境の改善が不可欠であるとの発想にもとづき、政策が構築されていたと理解している。しかし、2018年5月にスタートした第4期プーチン政権においては、欧米との対立をはじめとする複雑な地政学的状況の中で、ロシア国家の役割に再び重点が置かれるようになり、国家や国営企業の主導するインフラ事業、大規模投資計画が前面に出ている印象が強い。本稿では現地有識者の議論を紹介するとともに、2018年秋の政策展開を整理する。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
ロシア極東の新型特区の現在
―沿海地方の特区に見る現状と未来―

 ウラジオストク市中心部から約40km。先進社会経済発展区(新型特区)の1つ、「ナデジェヂンスキー」がある。空港に近く、幹線道路沿いに位置していること、シベリア鉄道や幹線送電網からも近く、ガスもすぐに敷けることが強みだ。2018年3月に訪れてみると、幹線道路とつながる道路が完成し、特区内に入れるようになっていた。(齋藤大輔)


ロジスティクス・ナビ
ロシア鉄道のインフラ投資

 8万5,000kmの線路を保有するロシア鉄道は、継続的なインフラの維持・近代化、車両の更新などが必要です。さらに、高速鉄道など海外の先進技術の導入や新規路線の建設にも意欲的です。同社のインフラ投資活動を紹介します。(辻久子)


エネルギー産業の話題
ロシア石油ガス会社の外国への投資状況

 ルクオイルやロスネフチを筆頭に、ロシアの大手石油ガス会社は、外国でも積極的に投資活動を展開しています。各社の投資活動の地理的範囲は非常に広く、すべてに言及することは不可能なので、今回は、南米、東アフリカ、地中海、メキシコにエリアを限定し、そこでのロシアの石油ガス会社の最新の動きをご紹介します。(坂口泉)


データバンク
外国からロシアへの投資件数

 アーンスト・アンド・ヤングが2018年5月に発表したレポートに、外国からロシアへの直接投資件数という興味深いデータが掲載されていた。直接投資額はロシア中銀が統計を発表しているものの、投資件数というデータは貴重と思われるので(原出所はGlobal Location Trendsである由)、以下で紹介することにする。


調査レポート
ロシアの「デジタル経済」の位置付け

高知大学 人文学部
塩原俊彦

 グローバリゼーションのもと、世界全体の政治経済動向を知らなければ、ロシアの政治も経済も論じることはできない。その典型がロシアの「デジタル経済」ではないか。ここ数年のロシア政府による「デジタル経済」推進策は世界全体の「デジタル経済」指向のなかでこそ理解されなければならないのである。こうした前提に立って本稿では、「デジタル経済」をめぐる世界的潮流を解説したうえで、いまのロシアがなにをしようとしているかについて論じたい。その際、注を使って、中国の「デジタル経済」との比較をできるだけ試みたい。より重層的にいまのロシアの状況を理解するためである。


イベント・レポート
第14回日本ウズベキスタン経済合同会議

 2018年10月25日、ホテルニューオータニにおいて、「第14回日本ウズベキスタン経済合同会議」が開催されました(事務局はロシアNIS貿易会)。前回の第13回合同会議は2016年4月にタシケントで開催され、日本での開催は2015年1月以来、約4年ぶりとなります。
 ミルジヨエフ現大統領就任後、初めての開催となった本会議には、先方会長であるホルムラドフ副首相兼投資国家委員会議長をはじめ、同国政府関係者、エネルギー、鉱物資源、金融、通信等の業界団体関係者、計18名が参加し、ウズベキスタンの急速に進む改革の現状や経済情勢に関する報告とともに、日本側に向けた様々な分野のプロジェクト提案、また今後の両国貿易・投資の拡大、協力関係発展に向けた期待が述べられました。日本側からは、日本ウズベキスタン経済委員会会員企業のほか、政府・政府関係機関、商社、メーカー、銀行など総勢166名が参加し、同国との経済協力方針やビジネスの現状等に関わる報告がなされました。また、今回の合同会議では初の試みとして、ウズベキスタン代表団と日本側会議参加者との個別面談のアレンジを行い、両国関係企業、機関の間で合わせて15件の面談が成立しました。
 以下、第14回日本ウズベキスタン経済合同会議の概要についてご報告いたします。 (輪島実樹・森彩実)


地域クローズアップ
今も注目される伝統地域ウラジーミル州

 前月号に引き続き、2018年9月に行われた統一地方選挙で決選投票へともつれ込んで注目を集めたもう1つの地域を紹介したい。決選投票の結果、自由民主党の候補者ウラジーミル・シピャギンが知事に就任したウラジーミル州だ。これまで伝統や歴史に結びついて関心を集めてきたウラジーミル州が最新の政治情勢で注目されたことを受けて、本稿ではウラジーミル州の歴史と現在の両方を紹介する。(中馬瑞貴)


自動車産業時評
日産=ルノー・アライアンスのロシアでの現在地

 2018年11月19日にカルロス・ゴーン日産自動車会長(当時)兼ルノーCEOが日本で逮捕されるという衝撃的な事件が発生しました。この事件を受け、日産とルノーの関係に大きな変化が生じる可能性も出てきましたが、早晩、ロシアでもその影響が出るかもしれません。今後予測される変化を的確に捉えるためには、日産=ルノー・アライアンスのロシア市場における現在地の理解が必要不可欠になると考えられますので、Avto VAZとの関係を中心に両社のロシア市場での現在に至るまでの動きをご紹介します。(坂口泉)


産業・技術トレンド
ロシア中小企業の現状とビジネスチャンス

 ロシアの製造業にも中小企業は存在する。正確に言うと、製造業で日本の大企業のレベルの売上規模に達している企業の方が稀である。例えば、自動車部品を製造するTier1サプライヤーは、日本では売上数百から数千億円に達する企業も少なくないが、ロシアでは数十億円レベルでも大きい方である。これまで、ロシアの中小企業を数十社訪問した。その経験を元にロシアの中小企業についての雑感を述べる。(渡邊光太郎)


ロシアメディア最新事情
ロシア発おもしろ映像メディア「TOK」

 今回は映像メディア「TOK」をご紹介したいと思います。これは筆者の知人がプロジェクトのリーダーをしているとても若いメディアです。通信社ロシア・セヴォードニャの社内プロジェクトといった位置づけで、あらゆるところから集めた話題のビデオを紹介したり、自分たちで製作したりしています。大きな話題を呼ぶニュースや動画のことを、業界では「ウイルス」と呼びます。TOKはSNS上でウイルスをたくさん発信しているので、約1年の間に人気メディアになりました。動画を配信しているサイトはたくさんありますが、TOKは目の付けどころが違うというか、ネタを見つけてくるのが上手いなと感心します。筆者が見て面白かった中で、ロシアの生活がよくわかる動画のあらすじをご紹介します。(徳山あすか)


中央アジア情報バザール
中央アジアの女性政治家たち

 2018年11月28日、中央アジアと同じ旧ソ連のジョージアで同国初となる女性大統領が誕生した。女性大統領の正式な就任は同国だけでなく、バルト三国を除く旧ソ連諸国で初となった。
 昨今は世界各国で女性の指導者が誕生しており、女性の政界進出もあまり珍しいことではなくなった。一方で、未だ男社会というイメージの強い中央アジアの政界でも、時折、女性政治家の活躍がみられる。そこで、今回は中央アジア各国で注目される女性政治家を紹介する。 (中馬瑞貴)


ウクライナ情報交差点
ケルチ海峡・アゾフ海で高まる緊張

 11月25日に、クリミア沖でウクライナ海軍の艦船3隻がロシア側から銃撃を浴び拿捕されるという事件が起きた。これを受け、ウクライナ・ロシア関係はさらに緊迫化し、ウクライナでは南東部の州を対象に11月28日から30日間、戒厳令が施行されることになった。また、米トランプ政権がロシアの対応を非難し、G20に際して調整されていた米ロ首脳会談が中止になるなど、国際的にも波紋を広げている。(服部倫卓)


デジタルITラボ
ロシアのインターネット広告市場

 先日、大手広告代理店である電通が海外本社を通じて、ロシアの大手メディアエージェンシー「アーロンロイド社」の株式100%を取得した。アーロンロイド社は、ロシアにおける医薬品専門の広告代理店で、同社のサイトによれば、電通との提携は2014年から始まっていたようだ。電通のプレスリリースによれば、この買収案件を通して、ロシアにおける医薬品・ヘルスケア関連の広告サービスの強化を図っていくようだ。
 ロシアの広告市場は、2017年に2桁成長を遂げている。この事実はあまり知られていない。今回は、ロシアにおける広告市場を概観し、特に急成長を続けるインターネット広告分野にフォーカスしたいと思う。(牧野寛)


ロシアと日本・出会いの風景
ソ連が崩壊した時期にできた重要な資産

 先日、何回目か忘れたが、日本国査証用申請書の用紙に自分の個人データを書き込む機会があった。この申請書だけではないが、出生地の国名と、それとは別に現住所を記入する欄がある。これを見て改めて思い出させられたが、地理的にはモスクワ市で変わっていないが、生まれた国と住んでいる国とは、違う国名となる。今回も申請書の出生地にはUSSR(ソ連)と書いた。現住所はもちろんロシアだ。
 時間が経てば経つほど忘れがちになるが、我々の世代はソ連という国に生まれて育ってきた。今ここで回想録を書くつもりはないが、日本人とのコミュニケーションの関係で一つ興味深いことに気づいた。それは、その「ぎりぎりソ連」の時期についての一つの誤解だ。 (D.ヴォロンツォフ)


シネマ見比べ隊!!
貴族社会への懐古
『汽車はふたたび故郷へ』VS『皆さま、ごきげんよう』

 このたびご紹介したいのは、旧ソ連グルジア共和国はチフリス(現トビリシ)出身の映画監督オタール・イオセリアーニの作品から最近の2つの作品です。1979年にフランスに亡命し、以後、フランスと旧ソ連時代のグルジアの文化や慣習が混淆した味わい深いけれど軽妙な人間ドラマの制作を重ねて国際的に高い評価を受けてきました。日本でも劇場でイオセリアーニ映画特集が組まれるほどの人気ですね。もうすぐ85歳を迎えるイオセリアーニですが、自ら執筆する脚本の見事さ、細やかな演出、人間の愚かしさや優しさをセンスよくまとめ上げる力量については以前にも増して印象的で深みが増していることに驚嘆いたします。なお、イオセリアーニ監督の描くグルジアの表象は先述のとおり、ソ連時代のそれであるため、今回はジョージアではなくグルジアという表記で一部を除き統一していきます。(佐藤千登勢)


ロシア音楽の世界
ブルネロで、ロシア三昧のチェロ!

 イタリアの俊英、マリオ・ブルネロが指揮とチェロ独奏で、紀尾井ホール室内管弦楽団の第114回定期演奏会(11月23日)に登場。
 前半アレンスキーとアントン・ルービンシテインの作品、後半はチャイコフスキー2曲、という、ロシア音楽ファンには堪えられない感謝感激のロシア三昧プログラムであった。その選曲について、ブルネロ曰く、「サンクトペテルブルグにある教会の中で万華鏡を覗くようなプログラム。お互いに映し合いながら新しい色彩や形を作り出す。」また、「熱くて情熱的なプログラム」とも。そんなことを言われたら、サンクト大好き人間まで集まって来てしまう。知名度からすると結構マニアックなプログラムなのに、紀尾井ホールはほぼ満席。前半のアレンスキー作曲のチャイコフスキーの主題による変奏曲、ルービンシテインのチェロ協奏曲第2番という演目は、まず、日本ではなかなか演奏される事が無い珍しい選曲だ。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


駐在員のロシア語
ロシアのさむーい話

 北半球に存在するロシアにとって、当然1月は最も寒い月だ。マイナス60度以下になる東シベリアのサハ共和国と比べれば、私が住んでいたモスクワは「温暖」な方であるが、それでも時々マイナス20〜30度以下になることがある。そうなることが予想される時には、わざわざ車のバッテリーを外して家の中に入れ、夜の間に凍り付かないようしたものだ。日本では二十四節気の1つ「大寒」が一番寒い時期とされる。具体的には1月20日頃。ロシアでも同様で、この頃から2月の初め頃までが最も「しばれる」。(新井滋)


ユーラシア珍百景
農地買います:拡大するミラトルグの牛肉帝国

 小誌でも何度か取り上げているが、ロシアではここ数年、ミラトルグ社などが外国からアンガス種の肉牛を導入し、ロシア西部の牧場で高級牛肉を生産するビジネスを拡大している。その結果、ロシア市場には美味な国産牛肉が出回るようになり、モスクワなどではちょっとしたステーキハウスのブームが起きているようだ。(服部倫卓)


記者の「取写選択」
クリミア・ワインと戦争

 2018年8月29日、成田発モスクワ行きアエロフロートSU261便。極東上空で客室乗務員が注いでくれた赤ワインの裏ラベルの絵柄が、私の目の端に引っかかった。描かれていた小さな地図に心がざわつく。美味とは言いがたいエコノミークラス用の安酒を飲み干し、お替わりの機会を待つ。
 「今度は白。ところでこれ、どこのワイン?」。酔狂な乗客の問いに、乗務員は誇らしげに答えた。「クリミアよ」。やはり―。 (小熊宏尚)