ロシアNIS調査月報
2019年4月号
特集◆ロシア・NIS圏で
存在感を増す中国
特集◆ロシア・NIS圏で存在感を増す中国
調査レポート
天然ガスをめぐるロシアと中国の関係
データバンク
中国の対ロシアNIS貿易・投資統計
データバンク
ロシアの地域ごとの主要貿易相手国
―対中・対日貿易を中心に―
自動車産業時評
ロシア乗用車市場における中国メーカーの動き
地域クローズアップ
ロ中国境で発展に期待のかかるアムール州
ロシアメディア最新事情
ロ中メディア協力がかつてないハイレベルに
中央アジア情報バザール
中国の対中央アジア投資の実態

調査レポート
2018年のロシア乗用車市場の総括
―続く緩やかな回復基調―
調査レポート
プーチン政権下の金融政策と脱ドル化の現状
INSIDE RUSSIA
「マクロリージョン」というロシアの新地域区分
ロシア極東羅針盤
ポシェト港のビフォーアフター
エネルギー産業の話題
重質高硫黄化が進むUrals
ロジスティクス・ナビ
ロシア港湾物流の注目点
ロシアと日本・
出会いの風景
ロシア人のたどる日本軍港の旅
ウクライナ情報交差点
2018年のウクライナの貿易実績
産業・技術トレンド
ロシア製造業の品質向上の可能性
デジタルITラボ
ロシアにおけるAir Podsの衝撃
ロシア音楽の世界
オール・ロシアン・プログラム、繚乱!
駐在員のロシア語
電話の作法
シネマ見比べ隊!!
貴族屋敷の物語
業界トピックス
2019年2月の動き
通関統計
2019年1月の輸出入通関実績
ユーラシア珍百景
世界最長のトロリーバス路線がクリミアに
記者の「取写選択」
金正日のシベリア鉄道旅行


調査レポート
天然ガスをめぐるロシアと中国の関係

酒井明司

 中国とロシアのガス(本稿では天然ガス)取引はこれから本格化の時期を迎える。ガス・ビジネスの上では、中ロ間のこの取引がアジア全体と日本のガス市場にどのような影響を与えるのかに関心が集まり、より広い国際政治の面では、この取引の拡大如何が中ロ関係のこれからを占う際の一つの指標とも見られているようだ。
 本稿では、初めに中ロ関係全般への様々な見方を概観し、その中での両国間のガス取引の現状と今後の見通しについて触れることとしたい。


データバンク
中国の対ロシアNIS貿易・投資統計

 今号では、ロシア・NIS諸国と中国との経済関係を特集しているが、その際にやはり貿易および投資の統計は避けて通れないであろう。
 ただ、ロシア・NIS諸国の側の統計は、様式が不揃いであったり、発表が遅かったり、一部の項目を国家機密扱いしていたりと(特にロシアの天然ガスや軍需関連品目の輸出)、問題が多々ある。
 そこで、本コーナーでは、中国側から見た対ロシア・NIS諸国の貿易・投資統計を整理してお伝えすることにする。なお、一般的にモンゴルはNISの範疇には入らないが、当会の事業対象国であり、なおかつ中国との関係も深いことから、本レポートの対象に加える。


データバンク
ロシアの地域ごとの主要貿易相手国
―対中・対日貿易を中心に―

 このコーナーでは、ロシア連邦関税局の各支部が発表している通関統計にもとづき、2018年のロシアの連邦管区別、地域別の主要輸出入相手国を概観する。その際に、ロシアの最大の貿易相手国であり今号特集の主題でもある中国と、我が国・日本との取引データを特に重視する。
 以下のデータ自体は一般に公開されているものだが、それをこのように網羅的にまとめたものは類例がないと思われ、それなりに貴重な資料になっていると自負する。


自動車産業時評
ロシア乗用車市場における中国メーカーの動き

 一時ロシア市場では中国車が価格の安さを武器に急激にプレゼンスを強化し、ロシアの純国産ブランド「LADA」の強力なライバルになると目されていましたが、2014年以降不振に陥り、複数の中国ブランドがロシア市場から撤退しました。しかし、最近になりロシア市場に対する中国メーカーの関心が再び強まっており、JACがロシア市場での活動を再開した他、GACも同市場への新規参入の意向を表明しています。本稿では、ロシアでの中国車の販売状況、現地生産の状況、ならびに、ロシア市場でのプレゼンス強化を目指すいくつかの中国メーカーの動向をご紹介します。(坂口泉)


地域クローズアップ
ロ中国境で発展に期待のかかるアムール州

 中国と国境を接するロシアの連邦構成主体は、沿海地方、ハバロフスク地方、ユダヤ自治州、ザバイカル地方、アルタイ共和国と、本稿で紹介するアムール州だ。ロシアと中国は約4,300kmの国境を接するが、その大部分は河川および湖が国境となっており、アムール州も例外ではない。州の西から南を流れるアムール川が中国との国境になっている。
 ロシアと中国の国境や国境地域の両国関係については、現地に足を運んだ研究者によってこれまで本誌でいくつも原稿が掲載されており、本稿で取り上げるアムール州も例外ではない。
 そこで、本稿ではロシアと中国の国境地域の1つであるアムール州についてその歴史、経済、政治的特徴について中国との関係にも触れつつ、包括的に紹介したいと思う。(中馬瑞貴)


ロシアメディア最新事情
ロ中メディア協力がかつてないハイレベルに

 近年、ロシアと中国のメディア間交流は目をみはるものがあり、両者の活動形態には共通点も多く見られます。足並みをあわせて西側諸国と対抗することで、世界の中での存在感を高めようとしているのでしょう。ロシア語・中国語のネイティブスピーカーの数を考慮すれば、世界の2割以上をカバーすることになるわけで、決して無視できない勢力です。(徳山あすか)


中央アジア情報バザール
中国の対中央アジア投資の実態

 中国が提唱する「一帯一路構想」の実現を背景に、中央アジアと中国の関係が年々深まっている。貿易や投資など、経済面での中国の存在感の拡大によって、各国が恩恵を受ける一方、専門家は過度な中国依存に警鐘を鳴らす。一部の国では反中感情が高まっており、中国債務に対する懸念が伝えられている国もある。そこで本稿では、中国の投資に関する各国の報道や専門家の意見などに注目し、中央アジアにおける中国投資の実態を垣間見ることにしたい。(中馬瑞貴)


調査レポート
2018年のロシア乗用車市場の総括
―続く緩やかな回復基調―

ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉

 ロシアの新車販売台数は2012年に294万台(小型商用車を含む数字)という過去最高の水準に達したが、2013年から急激な下降線をたどるようになり、底であった2016年にはピークの2012年の約半分の143万台にまで数字が落ち込んだ。しかし、2017年春ごろから販売が緩やかに回復し始め、2018年も前年比12.8%増の180万台という堅調な数字を示した。2019年も緩やかな回復基調が続く可能性が高いとみられているが、石油生産量の伸び悩み傾向を受け産油国「ロシア」の経済はかつての勢いを失っており、急激な数字の改善は期待できそうにない。市場が停滞ムードから脱却するのは、まだ先のことになりそうである。
 量的変化の影に隠れ見逃されがちであるが、ロシアの乗用車市場では質的変化も顕著となっている。たとえば、車体タイプ別の販売の推移を見てみると、コンパクトカーとSUVに人気が集中する傾向が年々強くなっており、2018年の新車市場におけるシェアは2タイプ合計で80%を超えた。その一方で、10年前の時点では40%を超えるシェアを誇っていたCセグメントカーのプレゼンスが急激に低下しており、2018年の数字はわずか7%弱にすぎなかった。市場規模の縮小ももちろんであるが、Cセグメントカーを主力の一角に据えロシア市場に挑んできた日本の完成車メーカーにとっては、この「質的変化」もまた大きな痛手となっている。
 本稿では「質的変化」にも注目しながら、2018年のロシア乗用車市場を回顧する。


調査レポート
プーチン政権下の金融政策と脱ドル化の現状

公立小松大学 国際文化交流学部 准教授
一ノ渡忠之

 2018年のロシア経済は、世界的な原油需要の回復による輸出の拡大と民間消費に支えられ、前年を上回る2.3%のプラス成長を実現した。その一方で、年央以降の緩やかな物価上昇と米国による2度の制裁強化によりロシア中央銀行は金融政策の見直しを迫られている。2018年中に予定していた「中立的」な金融政策への移行は変更を余儀なくされ、逆に「緊縮的」な政策を続けている。2019年に入り、再び制裁強化の可能性がささやかれるなか、今後の金融政策の行方は不透明である。
 本稿では、米国による制裁強化に直面した2018年のロシアの金融政策(金利操作と金融調整)と今後の方向性について検討していく。同時に、制裁強化とともに顕著となっていくロシアにおけるドル離れ、すなわち「脱ドル化」の現状について概観する。


INSIDE RUSSIA
「マクロリージョン」というロシアの新地域区分

 2月のロシアにおける注目すべき動きとして、「マクロリージョン」という新たな地域区分の枠組みが導入されたことが挙げられる。既存の連邦管区の枠組みが廃止されるわけではないが、今後経済政策などの面でマクロリージョンの方が重要になってくる可能性もあるので、今回はこの新機軸を取り上げることにする。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
ポシェト港のビフォーアフター

 ポシェト港は、中国と北朝鮮との国境近くにある港である。一般的には知名度はさほど高くないが、近年大きな変身を遂げた港の1つだ。ソ連時代に商業港として誕生し、機械や食料品を取り扱い、日本との間に定期コンテナ船が就航していた時もあった。その後、幻に終わった中国との租借話を経て、現在は石炭を扱う港となっている。大規模な改修で別の港のように変身したビフォーアフターを紹介する。(齋藤大輔)


エネルギー産業の話題
重質高硫黄化が進むUrals

 ロシアの主要な輸出用の油種であるUralsの重質高硫黄化が進んでいます。Uralsはその大半が欧州に供給されていますが、ベルギーのように重質高硫黄化を嫌いUralsの輸入量を意識的に減少させる国も出てきています。また、マーカー原油である「北海ブレント」との間の価格差(ディスカウント幅)も広がる傾向にあります。このままUralsの重質高硫黄化が進めば、ロシアが石油の輸出戦略を見直す必要に迫られる可能性も存在します。以上の状況を踏まえ、本稿では、Uralsの重質高硫黄化問題の現状と今後の展望などについてご説明することにします。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
ロシア港湾物流の注目点

 先月の速報値に基づく概要に続き、2018年のロシア港湾統計本報告書の主要部分を図表にまとめてお届けします。さらに、興味深い最近の動向について解説します。(辻久子)


ロシアと日本・出会いの風景
ロシア人のたどる日本軍港の旅

 この間、広島県にある海軍自衛隊の施設、第1術科学校(旧海軍兵学校跡地)の見学を申し込み、見に行ってきた。とても景観の美しい場所だった。港町の呉からリアス式海岸沿いの道路を30キロほど進む。途中、第二音戸大橋を渡って、高いところから呉港の賑やかな様子、さらには遠方には広島市までも一望することができた。晴れていて最高だった。(D.ヴォロンツォフ)


ウクライナ情報交差点
2018年のウクライナの貿易実績

 このほど、ウクライナ統計局発表のデータにもとづき、最新の2018年までのウクライナの商品貿易統計を表にまとめたので、今回はこの資料をお目にかける。


産業・技術トレンド
ロシア製造業の品質向上の可能性

 ロシア製品についての品質のイメージは一般的に良くなかった。現状、ロシアの製品には品質向上を成し遂げたもの、品質向上を成し遂げつつあるもの、品質向上ができていないものが混在している状況である。一部では確かに品質向上の様子がうかがわれるものもあるが、海外製品と対抗することは厳しいものも多い。ロシア製造業の品質が海外製品に到達していない原因、向上策、日本企業ができる貢献について考査してみる。(渡邊光太郎)


デジタルITラボ
ロシアにおけるAir Podsの衝撃

 暖冬のこの冬は、2月時点で筆者の住むサンクトペテルブルグでは既に雪解けが終わっている。街中を歩く機会も心なしか増えるのだが、近頃、地下鉄や通りなどでギョッとする場面に遭遇する。20代から30代と思われる若者が、独り言を話しながら歩いてくるのだ。それも1人や2人ではない。
 実は、ここ最近ロシアの都市部を中心にワイヤレスイヤホンをしている若者が急増しているのだ。日本でも利用者が増えているワイヤレスイヤホンだが、この盛り上がりには、ロシア特有の事情もあるような気がしている。今回は、ロシアにおけるワイヤレスイヤホンの利用について考えてみたい。(牧野寛)


ロシア音楽の世界
オール・ロシアン・プログラム、繚乱!

 日本ではロシア音楽がどうしてここまで人気があるのか?オーストリアや英国に住んでいた時には、とても有り得ない頻度であり、これでもかという多くの公演が全曲ロシア物の曲目で開催されているのが東京の楽壇の不思議な特徴である。ロシア音楽、ショスタコーヴィチだけを演奏するオーケストラ・ダスビダーニャとかオーケストラ・ダヴァイというアマチュアオーケストラも毎年素晴らしい演奏を聴かせてくれている。今年1、2月の公演から、抜粋したオール・ロシアン・プログラムの3公演につき以下報告する。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


駐在員のロシア語
電話の作法

 先月号に続いて電話にまつわる話。アポ取りから始まり、ビジネスコミュニケーションのほとんどをメールで済ますことができるようになった。しかし、業務・事務連絡的な内容ならメールは非常に便利なツールだが、何かトラブルが起きたときなど、メールは役に立たないどころか、不用意な書きぶりで火に油を注ぐ事態になりかねない。(新井滋)


シネマ見比べ隊!!
貴族屋敷の物語

 このたび、ロシアでは15世紀に端を発するとされる「貴族屋敷」(усадьба)を舞台に物語が展開する映画を2つ、見比べてみたいのです。ひとつは、農奴の労働力の上に豪勢な秩序だった暮らしを成り立たせる女主人の冷酷無残と孤独を描いた『ムムー』、そして、いまひとつは、かのレーニンが病に倒れて晩年を過ごした「貴族屋敷」での日常を綴った『牡牛座 レーニンの肖像』です。ちなみに、ウラジーミル・イリイチ・レーニンは1870年4月22日(旧暦)生まれの「牡牛座」なのですね。本誌の4月号にふさわしい人物と言えましょう。(佐藤千登勢)


ユーラシア珍百景
世界最長のトロリーバス路線がクリミアに

 あの、悪夢としか言いようのないクリミア併合事件から、5年の時が経とうとしている。
 ところで、筆者がクリミアを訪問したことがあるのは、半島がまだウクライナ体制下にあった2012年の一度きりであったが、その訪問時に、珍妙な話を聞いた。クリミアには、世界最長のトロリーバス路線が存在するというのである。実際、現地でそれを目撃し、下に見るような写真に収めた。(服部倫卓)


記者の「取写選択」
金正日のシベリア鉄道旅行

 北朝鮮の指導者、金正恩氏が2月末、トランプ米大統領との会談のため鉄道でベトナム入りし、鉄路を好む北朝鮮創業家の3代目として伝統を守る姿を示した。正恩氏は近い将来、プーチン大統領との会談のため、特別列車でシベリア鉄道を走るのだろう。亡き父や祖父がそうしたように。
 2011年8月23日。金正日総書記を乗せた列車がロシア鉄道の重連ディーゼル機関車にひかれ、東シベリアのウランウデ駅に滑り込んだ。メドヴェージェフ大統領と会談するためだ。(小熊宏尚)