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ロシアNIS調査月報2020年7月号特集◆コロナ危機に |
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特集◆コロナ危機に負けない |
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調査レポート |
ロシアはコロナ危機にどう立ち向かったか |
調査レポート |
新型コロナウイルスを巡る日ロ両国の対応 |
調査レポート |
倒産に関するロシアの法制度 ―倒産企業の代表者や親会社の責任― |
INSIDE RUSSIA |
ロシア財政・金融政策に変更はあるか |
エネルギー産業の話題 |
ロシアが直面した油価下落と新たな減産協定 |
自動車産業時評 |
コロナの直撃を受けたロシア自動車産業 |
中央アジア情報バザール |
コロナ危機下で権力強化が進む中央アジア諸国 |
ウクライナ情報交差点 |
ウクライナ労働移民の流れは変わらず |
ミニ・レポート |
コロナ禍で試されるウズベキスタンのデジタル部門 |
デジタルITラボ |
スタートアップは対コロナ支援策を活用できるか |
ロシアメディア最新事情 |
ロシアの感染症病院に入院してわかったこと |
おいしい生活 |
奮闘を続ける「ミンスクの台所」 |
調査レポート |
国際価格の低迷に苦しむロシアの石炭産業 |
ビジネス最前線 |
ロシア製「AR砂場」を日本市場で展開する |
ロジスティクス・ナビ |
10年目を迎えた「中欧班列」 |
地域クローズアップ |
輸入代替の実現に期待のかかるニジェゴロド州 |
産業・技術トレンド |
ロシア鉄道車両の発展とビジネスチャンス |
ロシアと日本・ 出会いの風景 |
日本の空き家とロシア人の私の夢 |
ロシア音楽の世界 |
チャイコフスキー序曲「1812年」 |
駐在員のロシア語 |
日本紹介(財政) |
業界トピックス |
2020年5月の動き |
通関統計 |
2020年1〜4月の輸出入通関実績 |
記者の「取写選択」 |
故郷なきプリマ、ザハロワ |
調査レポート
ロシアはコロナ危機にどう立ち向かったか
ロシアNIS貿易会モスクワ事務所 所長
齋藤大輔
世界中を未曽有の危機に陥れている新型コロナウイルス。ロシアでの感染者は増加の一途を辿り、その数は40万人を超え、死者は5,000人となった。死者数は新型コロナウイルスの最初の震源地である中国を上回った。1日当たりの新規感染者数も8,000人超で、感染の勢いが依然として衰えていない。
こうした状況でも、プーチン政権は外出制限と休業措置を解除し、経済活動の再開を進める。ロシアでも、感染拡大の防止と経済活動の再開の両立をどう図るかが課題となっている。
新型コロナウイルスはロシアにどのように広がったのか。プーチン政権はこの危機にどう対応したのか。まずは感染の広がりを時系列で振り返る。状況は刻一刻と変化している。本稿は6月1日までの記録である。
調査レポート
新型コロナウイルスを巡る日ロ両国の対応
ロシアNIS経済研究所 特別研究員
Yu.ストノーギナ
オランダの学者ヘールト・ホフステードは1980年代に広範な調査を行い、国民性を5つの文化的次元に分類した。そのひとつが「権力格差」(Power Distance)である。これは社会におけるヒエラルキーと、そのヒエラルキーが人間同士の関係や社会制度の機能に与える影響を指標化したものである。わかりやすく言えば、社会集団内の諸関係(例えば、政府と国民、上司と部下、年長者と若者)がいかなるものであるか、権力をもたない者がどれくらい従順で、権力配分の不公平をどの程度まで許容するかといったことを示している。「権力格差」の指標には高低があり、世界各国を1から120の点数で評価する。日本の権力格差指数(PDI)は54で平均に近く、ロシアは93とかなり高い。
日ロ両国の国民の政治的な行動と反応は大きく異なり、コロナ危機において講じられた対策や反応にもそれが現れている。日本とロシアはパンデミックにおいて文化的に対極的な反応を示していると言えるだろう。以下では、ホフステードの「権力格差」という分析の枠組みを用いて、新型コロナウイルスを巡る日ロ両国の政府の対応と国民の反応を比較することにしたい。なお、本稿は『ロシアNIS経済速報』2020年5月15日号(No.1825)掲載レポートを再録するものである。
調査レポート
倒産に関するロシアの法制度
―倒産企業の代表者や親会社の責任―
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
松嶋希会
ロシアは、5月中旬、新型コロナウイルス感染拡大防止のために制限していた経済活動を再開することを宣言した。経済活動を再開するといっても、倒産の増加は必至だろう。
取引先の倒産リスクは、取引を続ける限り常につきまとう。したがって、今後の倒産増加に対しても、常日頃行っている債権管理が有効である。しかし、取引先につき倒産事件が開始すると、取引先は法的な管理下におかれるので、債権者として独自に債権回収率を高める手段に出ることは難しい。この点、近時、倒産企業の代表者や大株主に会社債務の支払責任を追及して債権を回収する傾向が強まっている。新型コロナウイルスを発端とする未曾有の経済悪化では、倒産事件の傾向がどのように変わるのか不明だが、債権回収率を向上させる一手段として、代表者などの責任を紹介したい。
INSIDE RUSSIA
ロシア財政・金融政策に変更はあるか
ロシア当局はこれまで、健全で慎重な財政・金融政策を貫いてきた。A.ヴェージェフ氏(ガイダル経済研究所)などは、「今のロシア経済は、エキストラ・スタビリティの状態。なぜ政府がこんな政策を採っているのか、理解に苦しむ」と批判していたほどである。しかし、コロナ危機を受け、ロシアの専門家の間で、積極財政や金融緩和を求める声が、高まっている。(服部倫卓)
エネルギー産業の話題
ロシアが直面した油価下落と新たな減産協定
コロナ禍拡大の兆しが見え始めていた2020年3月初め、OPEC+の協調減産協定の延長に関する交渉の決裂が明らかになりました。しかし、その直後から油価が下落し始め、慌てた産油国(OPEC+)は新しい協定締結に向けた交渉を開始し、4月初旬に合意に達しました。そして、5月から減産措置が再開されています。
新しい協定はロシアの石油分野に大きなダメージをもたらす可能性があるといわれていますが、今回は、そのあたりも念頭に置き、新しい協定締結に至る経緯やロシアが引き受けた減産義務の内容などについてご紹介します。(坂口泉)
自動車産業時評
コロナの直撃を受けたロシア自動車産業
2020年の年初から3月下旬まではロシアの自動車市場では比較的平穏な状況が続いており、第1四半期の新車販売台数はほぼ前年同期並みでした。しかし、コロナウイルスの流行を受け「非労働日」が導入された3月末以降、状況は一変しました。完成車メーカーは操業を休止することを余儀なくされ、実店舗での新車販売もできなくなりました。当然ながら、4月の新車販売台数は記録的な落ち込みを示すことになりました。本稿では、コロナ禍に苦しむロシアの自動車産業の状況をご紹介します。(坂口泉)
中央アジア情報バザール
コロナ危機下で権力強化が進む中央アジア諸国
コロナウイルスの影響は、当然ながら中央アジアにも及んでいる。域内で最も多いカザフスタンの感染者は10,858人、ウズベキスタンで3,623人、キルギスで1,748人、4月30日に初めて感染が報告されて以来、急速に事態が深刻化しているタジキスタンも既に感染者数3,930人に達している。トルクメニスタンはいまだ感染者ゼロを主張している。カザフ、キルギスでは5月半ばに非常事態宣言が解除され、ウズベキスタンでも様々な制限も緩和。各国が経済回復に向けて動き始めている。
コロナウイルスによる混乱に紛れて、中央アジア各国政府は政権基盤の強化に動いている。安倍政権の支持率が落ち込んでいる日本とは大きな違いだ。そこで本稿では中央アジア各国のコロナの影響と政権強化に向けた最新動向を紹介したい。(中馬瑞貴)
ウクライナ情報交差点
ウクライナ労働移民の流れは変わらず
ウクライナでは、国内に良い働き口がなく、国民が国外での出稼ぎ収入に依存する度合いが年々強まっている。そうした中で襲ったのが、今般のコロナウイルス危機。このウイルスが、人の移動や接触を伴わざるをえない出稼ぎ労働の大敵であることは、言うまでもない。新型コロナウイルスのパンデミックは、ウクライナ労働移民の境遇に、どのような影響を与えただろうか?(服部倫卓)
ミニ・レポート
コロナ禍で試されるウズベキスタンのデジタル部門
新型コロナウイルスの流行が全世界で猖獗を極める中、各国は感染拡大の予防や経済活動再開の活路としてデジタル・トランスフォーメーション(DX)に光明を見出し、行政・経済分野ともにDX推進を急いでいる。無論、こうした流れは、ウズベキスタンとて例外ではない。奇しくも同国は2020年を「科学、啓発、デジタル経済発展の年」と定め、DX推進に向け政策や法整備などの取り組みを加速させるところであった。そして近隣諸国がコロナ危機対策に政策を総動員する中、ウズベキスタンではコロナ禍においてもデジタル部門で注目すべき動きが見られた。そこで本稿では、コロナ禍でのウズベキスタンのデジタル分野の動向について、政府とスタートアップそれぞれの動きに着目し、レポートしたい。(大内悠)
デジタルITラボ
スタートアップは対コロナ支援策を活用できるか
日本では、感染症拡大によって大きな影響を受けている事業者への救済策として、持続化給付金の受付が5月1日より始まっている。ロシアでも、大統領演説にて、感染症拡大の影響を受けた中小・零細企業向けに各種の支援策が発表されている。実際にこれらの支援策をロシアのスタートアップ企業も活用しているのだろうか。(牧野寛)
ロシアメディア最新事情
ロシアの感染症病院に入院してわかったこと
ロシアに引っ越してから色々なことがありましたが、その中でも、この4月は忘れられない月になりました。モスクワで外出規制がかけられた直後、病気になり、高熱、倦怠感、咳、鼻水などの症状が出て、CT検査をし、胸に水がたまっていたので2週間ほど入院しました。最初は市内の一般総合病院、その後転院して、公立の感染症病院に入院しました。もちろん新型コロナを疑われましたし、自分でもそう思っていましたが、結局は違ったみたいです。ただ、あまりにもタイムリーに病気になってしまったので、予想外に注目され、「ロシア1」や「第一チャンネル」で私の入院のことがニュースになりました。すっかり回復した今、当時のことをふりかえってみたいと思います。(徳山あすか)
おいしい生活
奮闘を続ける「ミンスクの台所」
今般のコロナ自粛で、飲食店の皆さんが直面している苦境を思うと、いたたまれなくなる。我々にとっては特に、日本にいくつかあるロシア・NIS関係の飲食店の経営が気になるところだ。そこで、個人的に馴染みがある「ミンスクの台所」で店を取り仕切るヴィクトリアさんに連絡をとり、様子をうかがってみた。(服部倫卓)
調査レポート
国際価格の低迷に苦しむロシアの石炭産業
ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉
2016年の後半ごろから2018年末ごろまで石炭の国際価格は高値で推移していたが、2019年に入りまず欧州市場で一般炭の価格が下落し始めた。その後、その傾向がアジア市場にも伝搬し、さらに夏〜秋ごろからは原料炭の国際価格も下降し始めた。
2020年に入ってからも厳しい状況が続いており、特に4月以降は価格の下落傾向が加速し始めている。石炭はその用途と価格形成メカニズムの関係で石油やガスと比較するとコロナ禍から受ける影響は少ないと見る向きもあるが、発電用燃料として競合関係にあるガスの価格が下落していることなどを勘案すると、少なくとも2020年の末ぐらいまでは予断を許さない状況が続く可能性が高い。
ロシアの石炭分野は非常に輸出志向が強いので、国際価格の低迷は各採炭企業に否定的影響を及ぼしている。まだ生産量の大幅減にまで事態は至っていないが、各社とも財務的にはすでに厳しくなっているようで設備投資額を縮小する企業が目立ち始めている。
本稿では、石炭の国際価格の下落という逆風が及ぼす影響に着目しながら2019年のロシアの石炭分野を回顧する。
ビジネス最前線
ロシア製「AR砂場」を日本市場で展開する
潟fジタル・ガーデン プロダクトマネージャー
藤原大輔さん
今回は、ロシア製AR(拡張現実)機器である「iSandBOX」の輸入及び日本での販売を始められた株式会社デジタル・ガーデンの藤原大輔iSandBOX事業部プロダクトマネージャーについてお話を伺いましたのでご紹介します。
同社は、ロシア・トムスク市のUniversal Terminal Systems社が2012年に開発した「AR砂場」のiSandBOXを2018年から取り扱い始め、日本市場向けにカスタマイズした後、販売を行っています。なお、同製品は2019年に「キッズデザイン賞」を受賞しました。
ロジスティクス・ナビ
10年目を迎えた「中欧班列」
2011年の運行開始以来、中欧班列は中国内陸部と欧州を結ぶコンテナ専用鉄道輸送路として成長を続けてきました。コロナ禍においても存在感を発揮する中欧班列の現状を紹介します。(辻久子)
地域クローズアップ
輸入代替の実現に期待のかかるニジェゴロド州
今般のコロナ危機に際して、感染者数が米国・ブラジルに次ぐ第3位に達しているロシア。中でも、モスクワ市の感染者数の多さは群を抜いているが、同市、サンクトペテルブルグ市、モスクワ州に続いて、感染者数第4位(10,400人、2020年5月末時点)を占めるのがニジェゴロド州だ。本稿では製造業・加工産業の伝統を活かし、新しい知事の就任で輸入代替政策の実現に大きな役割を果たしているニジェゴロド州について紹介する。(中馬瑞貴)
産業・技術トレンド
ロシア鉄道車両の発展とビジネスチャンス
日本には鉄道網が張り巡らされ、大都市間は新幹線が世界にない高密度で走り、大都市の中では、極めて高い頻度で通勤電車が走る。日本において鉄道が発達していることは明らかであるが、実は、ロシアの鉄道網は日本よりも長く、日本に比べて鉄道車両工業の規模が大きい。石油ガス産業に比べれば、規模は圧倒的に小さいものの、日本の同種の産業よりも規模が大きいくらいであるので、ロシアの産業の中では商売相手として期待できる。本稿では、ロシアの鉄道車両の製造のどのような部分がビジネスチャンスになり得るのか、また、どのような障害があるのかについて説明する。(渡邊光太郎)
ロシアと日本・出会いの風景
日本の空き家とロシア人の私の夢
2020年4月、非常事態宣言後のこと。テレビで東京の浅草の街を見て驚いた。地方の多くの「駅前商店街」が文字通りシャッター街になっているのは、哀しい感じはするが驚きはない。しかし、同じことが、いつもにぎやかな浅草で起こるとは思ってもみなかった。でも、今は大変だけれどいずれ非常事態宣言は解除されるし、少しずつ観光客も戻ってくるだろうから、浅草ほどの街の復活については特に心配はしていない。むしろ心配なのは日本の地方、私の愛する静かな日本の田舎のことだ。(D.ヴォロンツォフ)
ロシア音楽の世界
チャイコフスキー序曲「1812年」
ロシアでは1812、この年号には特別な意義があることは有名であろう。ロシアがフランスを撃退した戦勝の記念年、言い方を変えれば、遠路はるばるモスクワまで遠征して来たナポレオンのフランス軍が、軍隊の力というより「冬将軍」(「元寇」時の台風のような「神風」)の威力にやっつけられて敗走した年、自然の力は恐ろしい、と世界史に刻まれた多くの出来事のうちの1つの年とも言えるだろう。(ヒロ・ミヒャエル小倉)
駐在員のロシア語
日本紹介(財政)
ロシア語で日本のことを説明する機会への備えとして、今回はテーマに「日本の財政状況 を選んだ。これについて語る際に役に立ちそうな語彙と表現をちりばめてみた。(新井滋)
記者の「取写選択」
故郷なきプリマ、ザハロワ
「生まれ故郷のウクライナにどんな思いを持っていますか。あなたはロシアのクリミア併合を支持していますね」。2018年10月、アルジャジーラ・テレビの質問に、世界のトップバレリーナは感情を殺して答えた。「何も感じません。家族は去り、あそこには何も残っていないから」(小熊宏尚)