ロシアNIS調査月報
2021年8月号
特集◆激変する環境下の
ロシアの貿易
 
特集◆激変する環境下のロシアの貿易
調査レポート
2020年のロシアの貿易統計
調査レポート
農産物貿易への国家介入が強まるロシア
データリテラシー
東アジアでのロシア産LNG輸入量とその変化
ロシア極東羅針盤
極東中古車ビジネス最新事情
ミニ・レポート
ロシア・ベラルーシ石油協業の落日
ロシアの二国間関係
貿易から投資へとシフトするロシアとイタリア
ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道輸送に神風か
ウクライナ情報交差点
ウクライナ・ロシアの貿易戦争は続く
データバンク
2020年のロシアの非原料・非エネルギー輸出
データバンク
コロナで異変が生じたロシアのサービス貿易

報告
ロシアNIS貿易会令和3年度定時総会報告
イベント・レポート
サンクトペテルブルグ国際経済フォーラム2021
イベント・レポート
SPIEF「日露ビジネス対話」結果概要
インタビュー
ロシアメディアによる村山会長インタビュー
ロシアメディア最新事情
行くだけで仕事をした気になった経済フォーラム
INSIDE RUSSIA
戦略的安定に道筋をつけた米ロ首脳会談
産業・技術トレンド
ロシアビジネスの勝ち・負けパターン
ロシア政財界人物録
脱炭素政策の伝道師チュバイス
エネルギー産業の話題
石油大国のロシアでなぜガソリン危機?
HOW TO ビジネス実務
ロシア税制の未来を読み解く(4)
シリーズ 工業団地探訪
ウリヤノフスク経済特区(ウリヤノフスク州)
デジタルITラボ
スタートアップバロメーターと現代の起業家像
中央アジア情報バザール
ミルジヨエフ政権下のウズベキスタン経済改革
業界トピックス
2021年6月の動き
通関統計
2021年1〜5月の輸出入通関実績
おいしい生活
ロシア軍も愛食? アウトドア系プロフ缶
記者の「取写選択」
白夜の少女・明るい夜遊び


調査レポート
2020年のロシアの貿易統計

ロシアNIS経済研究所 所長
服部倫卓

 ロシア連邦税関局が発行する『ロシア連邦外国貿易通関統計』の2020年年報が刊行され、2020年の同国の貿易動向に関する詳しいデータが明らかになった。そこで本稿では恒例により、『ロシア通関統計』およびその他の資料を利用し、同国の最新の貿易統計を図表にまとめて紹介し、あわせて解説をお届けする。


調査レポート
農産物貿易への国家介入が強まるロシア

ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉

 その背景は一様ではないが、2020年後半ごろからロシアではいくつかの食品の価格が高騰し始めている。最も値上がり幅が大きいのは砂糖で、ロシア連邦国家統計局によれば、2021年1〜4月期の平均小売価格は前年同期の値を53%も上回ったとされている。その他、砂糖ほどではないものの、ひまわり油、ソバ、大豆、パンなどの価格も上昇傾向にある。
 この状況を受け、国は農産物貿易への介入を強めている。たとえば、2021年に入りロシア政府は穀物の輸出枠を設定すると同時に輸出関税を導入するという措置を講じている。また、砂糖に関しては、国内価格の上限値を設定すると同時に、一定量の砂糖を無関税で輸入することを容認するという措置を講じている。さらに、そば、大豆、ひまわり種子などについても輸出禁止、輸出関税導入、輸出関税率引き上げといった措置が講じられている。


データリテラシー
東アジアでのロシア産LNG輸入量とその変化

 日本が7,446万t、中国が6,713万t。これは、2020年に両国が世界から輸入したLNGの量となります。中国のLNG輸入量は2018年に初めて韓国を超え、日本に次ぐ世界第2位のLNG輸入国となりました。そして、昨年は順位に入れ替わりは見られなかったものの、本年中には中国が日本を抜き、LNGの最大需要家となることが各所で報じられています(パイプラインガスを含めたガス輸入全体では既に中国が世界最大)。
 こうした市場の変化はもちろん、ガス輸出国であるロシアの選好に影響を及ぼすことは想像に難くはありません。ロシア産LNGに限れば、まだしばらくは日本が最大需要家としての地位を維持することが見込まれますが、中国の輸入量の伸びについては目をみはるものがあります。本稿では、ロシア産LNGの税関データを基に、東アジアでの輸入側の変化を数字で示したいと思います。(長谷直哉)


ロシア極東羅針盤
極東中古車ビジネス最新事情

 極東中古車ビジネスはどうなっているのか。2021年6月、ウラジオストク市中心部から車で20分のところにある中古車市場を訪ねた。
 市場は、「輝き」を失っていなかった。極東最大の青空市場「グリーンコーナー(緑の角)」。入口からみると、山を切り開いてできたからだろうか、いびつな形をしている。市場の中に入ると、市場を貫く道路を中心に横に広がっていたことがわかる。そこに数千台の中古車が並ぶ光景はいつ見ても壮観である。(齋藤大輔)


ミニ・レポート
ロシア・ベラルーシ石油協業の落日

 ベラルーシ石油精製業の栄枯盛衰は、ロシアの石油政策・税制の関数と言っていい。ベラルーシの製油所が活況を呈するようになったのは、ロシアが1999年に石油の輸出関税を復活させて以降のことである。これはロシアの石油会社にとっては負担増を意味し、彼らは輸出関税の税率の低いベラルーシの製油所をその負担を軽減するためのオフショアとして活用し始めたのだ。 その結果、ベラルーシの製油所では、ベラルーシ独自の生産に加え、ロシアの石油会社がベラルーシの製油所に加工を委託するというスキームも盛んになった。
 ところが、ロシアは2015年から石油分野の税制改革に乗り出す。石油の輸出関税を引き下げ、その分、鉱物資源採掘税を引き上げていくものである。ロシアがこの政策転換を図った主たる動機の一つが、ベラルーシへの野放図な資金移転を阻止する点にあった。(服部倫卓)


ロシアの二国間関係
貿易から投資へとシフトするロシアとイタリア

 先日、ロシアのビジネス誌「エクスペルト」が、在ロシア・イタリアビジネスという特集を取り上げた(エクスペルト誌、No.23、2021年5月31日〜6月6日号)。ソ連時代から経済交流の盛んなロシアとイタリアは2013年に過去最高の貿易高を記録した。しかし、2014年の経済制裁によって急激に両国の貿易高は低迷。2017〜2018年に回復の兆しが見られたものの、2019年に再び下落し、コロナの影響で2020年も停滞した。(中馬瑞貴)


ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道輸送に神風か

 コロナ下で顕著となった世界的な海上輸送の混乱に収束の見込みが立ちません。スエズ運河を経由してアジアと欧州を結ぶ欧州航路が息切れする状態に陥り、改めて大陸横断鉄道が注目されています。(辻久子)


ウクライナ情報交差点
ウクライナ・ロシアの貿易戦争は続く

 ちょうど1年前のこのコーナーで、「激化するウクライナとロシアの貿易戦争」というレポートをお届けした。その時も指摘したように、両国は一連の貿易制限措置を、経済的な利益を追い求めるためというよりは、もはや地政学的な対立の武器として駆使している感が強い。そして、両国の貿易戦争は依然としてエスカレートを続けている。(服部倫卓)


データバンク
2020年のロシアの非原料・非エネルギー輸出

 2018年にスタートしたロシアの第4期プーチン政権は、「非原料・非エネルギー商品」の輸出を拡大するという目標を掲げている。その概要と、目標修正の経緯については、月報の前号に掲載した「ロシアの非原料・非エネルギー輸出目標の見直し」を参照していただきたい。ここでは、ロシア輸出センターが発表した2020年の非原料・非エネルギー輸出実績を図表にまとめて紹介する。


データバンク
コロナで異変が生じたロシアのサービス貿易

 ここでは、ロシア中央銀行発表の国際収支統計にもとづき、ロシアのサービス貿易の動向を図表にまとめてお届けする。図表1は旅行サービスの輸出入、図表2はサービス輸出全体、図表3はサービス輸入全体を取り上げている。
 サービス貿易は、ヒトの移動にも大きくかかわるため、2020年にはモノの貿易以上にコロナ危機の影響を受けた。2020年のロシアのサービス輸出は469億ドル(前年比25.3%減)、輸入は643億ドル(35.0%減)であり、いずれもリーマンショック直後の2009年以来の低水準になった。


報告
ロシアNIS貿易会令和3年度定時総会報告

 一般社団法人ロシアNIS貿易会は東京の如水会館にて、6月16日に令和3年度定時総会、令和3年度第2回理事会を開催いたしました。定時総会及び理事会では役員が改選され、当会の新体制が発足しました。6年間にわたり会長を務めてきた村山滋・川崎重工業鞄チ別顧問が退任し、代わって飯島彰己・三井物産且謦役が新会長に就任いたしました。定時総会では「令和2年度事業報告」の報告、第1号議案「令和2年度計算書類」、第2号議案「定款の一部変更」、第3号議案「役員選任の件」、理事会では第1号議案「役員(会長、副会長、専務理事)の選定」、第2号議案「顧問の選任」の承認がなされました。
 以下では定時総会において報告された令和2年度事業報告の内容を掲載するとともに、定時総会における来賓の広瀬直経済産業省通商政策局長のご挨拶、また、理事会における村山前会長および飯島新会長の挨拶を掲載いたします。


イベント・レポート
サンクトペテルブルグ国際経済フォーラム2021

 2021年6月2日〜5日、ロシアのサンクトペテルブルグにおいて第24回サンクトペテルブルグ国際経済フォーラム(SPIEF)が開催された。昨年、新型コロナウイルスの影響で中止となり、2年ぶりの開催となった。また、感染拡大して以降、ロシアで初めてとなる大規模な国際会議となった。当会からはモスクワ事務所のスタッフが参加した。本稿では、SPIEFの開催概要を紹介する。(齋藤大輔)


イベント・レポート
SPIEF「日露ビジネス対話」結果概要

 昨年コロナ禍により中止となったサンクトペテルブルグ国際経済フォーラム(略称SPIEF)が、2021年6月2〜5日に2年ぶりに開催された。日本関連の行事では、6月5日(土)に「日露ビジネス対話」が開催された。新型コロナウイルスの感染状況を鑑み、今回の日露ビジネス対話は、ロシア側はサンクトペテルブルグのフォーラム会場で通常どおりに参加し、日本側発言者は東京の会場に集まって、サンクトペテルブルグと東京の会場をオンラインで結ぶというハイブリッド形式で行われた。以下では、「日ロビジネス対話」の概要を報告する。(中居孝文)


インタビュー
ロシアメディアによる村山会長インタビュー

 2年ぶりに開催されたサンクトペテルブルグ国際経済フォーラムの開幕に際し、ロシアNIS貿易会の村山滋会長(川崎重工業特別顧問)が、ロシアメディアのスプートニクインターナショナルからインタビューを受けた。以下ではそのインタビュー記事の翻訳を紹介する。なお、オリジナルの記事(英文)はこちら


ロシアメディア最新事情
行くだけで仕事をした気になった経済フォーラム

 サンクトペテルブルグ国際経済フォーラムに出張に行ってきました。オフィシャルな出張も、ペテルブルグに行くのも久しぶりということで嬉しかったのですが、コロナが収束していない中の開催とあって色々イレギュラーなことがありました。現地での思い出を振り返ってみたいと思います。(徳山あすか)


INSIDE RUSSIA
戦略的安定に道筋をつけた米ロ首脳会談

 6月16日にスイスのジュネーブで、プーチン・ロシア大統領とバイデン米大統領による首脳会談が行われた。1月にバイデン氏が第46代米大統領に就任してから、電話会談こそあったが、両者が直接顔を合わせるのは、これが初めてであった。今回の米ロ首脳会談のキーワードは、ずばり「戦略的安定」であろう。これは、お互いの利害や価値観が相容れないことを前提として、対立関係が制御不能な形でエスカレートすることだけは最低限回避しようという路線である。(服部倫卓)


産業・技術トレンド
ロシアビジネスの勝ち・負けパターン

 ロシアにしばらく関わっていると、どうしてもロシアでの失敗事例の話が入ってくる。こうした失敗事例の当事者は当然のことながら、怨嗟の声を上げる。一方、ロシアでも成功事例だってあり、実際、ロシアのビジネスが会社を支えているという事例も存在する。そうした成功事例の当事者の方々に聞くと、ビジネス上でのロシアのやりやすさを語る。あまりに極端なコントラストに驚くくらいだ。どうも、ロシアビジネスにおける勝ちパターン、負けパターンには一定の傾向があるように見える。これ以上、失敗事例を生むことなく、なるべく多くの方々に成功事例を生んでいただくことの一助となるよう、この勝ちパターン、負けパターンの傾向について分析してみたい。(渡邊光太郎)


ロシア政財界人物録
脱炭素政策の伝道師チュバイス

 世界各国が気候変動問題への認識を改め、脱炭素化へ向けた目標を次々と打ち出すようになった2020年11月、ロシアで行われた冶金産業系のフォーラム演説にて、「グローバルな広がりで技術的変容が起きようとしている現在、ロシアが保守派の意見にしたがって技術的なデッドロックにはまり込むことは戦略的に大きな過ちである」と、チュバイス(当時は国有公社ロスナノ総裁)は発言しました。(長谷直哉)


エネルギー産業の話題
石油大国のロシアでなぜガソリン危機?

 ロシアは世界有数の産油国で、製油部門も発達しており精製能力の合計値は年産約3億tに達します。ところが、その石油大国「ロシア」では定期的にガソリン(および軽油)危機が勃発しています。ガソリンが不足する、あるいはその国内価格が高騰するといった現象が度々発生するのです。今回は、ガソリン危機のこれまでの事例を振り返るとともに、2021年に入り観察されている「ガソリン(軽油)危機」の周辺の事情についてもご紹介します。(坂口泉)


HOW TO ビジネス実務
ロシア税制の未来を読み解く(4)

 本コラムでは、昨今の目まぐるしく変化していくロシア経済の中にあって、国家の収入源である税制は今後どのように変化していくのか、といった視点から未来を読み解いていきます。税制の未来の動きを考えることで皆様のロシアビジネスの将来予測に少しでも有用な情報をお届けできればと思っています。さて、第4回は租税条約をテーマに未来予想図を読み解きたいと思います。(上村雅幸)


シリーズ 工業団地探訪
ウリヤノフスク経済特区(ウリヤノフスク州)

 今回探訪する工業団地は、前回探訪したウリヤノフスク州ザヴォルジエ工業団地に隣接する、ウリヤノフスク経済特区である。この経済特区は本誌5月号の当連載でも簡単に紹介したが、「港湾物流型」の経済特区でありながら、ロシアの工業標準「GOST-R」にも適合した正規の工業団地でもある。さらにこの特区内にはレンタル工場や利用無期限の保税倉庫もあり、ロシアの中でもユニークな施設と言えそうだ。(大橋巌)


デジタルITラボ
スタートアップバロメーターと現代の起業家像

 先日、ロシアのスタートアップ企業に関するアンケート調査レポート「スタートアップバロメーター2021」が発表された。今回はこれを紹介しつつ、ロシアの起業家たちとスタートアップ業界の現在地に迫ってみたいと思う。(牧野寛)


中央アジア情報バザール
ミルジヨエフ政権下のウズベキスタン経済改革

 2021年2月、ウズベキスタンでは憲法および選挙法の改正が行われ、12月実施と規定されている大統領(および議会・地方議会)選挙を10月に修正することを決定した。これにより、2016年12月の選挙で2代目大統領に就任したミルジヨエフ現大統領が5年の任期満了を迎え、2021年10月24日に大統領選挙が行われることになった。ご存知の通り、ミルジヨエフ政権下のウズベキスタンは大きな転換期を迎え、中でも、経済構造改革および投資・ビジネス環境の改善については世界中が肯定的な評価を示している。そこで本稿ではその改革の全容を簡単に振り返ってみることにしたい。(中馬瑞貴)


おいしい生活
ロシア軍も愛食? アウトドア系プロフ缶

 キャンプやハイキングなど、三密を回避できるレジャーがにわかに人気を集める昨今。今回はそんなアウトドアのお供として楽しめる「プロフ缶」をご覧に入れたい。このプロフ缶、実はロシア軍戦闘糧食に封入されているもの。右上の写真の通り、中にはクラッカーやイクラペースト、ジャム、紅茶などの食品類に加え、浄水剤や固形燃料、簡易ストーブも付属している。ここでは本コーナーの趣旨に鑑み、プロフ缶だけをご紹介。(大内悠)


記者の「取写選択」
白夜の少女・明るい夜遊び

 北緯68度の午後10時半。昼間とあまり変わらない日差しがガラス張りのカフェに差し込んでいた。北極圏としては世界最大の30万都市、ロシア・ムルマンスクの夏は白夜の季節。私が訪れた2011年7月、飲食店やゲームセンター、映画館などが入居する大型ショッピングモールは、若者のたまり場になっていた。(小熊宏尚)