ロシアNIS調査月報
2024年4月号
特集◆ロシア・中央アジアの
エネルギーをめぐる攻防
 
特集◆ロシア・中央アジアのエネルギーをめぐる攻防
調査レポート
ロシア産石油禁輸及び価格上限措置の実効性
―対露制裁の現状と効果―
調査レポート
UAEとロシア・中央アジア関係
―エネルギー関係を中心に―
調査レポート
2023年のロシア電力分野の回顧
―クロス補助と対ロ制裁がもたらすリスク
調査レポート
制裁下の北極海航路と北極圏LNGプロジェクト
中央アジア情報バザール
中央アジアの脱炭素政策(2)

イベントレポート
日本カザフスタン・ビジネスフォーラム
データバンク
2023年の日本の対NIS主要国貿易統計(速報値)
ミニレポート
日本のウクライナ復興支援の最新動向
データリテラシー
S8キャピタルによる撤退外資買収
INSIDE RUSSIA
ロシアの経済活動分類表における軍需部門の扱い
シベリア・北極圏便り
ロスアトムへのFESCO株式移管
ロシア極東羅針盤
中国自動車メーカーの対ロ戦略
ウクライナ情報交差点
輸出の苦境が目立った2023年のウクライナの貿易
コーカサス情報フォーカス
アリエフ大統領は5度目の就任演説で何を語ったか
ロシアメディア最新事情
新顔バレエコンクールで日露文化交流へ期待感
ロシア音楽の世界
ショスタコーヴィチ 交響曲第7番レニングラード
シネマで見るユーラシア
ラスト・ツァーリ:ロマノフ家の終焉
業界トピックス
2024年2月の動き
ロシアを測るバロメーター
2024年2月末までの社会・経済の動向
おいしい生活
キルギスKULIKOVのお菓子
記者の「取写選択」
セミパラチンスク核実験場


調査レポート
ロシア産石油禁輸及び価格上限措置の実効性
対露制裁の現状と効果

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)
調査部 調査課長 原田大輔

 本稿では過去1年の制裁動向を振り返りながら、欧米の制裁の中でとりわけ影響のある石油禁輸の実効性を検証することを目的とする。また、天然ガスの禁輸についてはG7全体では踏み込めていないが、次第にその様相を示し始めている現状について、どのような影響があるのかを分析する。


調査レポート
UAEとロシア・中央アジア関係
―エネルギー関係を中心に―

公益財団法人中東調査会 主任研究員
高橋雅英

 UAEは外交・安全保障面で米国と友好関係を構築してきた一方、この数年はロシアとの繋がりも強くなっている。また、UAEは中央アジア5カ国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)との二国間関係の強化を図るなど、中央アジアへの進出を加速させている。本稿では、エネルギー分野を中心にUAEのロシア・中央アジア関係について考察し、UAEがロシア及び中央アジア各国との結びつきを強める理由を分析する。


調査レポート
2023年のロシア電力分野の回顧
―クロス補助と対ロ制裁がもたらすリスク―

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉

 表面的な数字を見る限り、ウクライナ戦争後もロシアの電力分野の状況は安定しており、2023年の総発電量は前年の数字を上回った。ただ、目を凝らすと、2つの大きな懸念材料が浮かび上がってくる。1つは、クロス補助の問題である。クロス補助とは、大雑把に言えば、住宅用電力料金の水準を低く抑えたり、発電ユニットの新規建設を促進するために産業需要家に割高の電力料金を適用する制度のことであるが、近年、産業需要家の負担が加速度的に大きくなっている。
 もう1つは、対ロ制裁に関連する懸念材料である。ロシアは発電用の中大型ガスタービンを自力では生産することができず、西側諸国からの輸入品にほぼ全面的に依存してきたのだが、対ロ制裁の影響で部品の調達が困難になり、設置済みの西側諸国製ガスタービンの修理・メンテナンスに支障が生じ始めている。また、西側諸国からガスタービンを輸入することが不可能になった関係で、新発電ユニットの建設プロジェクトにも否定的影響が及ぶようになっている。西側の制裁が長期化すれば、新発電ユニットの建設が大幅に遅れるのはもちろんのこと、修理・メンテナンスができないため操業を停止する発電ユニットが続出する可能性も考えられる。換言すれば、そう遠くない将来、ロシアが発電容量不足という厳しい現実に直面する可能性もありうる。
本稿では、列挙したつ2の懸念材料に留意しながら2023年のロシアの電力分野を回顧する。


調査レポート
制裁下の北極海航路と北極圏LNGプロジェクト

独立系アナリスト
チムール・クラフメトフ

 ウクライナ侵攻に伴って制裁が導入されたことにより、ロシアは原油および石油製品、ガス、石炭といった天然資源の供給先である西側の販売市場から切り離されることになった。西側諸国の制裁により、数十年にわたって機能してきた炭化水素製品の欧州への輸出経路が破壊され、ロシアは新たな販売市場の開拓を余儀なくされたが、東の方向にはインフラが整備されていなかったため、それは容易なことではなかった。かかる状況を踏まえ、ロシア政府は、炭化水素資源の輸出先の転換、新たな輸出ルート創出の方策の1つとして、北極海航路に近いロシア北極圏におけるプロジェクトの開発に注目している。ロシア北極圏には天然資源採掘プロジェクトが数多くあるが、本稿では特に液化天然ガス(以下、LNG)プロジェクトについて取り上げる。その理由として、1つにはLNG輸送が北極海航路において重要であること、また別の理由としては、ロシアのLNG生産企業−具体的にはノヴァテク−が、制裁圧力下にありながら、少なくとも2023年12月までは、極めて順調に、LNGプロジェクト(アークティックLNG2)の建設を進めており、アジアとヨーロッパの市場への輸出も行っていること、がある。


中央アジア情報バザール
中央アジアの脱炭素政策(2)

 中央アジアの脱炭素政策について、前号では日本で中央アジアの脱炭素政策に関心が向けられている背景としてJCMの締結や「中央アジア+日本」対話でのアジェンダとなっていることなどをご紹介した。2回目となる本稿では、中央アジア各国の政府が掲げている戦略やプログラムをご紹介する。(中馬瑞貴)


イベントレポート
日本カザフスタン・ビジネスフォーラム

 2024年1月12日(金)、ロシアNIS貿易会(ROTOBO)、日本カザフスタン経済委員会、カザフスタン国家企業家会議所「アタメケン」が主催する日本カザフスタン・ビジネスフォーラムがカザフスタン共和国アスタナ市(於:シェラトン・アスタナ)にて開催されました。
本フォーラムでは、副題として「日本とカザフスタン二国間協力優先分野としてのGXとDX」を採用していることからわかるように、両国間において関心が非常に高いGX(グリーントランスフォーメーション)およびDX(デジタルトランスフォーメーション)分野での協力を展望し、両国の官民関係者による報告が実施されました。以下、日本カザフスタン・ビジネスフォーラムの概要を紹介いたします。


ミニレポート
世界のウクライナ復興支援をめぐる最新動向

 2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻以降、欧米を中心とする西側諸国はウクライナ支援を続けている。しかし、ウクライナ支援の中核を担う欧州で、ウクライナ産の穀物輸出において不利益を被る一部の国がウクライナ産穀物の輸入を拒否したり、米国議会でウクライナ支援に関わる予算が否決されたりと、ウクライナ支援に後ろ向きな動きが見え始め、メディアを中心に「ウクライナ支援疲れ」という言葉が取り上げられるようになった。さらには、ウクライナによる反転攻勢がうまくいっていないことが明らかとなり、ウクライナ勝利に向けて支援してきた欧米の方針転換もあり得るというような論調も出ている。  しかし、たとえ「疲弊」していようとも、支援が止まることはない。2024年2月1日、EUは紆余曲折を経たものの、ウクライナへの500億ユーロ(約7兆9,500億円)の追加支援を決定した。同じく2月に日本では初となる大規模なウクライナ復興支援会議が行われる。本稿では、世界の動向についてアップデートする。併せて、EUの足並みがそろわなかったり、米国議会が支援継続に待ったをかけたりと、支援継続への障壁が出ている現状について考察することにしたい。(中馬瑞貴)


データリテラシー
S8キャピタルによる撤退外資買収

 S8キャピタルという企業をご存じでしょうか。2022年7月に昇降機メーカーの米OTIS子会社、2023年3月にタイヤ大手の独コンチネンタル子会社、同5月初めに独ボッシュがサラトフ州に保有していた3つの子会社、同月末にはロシアのタイヤ生産大手のコルジアント、2023年12月にはブリヂストンのロシア事業(ウリヤノフスク工場)、2024年1月には化学製品製造の米ハンツマン子会社、同3月にはフィンランドの昇降機メーカーKONE子会社、これら7案件すべてにおいて、買収を実施した企業と言えば分かりやすいかと思います。ロシアによるウクライナ全面侵攻後の対ロ経済制裁を考慮してロシア市場からの撤退を選択した、日米欧企業の資産を積極的に買い取っているロシア企業の1つとなります。撤退外資を買収するロシア企業自体は珍しくありませんが、同社は自社事業に全く関係のない事業買収へ手を出していることに特徴があります。(長谷直哉)


INSIDE RUSSIA
ロシアの経済活動分類表における軍需部門の扱い

 前号掲載の拙稿「ロシアの軍需産業は覚醒したのか」では、統計局のデータにもとづき、現状でロシアの鉱工業生産を牽引しているのが軍需関連部門であることを論じた。筆者はその後、「全ロシア経済活動分類表(OKVED-2)」を参照し、様々な軍需品がどの鉱工業部門に属しているか、そして統計局がそれらのデータ開示についてどのような対応をとっているかをより具体的に確認したので、以下報告する。(服部倫卓)


シベリア・北極圏便り
ロスアトムへのFESCO株式移管

 2023年11月、ロスアトムがロシア最大手の海運企業であるFESCOの経営権を取得するという衝撃的なニュースが駆け巡ったことは記憶に新しいかと思います。同年11月8日付の大統領令第845号により、FESCO株式のロスアトムへの移管が決定されました。この決定が出た直後のコメルサント紙によるインタビューにて、セヴェリロフFESCO会長は「(大統領令は)我々にとって驚きだった。判例に基づき、当社資本のかなりの部分が国家にとって有利な条件で移管された。このプロセスの中で我々は、最終的にどの分野のどの企業に株式が移管されるのか全く理解していなかった。」と回答していることから、FESCO自身にとっても急転直下の展開であったことは明らかです。FESCOは北極海航路を介したコンテナ輸送に取り組み始めていましたから、同航路運用に関して広い権限を有するロスアトムが同社株式を取得することは事業判断としてあり得ないことではありません。しかしながら、あまりにも唐突なこの決定の背景には何があったのでしょうか。(長谷直哉)


ロシア極東羅針盤
中国自動車メーカーの対ロ戦略

 中国の自動車メーカーがこぞってロシアに進出している。撤退した西側メーカーの販売店では、中国車への衣替えが進む。侵攻前まで中国車の販売店がなかった極東地域では、中国メーカーの店舗が続々と誕生している。(齋藤大輔)


ウクライナ情報交差点
輸出の苦境が目立った2023年のウクライナの貿易

 2022年2月以降、ウクライナがロシアによる軍事侵攻にさらされても、ウクライナ統計局による貿易統計の発表は続いている。2023年の貿易実績も今般無事に発表されたので、今回は恒例によりこのデータを紹介する。(服部倫卓)


コーカサス情報フォーカス
アリエフ大統領は5度目の就任演説で何を語ったか

 2024年2月7日にアゼルバイジャンで前倒しの大統領選挙が行われ、現職のイリハム・アリエフ大統領が92.12%の得票で再選を果たした(投票率76.73%)。事前の予想通り、アリエフ大統領は他の候補者に大差をつけて勝利し、2003年10月の就任以来、5期目の再選となった。今回の圧勝は、2023年9月にアルメニアからカラバフ地域を奪還した功績が大きく影響している。この功績を後ろ盾に勝利を確実なものとすべく、選挙が前倒しされたと考えられている。独立以来、30年以上も抱えてきた国家の最重要課題を解決に導き、盤石な体制を築いたアリエフ大統領は次にどんな課題に挑むのか。本稿ではすでに5度目となった就任演説の概要を紹介し、彼の功績を振り返るとともに、新たな課題について展望する。(中馬瑞貴)


ロシアメディア最新事情
新顔バレエコンクールで日露文化交流へ期待感

 2月20日から27日にかけて、モスクワで行われた新しいバレエコンクール「希望のグランプリ」を取材しました。グランプリに選ばれたのはボリショイ劇場若手ダンサーのイワン・ソローキンさん。女性部門1位と観客賞をダブルで受賞したのは、日本とロシアのルーツを持つ、スタニスラフスキー・ネミロヴィチ=ダンチェンコ劇場のバレリーナ、杉崎ポリーナさんでした。閉塞感あふれるロシアにおいて、久々に明るい話題を取材することができました。(徳山あすか)


ロシア音楽の世界
ショスタコーヴィチ 交響曲第7番レニングラード

 プロコフィエフ交響曲第5番、ハチャトゥリアン交響曲第2番「鐘」と並ぶ、ソ連3大「戦争交響曲」の3つ目の大曲をご紹介する。これも、過去に紹介した2曲と同様、対独防衛戦「大祖国戦争」に呼応して作曲された名曲。1941年6月22日、ナチスドイツ軍がソ連に宣戦。ドイツ軍は、あっという間に旧都レニングラードに迫った。ナチス軍はソ連第2の都市、旧都レニングラードを872日にも渡って包囲したが、この都市は極寒と飢餓の中で犠牲者を出しながらも、包囲に対抗し耐え抜いた。この間、レニングラードの最高指導者は、スターリンの後継者の有力候補だったジダーノフであった。開戦してほぼ1か月後、極限状態の中でレニングラード交響曲を書き始めた天才作曲家こそショスタコーヴィチだった。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


シネマで見るユーラシア
ラスト・ツァーリ:ロマノフ家の終焉

 米国で放映されたドラマ全6話がネットフリックスで配信されている。ニコライ2世が皇帝に即位した1884年からロシア革命後の1918年に幽閉先のエカテリンブルグで一家ともども殺害されるまでを描いた作品である。冒頭は1925年のベルリンの病院。ロマノフ家の家庭教師だったピエール・ギラードがある女性を見舞いにくる。精神に異常をきたして入院中の彼女に、ロマノフ家の4女、アナスタシアではないかと思わせる言動がみられる、と担当医から聞いたからだ。(芳地隆之)


おいしい生活
キルギスKULIKOVのお菓子

 最近、キルギスのお菓子が美味しくておしゃれでびっくりする。ビターチョコレートのカップに、ホワイトチョコレートのミルクの泡、その上にはほろ苦いコーヒーの粉がトッピングされている。ホワイトチョコレートの下にはトロトロのキャラメルが入っていて、いろんな味が口の中に広がる。雪の結晶のアイシングクッキーもカップデザートも美味しい。どれも甘すぎないのがいい。(斉藤いづみ)


記者の「取写選択」
セミパラチンスク核実験場

 一面の枯れ野原に、爆発力や放射線量などを計る施設の廃墟が点在していた。10月の冷涼な風がカザフスタンの大地を吹き抜ける。ソ連の核実験場の跡地で、かつて死の灰が降った日々を想像してみた。(小熊宏尚)