ロシアNIS調査月報
2024年7月号
特集◆世界需給に影響を及ぼす
ユーラシアの資源
 
特集◆世界需給に影響を及ぼすユーラシアの資源
講演録
2024年の中央アジアを展望する
―ウクライナ戦争2年目の地政学―
調査レポート
2023年のロシアの石炭分野の回顧
―国際価格下落という逆風―
調査レポート
中央アジアにおける水資源とエネルギー
―歴史と現状、展望―
調査レポート
ロシアのアルミニウム産業1
―外国に依存する原料と市場―
エネルギー産業の話題
旧ソ連諸国の石油ガス分野
INSIDE RUSSIA
対ロシア・ダイヤモンド制裁の効果のほどは?
中央アジア情報バザール
中央アジアの脱炭素政策(4)

調査レポート
2023年の中国とロシアの貿易
―統計が映し出す蜜月ぶり―
ミニレポート
「発展戦略」にみるロシア製造業の課題
データリテラシー
制裁下ロシアにおける工作機械生産の増加
ロシアメディア最新事情
「戦利品」展示会取材:国内外の反応
ロシア政財界人物録
ベロウソフとは何者か
ドーム・クニーギ
黒川信雄著『空爆と制裁―元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』
ウクライナ情報交差点
中銀資料にみるウクライナ経済の現況
シネマで見るユーラシア
『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』
ロシア音楽の世界
ボロディン 弦楽四重奏曲「夜想曲」
業界トピックス
2024年5月の動き
通関統計
2024年1〜3月の対ロシア・NIS諸国輸出入通関実績
おいしい生活
アルメニアのぶどうの葉のトルマ
記者の「取写選択」
欧州歴史館とソ連


講演録
2024年の中央アジアを展望する
―ウクライナ戦争2年目の地政学―

D.サトパエフ/O.チェルビンスキー/A.ゼイナロフ

 (一社)ロシアNIS貿易会では、2024年3月14日に東京にて中央アジア・コーカサス地域等産業協力・企業間交流セミナー「2024年の中央アジアを展望する〜ウクライナ戦争2年目の地政学〜」を開催しました。その内容をご報告いたします。


調査レポート
2023年のロシアの石炭分野の回顧
―国際価格下落という逆風―

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉

 ウクライナ戦争が始まった2022年にロシアの石炭分野は対ロ制裁という逆風に直面した。この状況の大きな変化を受けロシアからの石炭輸出量が激減し、生産量も大幅に減少するのではないかとの見方も出ていたが、結局、そのような事態は生じなかった。ロシアの採炭企業が輸出先を中国やインドなどに迅速にシフトし、輸出量の減少幅を最小限に抑えることに成功し、内需も増加したので2022年の生産量は若干ではあるが前年を上回った。また、ガスの国際価格上昇を受け石炭の国際価格が年初から夏にかけ高い水準で推移したことも、輸出依存度の高いロシアの石炭分野に大きな恩恵をもたらした。
 2023年も数量ベースの数字を見る限りでは大きな変化はなかった。国内消費量が若干減少したものの、輸出先の東方シフトがさらに進み輸出量が前年を若干上回ったので、生産量はほぼ前年並みであった。ただ、ウクライナ戦争後に高騰していたガスの国際価格が2022年秋頃から下落に転じたことを受け、石炭の国際価格(輸出価格)も下降線を描き始め輸出の利益率が大幅に低下し、輸出依存度の強いロシアの大手採炭企業の業績は全般的に悪化した。ロシアの石炭分野にとって、2023年の方が2022年よりも厳しい年だったと言えよう。本項では、石炭の国際価格下落という逆風に晒されたロシアの石炭分野の2023年を回顧する。


調査レポート
中央アジアにおける水資源とエネルギー
―歴史と現状、展望―

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
齋藤竜太

 本稿では中央アジアにおける水力発電および水資源開発の歴史と現状、および課題について概観するとともに、今後の開発へ向けた展望について考察する。中央アジア諸国は水力発電や水資源開発を巡って、ソ連時代の大規模な開発とそれに伴う環境破壊、独立後の国家間対立など、様々な軌跡を経てきた。そして現在、地域内外の政治状況などからモメンタムを得て、開発へ向けた動きが加速している。
中央アジア諸国におけるエネルギー資源といえば、石油や天然ガスといった化石燃料が注目を集めてきた。しかし本稿で述べるように、水力発電はソ連時代からの長い開発の歴史を有しており、地域内各国が進める脱炭素政策や、地域内諸国の国際関係、隣接するアフガニスタン情勢との関係において、注目に値するトピックであると思われる。


調査レポート
ロシアのアルミニウム産業1
―海外に依存する原料と市場―

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 
研究員 渡邊光太郎

 ロシアはアルミニウム大国として知られる。中国企業の急拡大により、その座を譲り渡したが、かつてルサール社は世界最大のアルミメーカーと呼ばれた。ロシアは確かにアルミニウム大国だが、「アルミニウム大国」との言葉は過大評価を生む。ロシアで競争力があるのは、一次アルミニウムの生産のみである。資源が豊かであるわけでも、多種多様なアルミニウム製品を製造しているわけでもない。
ロシアは資源大国と理解され、実際に化石燃料が経済を支える。しかし、種類によっては資源に乏しい金属もある。現在、戦略的金属資源の確保がロシアで課題になっている状況である。ロシアのアルミニウム産業も、金属資源の賜物と誤解されがちである。ロシアはアルミニウム資源に乏しく、原料の輸入に頼ってきた。一方、ロシアは機械工業が未発達であるため、アルミニウムの需要にも乏しい。製造した一次アルミニウムは付加価値が低い状態で輸出される。原料も市場も海外依存度が高い。制裁は海外依存の部分に効く。ロシアのアルミニウム産業は制裁の大きな影響を受けている。
本稿ではロシアのアルミニウム産業の概要を描き、制裁に脆弱な体質を明らかにする。次回の原稿で制裁の影響を分析する。


エネルギー産業の話題
旧ソ連諸国の石油ガス分野

 本稿では、旧ソ連諸国の資源基盤の状況をご紹介します。世界有数の石油ガス生産国であるロシア同様に、石油生産量も多いカザフスタンとアゼルバイジャンは近年、ガスの生産でも注目されています。また、世界第4位の天然ガス埋蔵量と言われるトルクメニスタンおよび枯渇が顕著ながらも石油ガス生産を続けるウズベキスタンについてもごく簡単ですが言及します。(坂口泉)


INSIDE RUSSIA
対ロシア・ダイヤモンド制裁の効果のほどは?

 ロシアは世界最大のダイヤモンド産出国である。ロシアのダイヤモンド採掘業はアルロサ社がほぼ独占しており、ロシア全体の採掘量のうち95%が同社によるものである。その圧倒的な中心は極東のサハ共和国で、同社の本社もサハ共和国ミールヌィに所在するが、近年ではアルハンゲリスク州での開発も進めている。アルロサ社による最新の国内採掘比率は、サハ共和国が78%、アルハンゲリスク州が22%となっている。ダイヤモンドは、ロシアの輸出総額や連邦財政歳入への貢献度では、石油・ガスなどに遠く及ばない。しかし、サハ共和国の地域経済に帯びている重要性は計り知れない。
ロシア産ダイヤモンドは、ウクライナのゼレンスキー大統領が制裁対象に加えることを侵攻初期から提唱していた分野である。その調整は難航したが、ようやく2023年12月にG7がロシア産ダイヤモンドへの制裁で足並みを揃えた。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
中央アジアの脱炭素政策(4)

 本連載では中央アジアの脱炭素政策について取り上げてきた。今回の4回目で最終回とさせていただく。日本政府が中央アジアとの協力において注目する脱炭素分野であるが、すでに協力を推進し、関係強化を具体化している第三国も多い。そこで本稿では、諸外国の中央アジアにおける脱炭素分野での協力事例について紹介する。(中馬瑞貴)


調査レポート
2023年の中国とロシアの貿易
―統計が映し出す蜜月ぶり―

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 部長
齋藤大輔

 かつてロシアの貿易相手国といえば、ドイツや日本など西側諸国が上位を独占してきた。それはロシアがソ連解体後の疲弊した経済を立て直す上で自ら望んだことでもあった。そしていま、西側の強力な制裁で、ロシア経済は転換点に立つ。対外貿易はとりわけ変化が大きい。
 ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、ロシアと中国が連携を一段と強めている。通算5期目に入ったプーチン大統領は5月、北京で習近平国家主席と会談し、両国の結束を確認するとともに、軍事、宇宙から投資、貿易、文化まであらゆる分野で協力を拡大することで合意した。昨年の両国の貿易額は2,400億ドルと過去最高を更新した。2023年の中ロ貿易を振り返るとともに、今後を展望してみたい。


ミニレポート
「発展戦略」にみるロシア製造業の課題

 2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を機に発動された西側諸国の大規模な対ロ制裁によって、これまで西側から輸入してきた機械・設備や部品の入手が困難になったことで、ロシアの製造業は「発展戦略」の見直しを迫られた。2023年9月、ロシア政府は2020年6月に承認した「ロシアの製造業発展戦略」を実施期間わずか3年で大幅に改定することを余儀なくされた。以下では、2023年9月9日付ロシア政府決定第2436号によって承認された「2030年および2035年までのロシアの製造業発展戦略」を手掛かりにロシアにおける製造業の課題を主として図表にて整理する。(中居孝文)


データリテラシー
制裁下ロシアにおける工作機械生産の増加

 現在のロシア経済が軍需に支えられている、または「戦時経済化」しているとの議論が活発になってきています。ロシア側統計で非公開となったデータが増えてきていることから、この実態をつかむことは非常に困難ですが、過去の本誌では、歳出における国防費の大幅な増加が見られること、また軍需が鉱工業生産をけん引していることなどについて指摘してきました。
 こうした議論を前提に、本稿では軍需を含む製造業において不可欠である、金属切削用工作機械(以下、工作機械)のロシア国内生産状況について整理しておきます。ここでの内容は、直接的に軍需産業について言及するものではありませんが、ロシアが経済制裁に一定の適応を見せ、鉱工業生産の拡大を可能としている背景の理解につながるかと思います。(長谷直哉)


ロシアメディア最新事情
「戦利品」展示会取材:国内外の反応

 5月1〜31日まで、モスクワの戦勝記念公園で、欧米が供与した戦車やドローンなど「戦利品」の展示会が行われました。主催はロシア国防省で、路上には戦車など大型車両が立ち並び、ブースの中には、たくさんの軍事装備品が展示されていました。展示会は大盛況のうちに終了。会場の様子や、国内外の反応についてお伝えします。(徳山あすか)


ロシア政財界人物録
ベロウソフとは何者か

 通算5期目となるプーチン大統領の就任後に実施された新政権人事において大きく注目された出来事の1つがベロウソフ氏の国防大臣への就任です。ベロウソフ氏は、前職の第一副首相を含め、経済テクノクラートとして長く政権に仕えてきた人物です(2000〜2006年に当時の首相外部顧問、2006〜2008年に経済発展貿易省次官、2008〜2012年に首相府経済・財政局長、2012?2013年に経済発展大臣、2013〜2020年に大統領補佐官、2020〜2024年に第一副首相、同年5月より国防大臣)。これまでも国防産業支援やドローン開発促進など関連業務に関わってきた経験は有していますが、武力省庁トップとしての業務は初めての経験であり、どのような手腕を示すのかが注目されています。筆者としてもこの人事異動はロシア経済の今後にとって非常に重要な動きの1つであると考えており、本稿では「ベロウソフ氏とは何者か」という観点から、彼のこれまでの発言や業績、研究著作の内容の分析を通じてその理由について回答したいと思います。(長谷直哉)


ドーム・クニーギ
黒川信雄著『空爆と制裁―元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』

 『空爆と制裁』、ウクライナとロシアの現状を象徴する言葉として、これ以上ふさわしいタイトルがあるだろうか。著者は産経新聞の元モスクワ特派員である黒川信雄記者である。本書は同記者が2022年に空爆下のウクライナと制裁下のロシアを訪問し、対照的な状況下にある両国で多くの人々や現場を取材した際、市井の人々から聞き取った生の声や実地に目撃したことを軸に内容が構成されている。(中居孝文)


ウクライナ情報交差点
中銀資料に見るウクライナ経済の現況

 ウクライナ中央銀行は5月27日、同国の経済概況に関するレポートを発表した。以下では、その主要部分を抄訳することで、ウクライナの最新の経済状況を探ることにする。(服部倫卓)


シネマで見るユーラシア
赤い闇 スターリンの冷たい大地で

 1932〜1933年にかけてウクライナを襲った大飢饉で数百万の人々が亡くなったとされる「ホロドモール」を描いた作品である。
 主人公のガレス・ジョーンズは実在の人物だ。英国元首相であるロイド・ジョージの外交顧問を務めていた。ジョーンズはドイツで政権を握ったアドルフ・ヒトラーへのインタビューを敢行していた。宣伝相のヨゼフ・ゲッペルスとも接触しており、ナチスの危険性をロイド・ジョージと彼の側近に訴えるも、「それはドイツの国内問題だ」と一笑に付され、挙句に顧問の職を解かれた。(芳地隆之)


ロシア音楽の世界
チャイコフスキー「感傷的なワルツ」

 今回は23時過ぎに毎晩のようにラジオから流れてきて聴いていた、静かで美しい名曲をご紹介する。
 本コラムでも、第31回「中央アジアの草原にて」と第41回「だったん人の踊り」で、2曲の代表作をご紹介した、ボロディンの作品である。
 この弦楽四重奏曲第2番の第3楽章「ノクターン(夜想曲)」は、NHKラジオの夜の音楽番組のテーマ音楽に使われ、夜を想う曲:ノクターンとしては最高の抒情美を湛えており有名になった。不眠症の方、眠れない夜がある方には、超絶「推し名曲」である。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


記者の「取写選択」
欧州歴史館とソ連

 欧州連合(EU)欧州議会の附属機関として「欧州歴史館」(House of European History)がベルギー・ブリュッセルの丘の上に誕生したのは2017年5月。象牙色の4階建ての建物は「欧州」という概念が生まれた遠い過去から戦乱、分断、そしてEUという名の大欧州の誕生まで、波乱と矛盾に満ちた大陸の歴史が俯瞰できる。ソ連を盟主とした旧ワルシャワ条約機構やコメコンのポスター、東側観光PRパネルなども展示され、旧ソ連マニアにも興味深い。(小熊宏尚)